128.朝から甘えたなニワトリスたちと、これ以上魔法を覚えられない俺

 ……昨日は非常に濃い一日だったな。

 キタニシ町に着いて、もう何日も経ったような気分だ。本当はまだ丸一日も経っていないのだけど。


「そうだ、今日はモール駆除をする日だっ!」


 モールだけは絶対に駆逐しなければならない。森とかにいる分にはいいけど、畑を荒らすのは勘弁だ。でもモールからしたら人が作ってる畑にいる方がごはんは食べられるし安全なんだろうな。森は完全に弱肉強食だし。

 だからといって畑を荒らされてはたまらない。

 つんっとつつかれた。

 シロちゃんだった。


「ウルサイー」

「ごめんね。でもつついちゃだめだよー」


 すぐ隣にくっついていたシロちゃんをぎゅっと抱きしめてから上半身を起こした。そうしたらクロちゃんが俺の膝にのしっと乗っかる。


「クロちゃん、起きるよ?」

「オトカ、ギューッ!」

「はーい。もうこの甘えたさんめー」


 クロちゃんをぎゅっと抱きしめ、二羽が産んだ卵を拾ってから部屋を出た。


「おはようございます」

「おはよう」

「おはようございます、オトカ様」


 テーブルにはもう朝食が並び始めていた。うぉう、高級ホテルの朝食ってば……。

 イハウスさんは俺をじっと見た。なんだろうと思った時、二羽の卵を持っていたことに気づいた。


「あ……これは……」

「そちらはニワトリスの卵ですか? よろしければ調理させますが……」

「あ、ハイ。お願いします」

「どのように調理しましょう。指定はありますか?」

「えっと……オーバーイージーで。シュワイさんは?」

「サニーサイドアップで頼む」


 なんで目玉焼きだけ英語なのか解せぬが、それがこの世界なんだからしょうがない。ところどころ英語っぽいんだよな。でもそんなこと気にする人はいないんだろう。

 ってことでニワトリスたちの卵もおいしくいただきました。もちろん従魔たちにお肉もたんまり出した。


「本日は如何なさいますか?」

「依頼を受けてくる」

「お気をつけて」


 イハウスさんの問いにはシュワイさんが答えてくれた。俺はいつも通り羅羅の背に乗せられてギルドへ向かった。もう何も言わなくても羅羅の尻尾で捕まえられて上に乗せられるのがどうかと思う。いいんだ、もう考えない。考えたら負けだ。(何回目だよ

 ピーちゃんはシュワイさんの腕に乗ってった。

 ギルドの建物に入ったら、昨日会った冒険者パーティが揃っていた。昨日は全部で何パーティか聞いていなかったけど、全部で三パーティだったらしい。

 冒険者たちが軽く手を挙げる。

 ギルドの職員が「ギルド長を呼んで参ります」と階段を登っていった。

 俺たちは固まっている三パーティの方へ集まった。羅羅がいるからかギルドの中が少し狭く感じられた。


「……従魔ってのはすげえなぁ。こんなでかいのも従えられんのか?」


 いかつい男性の冒険者が呟くように聞いた。


「うちのオトカは特別だ。こんなにでかい従魔をこれまで見たことがあるか?」

「いや、ないね」

「怖いけど、羨ましいわね」

「もっふもふいいよねー」

「……触りたい」


 女性と俺よりは年上に見える少年の手がわきわきしている。さすがに俺から触ってもいいとは言えない。

 軽く話している間にギルド長のイカワさんが降りてきた。副ギルド長のネコノさんも一緒である。


「やあ、冒険者諸君。モール駆除に集まってくれてありがとう。それではこれから向かうとしよう」

「え? ギルド長も行くんですか?」


 ネコノさんが目を見開き、驚いたように聞いた。


「補助金を出してもらうからね。少し見学したら戻ってくるよ」

「ええ? ギルド長は馬にでも乗ってくのか?」


 冒険者がいぶかしげに聞く。


「まさか。自分の足で走るよ」

「付いてこれんのか?」

「これでも足には自信があるんだ。そこのブルータイガー君が本気で走ったらかなわないだろうけど、往来を走る速度ぐらいなら付いていけると思うよ」


 イカワさんはうさんくさい笑みを浮かべてそう答えた。ってことはイカワさんも身体強化魔法は使えるってことだよな。


「じゃあブルータイガーに合わせていくか」

「ええ? 私そんなに速く走れないわよ?」

「しょうがねえなぁ」


 ってことで、女性の足に合わせて走ることになった。つっても、女性陣も身体強化魔法持ちらしくけっこうなスピードで走ってくれたんだけどさ。(遠い目

 どーせ俺は役立たずですよーだ。


「オトカー」


 前に乗っているクロちゃんを抱きしめながら、俺はちょっとやさぐれた。

 つーか、冒険者ってなんなの? みんな身体強化魔法持ってるのが当たり前なワケ?

 俺はこれ以上魔法が増えないんだけどおおおおおお!(誰にも言わないが。シュワイさんは知ってる)

 ……畑はそれほど遠くない場所にあった。

 町の壁の内側だ。ギルドから南西の方角である。

 それなりに広い敷地が、無残にもでこぼこになっていた。特に真ん中に位置する畑の被害が大きく見える。あれがきっと銅貨一枚の依頼を出したところなんだろうな。

 周りの畑で作業していた人が俺たちに気付いた。


「ええ? もう来てくれたのか?」

「はい、さすがにモールの被害が広範囲ということでまとめて駆除に参りました。私、ギルド長のイカワドルギと申します」


 イカワさんが丁寧に農家のおじさんに挨拶した。


「おお、そりゃあ助かるよ」


 おじさんは笑顔でイカワさんと握手したのだった。


次の更新は、23日(月)です。よろしくー

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