130.モールを狩るニワトリスたちと、いろいろ手際が悪い俺

 依頼人である畑の関係者六名(真ん中の畑の二人+周りの畑の方々)と冒険者ギルドの面々を集め、まず全ての畑に土魔法で壁を作るという話をした。

 依頼人のおじさんたちは一瞬意味がわからなかったみたいだ。だけど理由に思いいたった人が、


「それは是非やってもらいたい! それでモールが入ってこないようにできるかい?」

「はい、土魔法で上に20cm程度の柵ができまして、土中は1mぐらい壁を作ってもらいます。水を引く部分は避けます。それだけで外からモールが入ってくる可能性はかなり減ると思います」

「おお!」

「それはいい!」

「是非やってくれ!」


 おじさんたちが口々に言う。そうだよなぁ、と思った。


「それはただなんだろうな? 依頼料以外は払わんぞ!」


 真ん中の畑の持ち主であるどケチおじさんが怒鳴るようにして言った。そのおじさんの方へシロちゃんが身体を向ける。


「ひいいっ!」


 どケチおじさんは転がるように5mぐらい逃げた。ニワトリスは怖いらしい。


「もちろんただでやります。そうすればどの畑でどれだけモールがいたかわかりやすいですし、今後モールが入ってくることもほとんどなくなるでしょう」


 俺は笑顔でそう説明した。周りの畑のおじさんたちは、ああ、というように頷いた。

 俺の意図がわかったみたいだった。


「そ、それならいい!」

「もう、父さんは……」


 どケチおじさんの横にいる青年は息子さんのようだ。農作業をしているからしっかりした身体つきをしているが、気弱そうに見える。青年はぺこぺこと俺たちに頭を下げた。

 実際モールは1m以上土中を潜ってまで移動はしないし、その逆に地上に出て移動なんてことはほとんどしない。地上に出ても這って進むから20cmも壁があればそこを乗り越えてまでどこかの畑へ侵入することもないのだ。一番気になるのは取水口だが、そちらからわざわざ出入りするということも考えづらい。


「じゃあ始めよっか。羅羅ルオルオ、よろしく」

「オトカ、乗れ」

「はーい」


 というわけで羅羅の上に再び乗り(クロちゃんシロちゃんも一緒)、全ての畑に壁を作ってもらった。シュワイさんはピーちゃんとみなのところに残った。


「お待たせしました。作業を始めましょう~」

「……すごいね。これは君の魔法かな?」

「いえ、ブルータイガーの羅羅がやってくれたんですよ」

「従魔も魔法が使えるんだね」


 イカワさんに聞かれて答えた。みな羅羅の魔法に感心する。


「……なんということもない」


 そう言っているが、羅羅の尾がバシバシ振られているから誉められて機嫌よくなっているということはわかった。なんかかわいい。


「じゃあ僕たちは先に真ん中の畑のモールを駆除します。その後で南西の畑のモールを駆除しますので、少し待っててくださいね」

「ああ、頼むよ」


 南西の畑の持ち主のおじさんはそう言って笑った。まだそちらの方が数が少ないはずだから、一、二時間待ってもらっても大丈夫だろうという判断だ。


「ピーチャン、サガスー?」


 ピーちゃんがシュワイさんの肩に乗ったままコキャッと首を傾げた。


「……いや、ここの畑はいいかな」


 真ん中の畑の惨状を見て、俺はため息をついた。

 なんというか、どれだけのモールがいたらここまでひどくなるんだろうっていうぐらい畑がぼこぼこなのだ。これでは生きている野菜はないだろう。

 南西の畑には生き残りが多そうだけど、そっちもどうするかな。他の冒険者パーティは生きている作物を移動させたりはしないだろうし。悩ましいところだ。


「オトカ、何を悩んでいる?」


 シュワイさんに聞かれて、かなわないなと思った。


「いえ、生きている苗はあるのかなって。でもそういうの他のパーティは探したりしませんよね? だからそういうことをやっちゃまずいかなって」


 本音を言えば生きた苗の救出をしたい。でも俺が担当した畑だけサービスしたら不公平だろう。


「その部分はオトカだけがやっている有料サービスにすればいいんじゃないか? 例えば、銅貨5枚で請け負うとかな」

「あー、そういう手もありますね」


 もし生きている苗がなければお金をもらわなければいい。

 他の畑ではそろそろモールの駆除作業が始まりそうだったので、俺はまた羅羅の背に乗って急いで声をかけに向かった。


「生きた苗を探す、だって?」


 ちょうど帰ろうとしていたらイカワさんに声をかけると、イカワさんは目を見開いた。


「それは面白そうだ」


 ってことで改めてまたおじさんたちに声をかけたら、やっぱり周りの畑のおじさんたちは「是非!」と食いついた。提案が遅くてすみません。


「父さん、うちも……」

「ふん、そんなことを言って金を巻き上げる気だろう。がめつい奴らだ」

「オトカ、ここの畑は断るそうだ。先に周りの畑から見て回ろう」


 シュワイさんがさらりと言う。どちらにせよ真ん中の畑には生きた苗は存在しない気がするし。


「じゃあ、先に僕たちの担当の南西の畑から作業していくことにしますね。すみませんが、他の畑の方々はお待ちください」

「わかった」

「助かる」

「ありがとう」

「ほら、父さん。後回しにされちゃったじゃないか」

「やはりがめつい奴らだろうが!」


 なんだかなーと思いながら、南西の畑から順に生きた苗の回収を先にやり、おじさんたちからとても感謝された。それから南西の畑に戻ってモールの駆除を始めることにした。もう真ん中の畑は最後でいいや。壁を作ったからモールも移動しないだろうし。

 モールの駆除に金をかけたくないからってケチって周りの畑にまで被害を広げるなんて論外だ。

 本音を言えばほっておきたいが、そうしたらまた周りの畑の持ち主が困るだろうからあちらも徹底的にやるつもりである。


「十匹、ですね。ちょっと確認しますねー」


 羅羅、シロちゃんクロちゃんと共に畑を掘り返して南西の畑のモールを全部駆除した。で、鑑定魔法を薄くかけて他にもいないかどうか探る。

 うん、完璧。


「いやー、助かったよ。十匹分と、これは苗を生かしてくれた分な」


 南西の畑の持ち主は快く依頼完了の札にサインをしてくれた。苗の分は別に銅貨5枚を受け取る。


「いえいえ、依頼ありがとうございました」


 他の畑ではまだ冒険者たちががんばっているみたいだ。あっちはきっと一日仕事だろうな。


「すまないが、チョウチケの畑も頼むよ……」


 南西の畑のおじさんが申し訳なさそうに言う。


「はい、大丈夫です」


 気は進まないがとっとと終えてしまおう。


「羅羅、シロちゃんクロちゃんよろしくねー!」

「うむ」

「カルー!」

「オトカー」


 クロちゃんや、俺は狩らないでくれよ?


次の更新は、26日(木)です。よろしくー


誤字脱字については、近況ノートをご確認ください

https://kakuyomu.jp/users/asagi/news/16818093081582887529

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