127.言うことが聞けないニワトリスたちと、ぎゅーの刑にする俺

 ホテルに戻ると、「少々お待ちください」とロビーで言われた。

 なんだろうと思ったらすぐにイハウスさんが迎えにきた。そういえばイハウスさんて、離れの部屋付きの侍従さんなんだっけ。羅羅ルオルオからは降りていたけど、なんかちょっと気後れする。俺が根っからの貧乏人だからかもしれないなと思った。


「オカイイ様、オトカ様、おかえりなさいませ。お荷物はございませんか?」

「ない」

「かしこまりました。お部屋へどうぞ」


 シュワイさんは堂々としている。でもなんとなくその手が震えているように見えて、シュワイさんはシュワイさんで緊張しているのかもしれないと思った。

 そういえば、シュワイさんてギルドではすんごく堂々としているけど人見知りだったっけ。なんだかちょっとほっとした。

 部屋に戻れば当たり前のようにイハウスさんがお茶を淹れてくれた。もちろんお茶菓子も付いている。従魔たちにもちょうどいい器で水が出された。

 いかん、こんな贅沢をしていては堕落してしまいそうだと思った。


「オトカー、クダモノー」

「ああ、うん」


 ピーちゃんに言われて買ってきた果物をカバンから(アイテムボックスに繋げている)出した。


「食べやすい大きさにお切りしましょう」

「あ、はい……ありがとうございます」


 そんなサービスもあるみたいだ。ますます堕落してしまいそうだと思った時、シロちゃんがゆっくりとシュワイさんの後ろへ移動していくのが見えた。


「シロちゃん、だめっ!」


 果物をイハウスさんに渡し、俺はバッとシュワイさんに前から抱き着いた。


「エー」

「えー、じゃないのっ! シュワイさんは俺のこといじめてなんかないよ。つつく口実を探すのはやめなさいっ」

「エー」


 シロちゃんは不満そうに俺を軽くつついた。


「あとで、ぎゅーの刑だからねっ」

「ヤダー」

「こらっ!」


 シロちゃんは庭に出る扉の取っ手を器用に嘴で動かして開けると、庭に出て行った。


「全くもう……」

「オトカ、私は別にかまわなかったんだが……」


 それでシュワイさんに自分が抱き着いていたことに気付き、離れた。いくら美形でも男に抱き着くとか、俺はいったい何をやってるんだ。

 恥ずかしいことしたなーと、元いた場所に腰かけてクロちゃんを膝にだっこしてもふもふした。


「オトカー」


 クロちゃんが嬉しそうに俺を呼ぶ。ふと視線を感じてそちらを見れば、イハウスさんが俺たちを眺めていた。表情は変わらなかったが、なんだかその頬が少し上気しているように見える。なんだろう……。


「えっと、さっきのことはシロちゃんにつつかれるほどのことではないと思うんで」

「そうか。ありがとう」


 気を取り直してクッキーを摘まんでいたら、シロちゃんが何事もなかったかのように戻ってきた。シロちゃんを手招きすると、シロちゃんはいやいやをするように首を振った。


「クッキーいらない?」

「イルー」


 クッキーには勝てなかったらしく、シロちゃんはいそいそと身体を揺らしながら近づいてきた。


「勝手につつこうとしちゃだめだからね?」

「エー」


 全然反省してないよなと苦笑した。

 夕飯はまた豪華だった。ターキーとブラックディアーの肉を使ってくれたらしい。

 料理長はものすごく張り切って調理してくれたようだ。ローストポークならぬローストヴェニスンになって出てきた。

 ブラックディアーの肉だったせいか、とんでもなくうまかった。本当は料理長が礼を言いに来たかったらしいが、他の客に挨拶をしなければならないから嘆いていたとイハウスさんから聞かされた。


「なんで?」


 別に嘆くことはないだろうと思ったが、あまり望ましくない客に挨拶をしなければならないみたいだ。

 望ましくないと聞いて、昼間見た偉そうなおっさんを思い出した。実際に貴族とか、偉い人なのかもしれない。あのおっさんに挨拶しないといけないとしたらやだなと思った。


「のちほど料理長が訪ねてきてもよろしいでしょうか?」

「かまわないが、あまり興奮しないように伝えてくれ。うるさいとニワトリスたちにつつかれるかもしれん」

「かしこまりました。伝えておきます」


 そうなんだよ。クロちゃんはつつかないだろうけど、シロちゃんがつつきそうなんだよな。

 困ったものである。

 食べ終えてしばらくしてから料理長が突撃してきた。

 案の定すごく興奮していたから、俺はシロちゃんを押さえるのに精いっぱいだった。

 あんまりシロちゃんがわがままを言うので寝る前はぎゅーの刑に処した。


「ハナスー!」

「だめっ、悪い子っ! 反省しなさいっ!」

「ヤダー!」


 放すように言ってるけど、本当はシロちゃんもそれほど嫌がってはいない。俺の背中にはクロちゃんがぴっとりとくっついている。


「誰彼かまわずつついちゃだめだよー、そんなことしたら俺と一緒にいられなくなっちゃうよ?」

「ヤダー」

「俺と一緒にいるんだよね?」

「イッショー」


 シロちゃんがすりすりしてきた。あんまりかわいくて顔がにやけてしまう。


「じゃあ、俺がいいって言わなかったらつついちゃだめだよ? わかった?」

「ワカンナーイ」

「こらー!」


 俺たちのやりとりを見ながらシュワイさんが笑っている。羅羅は呆れた顔をしていた。ピーちゃんは我関せずで毛づくろいをしている。

 そうして、キタニシ町初日は過ぎていった。(なんか一日が濃すぎない?)


次の更新は、19日(木)です。よろしくー

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