150.でろんと溶けてるニワトリスたちと、いろんな話を聞く俺

 シュワイさんは不機嫌そうだった。

 美形の不機嫌とか破壊力抜群だからやめてほしい。申し訳ありませんでしたっ! とか土下座したくなってしまう。しないけど。


「……勇者は、魔法を生涯で十九覚える者として魔法師協会に招待された。それで魔法師の学校にしばらく通っていた。その時に知り合ったんだ」

「二十じゃなかったんだ……」


 勇者は魔法を二十は覚えるようなこと聞いたのに。


「ツッコむところがそことかっ!」

「オトカ君面白いわぁ!」


 何故かセマカさんとリフさんに笑われてしまった。だって勇者じゃん! シュワイさんが生涯で十八覚えるんだろ? もっとすごい数覚えると思うじゃんかー。

 クロちゃんをぎゅっとする俺も不機嫌になった。でもすぐにもふもふに癒されてしまう。クロちゃん柔らかい、かわいい。

 クロちゃんの羽毛に顔を埋めた。幸せ。


「オトカー」


 しかも嬉しそうだしー。

 って話が進まない。(定期)

 しかたなく顔を上げる。


「えーっと、僕は勇者のことって全然知らないんですけど……勇者ってすぐにわかるものなんです?」

「ああ、そうらしいぞ。教会に行けばそういう特別な称号も見れるらしい」


 シュワイさんに言われてゲッと思った。それで”ニワトリスの加護”が見えてたんだな? でも鑑定魔法で出てくるぐらいだから教会でなら普通にわかるのかな。やだなぁ。


「へー。じゃあその人は八歳の時に勇者って認定されたんですねー」

「そういうことになるな」

「どんな人でした?」


 そう聞けば、シュワイさんは目を逸らした。セマカさんとリフさんを見ると、二人も明後日の方向を見た。……なんか困った人なんだろうか。やだなぁ。


「歳は……今二十歳か。好奇心旺盛で、周りを引っ張っていく……リーダーシップはあったぞ」


 ぶふぅっとセマカさんとリフさんが噴いた。物は言いようってやつか。


「そうだったんですねー」


 関わり合いにならない方がよさそうだ。

 勇者はともかくとして、魔王の復活もやめてほしい。


「僕、全然魔王とか知らないんですが、もし魔王が復活したらどうなるんですか?」

「……魔王が前に復活したとされるのが約二百年ほど前だから、伝承でしかないが……各地の魔物が増えたり凶暴化したりすることが確認されている。魔王は絶対的な悪とされてはいるが、せいぜい国を一つ潰してそこに君臨していただけのようだ。ただ、攻めてくる者たちには容赦はなかったらしい」

「じゃあ勇者は魔王を倒さなかったんですか?」

「倒しはしたが、それから十年ほどは魔物の発生状況もあまり変わらなかったそうだ。そう考えると二百年前の魔王も本当に魔王だったかどうか疑わしい」


 シュワイさんは冷静だった。


「……それはあるかもな」

「都合が悪いからそれを魔王に仕立て上げたのかもしれないしねぇ」

「なんにせよ、面倒なことだ」


 なるほど、と俺も頷いた。


「……称号って、教会で見られるんですよね? 魔王もそうだったんですかね?」

「……普通の人間に魔王という称号があった可能性か。それはそれで面白いな」


 シュワイさんが笑む。


「あ、でも復活ってことは……違うんですかね?」


 復活って誰かにその称号があるんじゃなくて、どこかからいきなり生まれるようなイメージがある。


「調べてはみたいが……それよりもまず肉の回収かな?」

「エモノー!」

「オトカー!」


 肉と聞いて羅羅の上ででろんと溶けていたシロちゃんがバッと身体を起こした。なんて現金な女子なんだ! それにクロちゃんも反応する。だからその言い方だと俺が獲物になっちゃうでしょっ。


「出かけようか」

「俺らはのんびりしてるわ」

「よろしく~」


 セマカさんとリフさんは部屋に残るらしい。俺とシュワイさんは従魔たちと共にギルドの倉庫へ直行した。


「おう、できてるぞ」

「うわぁ……」


 解体専門のおじさんたちが疲れた顔をして俺たちを迎えた。


「……もう少し自重してくれると助かるんだがな? ま、魔石も毛皮も換金するからいいけどよ。でもポイズンボアの肉なんてどうするんだ? 廃棄するなら専門の業者に頼まねえとだめだぞ」

「うちの従魔たちが食べるので大丈夫です。ありがとうございます」


 ポイズンボアと聞いて、もう羅羅の口からよだれが……って早いよ。

 肉を全部回収できたことでシロちゃんは上機嫌だ。


「ポイズンボアの肉はオトカが調理するしかないか」

「こればっかりは俺でないと無理ですねー」


 やっぱ料理とか真面目に習った方がいいんだろうか。俺だと焼くぐらいしかできないしな。

 そんなことを思いながらまたホテルに戻る。

 羅羅たちが待てない様子だったのでポイズンボアの肉を切り分けて庭部分で出した。ピーちゃんには毒草をあげた。


「うまいのぅ」

「オイシー!」

「オトカー」

「オイシー」


 やっぱポイズンボアの肉ってうまいんだな。俺も後で焼いて食うしか。

 ちなみに、ピーちゃんに試しにポイズンボアの肉の欠片をあげたら、


「オイシー。イラナーイ」


 と言われた。味はよかったけど見た目とか食感が嫌だったのかもしれない。なかなかに複雑みたいだ。

 夕飯の後に自分で焼いてみた。焼いたことである程度毒は抜けたけど、やっぱうまいなと思ったのだった。


次の更新は、十二日(木)です。よろしくー

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