129.やる気満々なニワトリスたちと、性格が悪い俺

「チョウチケは困った奴でなぁ。最初は自分たちでモールを倒すとか言ってな、家族総出でやってたんだが全然捕まえらえなかったんだよ。しょうがなく依頼を出したっつーんだが誰もこないだろ? でうちらの畑にも被害が出始めたからまた依頼を出したんだ。ホント、やってらんないよ……」


 農家のおじさんはよほど不満が溜まっていたらしく、そうイカワさんに愚痴った。

 チョウチケというのはでこぼこになって畑なのかあれ? と言いたくなるような真ん中の畑の持ち主らしい。


「それはたいへんでしたね。いやあ、依頼料が少なすぎたもので受ける冒険者がいなかったのです」

「ああ……アイツはケチだからなぁ……」


 おじさんは頭を掻いた。そういう人が近所にいると困るよな。関わらないですむならいいけど、隣の畑じゃ嫌でも関わらざるをえない。さすがに同情した。

 ちなみに俺は羅羅に乗ったままである。最初おじさんを俺たちの姿を見て怯んだが、他に冒険者たちがいることと、イカワさんが笑顔で話しかけたことで騒いだりはしなかった。それよりもモールの被害の方が困るもんな。首輪も見えたかもしれない。


「他の畑の奴らも呼んでくるから待っててくれ」

「はい、よろしくお願いします」


 追加で依頼を出した農家は全部で四軒ある。それは三パーティで分けてくれと言ったら、一軒はこちらで駆除してほしいと冒険者たちに言われてしまった。そうしないとどこのパーティで駆除したかを判別するのが難しいし、喧嘩になるかもしれないからというのがその理由だった。

 ということで今回は羅羅に頼み、土魔法で五軒分の畑に壁を作ってもらうことにした。もちろん水が入るところは空けてもらう。そうすればモールが他の畑に越境していくこともないだろう。土壁は地上部分は高さ20cmぐらいで、下は1m以上の深さで作ってもらうつもりだ。そんなに魔法を使って大丈夫なの? と羅羅に聞いたら、それぐらいたいしたことはないと言っていた。でも明日はみんなで町の外へ狩りに行きたいという。それぐらいお安い御用だ。ってことで羅羅への交渉は朝のうちに済んでいた。


「待たせたなー」


 おじさんが汗を拭き拭き戻ってきた。周りの畑の持ち主なんだろう。みな安堵した顔をしていたが、一人だけ怒ったような顔をしたおじさんがいた。隣に疲れたような顔をした青年がいる。


「いやあ、こんなに早く来てもらえるなんて助かるよー」

「ありがとうなー」

「また発生するとは思わなかったよ」


 そうほっとしたように他の畑の持ち主が次々と言った。


「ふん! 依頼を出してから二週間は経ってるぞ! いったいお前らは何をやってたんだ!」


 だけど怒ったような顔をしたおじさんは憤懣やるかたないというように叫んだ。それを横にいた青年が止める。


「父さん、せっかく来てくれたのにそんなこと言ったら……」

「依頼をほっといたのはコイツらなんだぞ!」


 他のパーティが途端に不機嫌になった。農家さんたちも困ったような顔をする。

 イカワさんが笑顔で前に出た。


「出された依頼を受ける受けないは冒険者の自由です。そちらから出された依頼は安すぎました。だから誰も依頼を受けようとはしなかったのですよ」

「なっ、なっ、なっ……!」


 イカワさんはっきり言ったー!

 おじさんの顔は怒りで真っ赤になった。

 面倒だからすぐに済ませてしまおう。


「羅羅、頼む」

「心得た」


 拳を振り上げようとしたおじさんの前に、俺たちを乗せたまま羅羅が移動した。


「わっ、なんだなんだっ!?」


 おじさんが慌てて後ずさり、後ろに倒れそうになったのを青年が支えた。


「すみません、僕たちがそちらの畑の依頼をお受けします。この子たちは従魔です。基本的に従魔は人に危害を加えませんが、ニワトリスのつつきに関しては危害には当たらないみたいです。なので、気を付けてくださいね?」


 俺の前にいるクロちゃんが頭を前後に動かした。つつくぞーの合図みたいだな。シロちゃんが羅羅から降りる。足でカッカッと土を払うような動きをした。下手なことを言おうものなら飛びかかるつもりなのだろう。それはさすがに困る。(誰かに危害を加えることもそうだが、首輪の効力がないことがバレても困るのだ)


「シロちゃん、だめだよー」

「なっ、なっ……」

「わ、わかりました。お願いします……」


 おじさんはもう何を言ったらいいのかわからないみたいだ。青年が怯えながらも了承してくれたので、俺はにっこりと笑んだ。


「では駆除の手順を説明しますので、すみませんが集まってくださーい」


 壁を作るってことだけは伝えないといけないし。真ん中の畑の持ち主であるおじさんは文句を言うかもしれないけど、周りの畑の持ち主は嫌がらないだろう。


「みなこちらに集まってくださーい」


 イカワさんもそう言いながら楽しそうに俺たちの側に来た。

 冒険者たちは諦めたように、畑の持ち主たちはおっかなびっくり近づいてきた。従魔ってわかっても羅羅はでかいもんなと思う。俺はぎりぎりまで羅羅に乗っていることにした。

 シュワイさんも口角が上がっている。ピーちゃんは我関せずで、シュワイさんの肩に乗って毛づくろいをしていた。


次の更新は、26日(木)です。よろしくー


誤字脱字については、近況ノートをご確認ください

https://kakuyomu.jp/users/asagi/news/16818093081582887529

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