123.お行儀よくしているニワトリスたちと、町役場へ向かう俺

 俺たちはギルドの二階に移動した。

 副ギルド長のネコノヤオさんが慌てて俺たちに水を持ってきた。その頬が腫れているように見えたけど、声はかけなかった。


「ふむ……モール駆除の依頼は受けたいが、依頼料が安すぎると」

「そうなんです」


 イカワさんは頷いた。


「確かに、それでは受けたくないだろう。だが、オトカ君はモールの駆除はしたいのか」

「はい。キタキタ町ではモールの駆除に補助金を出すようにすると領主様から伺いました。こちらにはそういった通知はないですか?」


 まだ正式なものが来るのには早いかなと思ったけど、一応聞いてみる。


「……まだそういった知らせは来ていない。……こちらも慈善事業ではないからな。なんだったらキタニシ町の町役場へ行ってみるといい」

「町役場ってどこにあるんですか?」

「ここから北西の方角にあるよ」


 そう言ってイカワさんは黒板のような物を出し、さらさらと簡単な地図を書いてくれた。


「ホテルの通りの一本こちら側だな」


 シュワイさんが地図を見て呟く。


「ええっ? オカイイは高級ホテルに泊まっているのかい? まぁそれぐらいの収入はあるか!」


 ホテルの通りと聞いて泊まっているホテルを当てるとか……ってアレか。シュワイさんが連れてってくれた通りは高級ホテル街ってことなのかな。つーか、そんなところに俺を連れて行かないでほしかった。(どこまでも貧乏性)


「……感心しないな」


 シュワイさんがイカワさんを睨む。


「ごめんごめん。モールの駆除は町全体の問題だろうから、そっちへ行って聞いてきてくれ」

「わかった」


 で、今度は町役場へ向かった。俺は相変わらず羅羅の背の上である。移動中はクロちゃんを抱きしめているせいか、クロちゃんがご機嫌で定期的に「オトカー」と俺の名を呼ぶ。その度にかわいくて頭をすりすりさせてしまう。もー、うちの子はなんてかわいいんだっ。後ろにはシロちゃんがぴっとりとくっついているし、こんな移動方法が定着したら俺は堕落してしまうかもしれない。(すでに定着している)

 道行く人たちは相変わらず俺たちを見てギョッとした顔をする。こればっかりは慣れるまではしかたない。

 町役場に着いた。

 そんなに大きな建物ではなかったが、建物の前には防衛隊の人が立っていた。彼らは俺たちがゆっくりとそちらへ向かうのを見て、警戒するような身体の動きをした。

 シュワイさんが大仰にため息をついた。


「Sランク冒険者のオカイイだ。こちらはパーティメンバーのオトカとその従魔たちだ。農家の状況についてわかる者がいれば話を聞きたい」


 シュワイさんが面倒臭そうに伝えてくれた。

 いつもありがとうございます。


「わ、わかりました! 聞いて参ります!」


 防衛隊の人が建物の扉を開け、中にいる人に声をかける。中の人が誰かを呼びにいったみたいだった。

 俺たちは邪魔にならないように建物の端っこで待つことにした。

 町役場って言ってもあんまり開けたかんじじゃないんだなと思った。まぁ普通の人はあんまり用がない場所なのかもしれない。

 羅羅の上に座ったまま、クロちゃんをもふもふして待っていたらやがて中から人が出てきた。イカワさんほどではないが、それなりにきちんとした身なりをしている。ちょっと神経質そうな印象だ。


「Sランク冒険者のオカイイ様というのは……」

「私だ」

「町長がお会いするそうです。是非中へどうぞ」

「私だけか? 私たちはパーティで来ている。私だけというのならば町長に会う気はない」

「も、申し訳ありません。聞いて参ります!」

「パーティメンバーのオトカと従魔たちも中に入れないのならば、農家の状況がわかる者だけこちらへよこしてくれ」

「は、はい!」


 やっぱSランク冒険者ってすごいなーと思う。無視はできないよなって。

 羅羅が低く唸った。


「……人間というのは面倒だな」

「そういうものなんだ」


 シュワイさんがため息交じりに答えた。

 また先ほどの人が出てきて、俺たちは町長室まで案内してもらえることになった。もちろん従魔の首輪を確認して、従魔たちが絶対に人に危害を加えないことを約束させられた。


「僕の従魔なので、僕に危害を加えたり、従魔自身にちょっかいをかけたりしなければ大丈夫です。従魔が逆らえないからと、手を出した場合つつかれる可能性はあります」


 それだけははっきりと伝えておいた。そして”つつき”に関しては首輪の約束の範疇に入らないことも説明した。


「ニ、ニワトリスのつつき、なのにですか……」

「そうなんです。危害を加えるには判定されないみたいです。なのであまり近寄らないようにしてください」

「わ、わかりました……」


 呼びにきた人は腰が引けていたがしょうがない。シュワイさんが笑いをこらえているのがわかった。

 そうしてやっと町長室へ向かった。

 呼びにきた身なりのいい男性は副町長らしい。ワヨキと名乗った。……うん、まんまだな。失礼だけどそう思った。

 さすがに町役場の中では俺も羅羅から降りた。

 シュワイさんの肩にピーちゃんが止まり、その後ろに俺、クロちゃん、シロちゃん、羅羅の順である。ワヨキさんが少し大きな扉の前で止まり、ノックをした。


「ウヨチ様、オカイイ様とそのパーティメンバーをお連れしました」

「入れ」


 中から声がした。ワヨキさんがうやうやしく扉を開け、シュワイさんを先頭に部屋の中に入った。


「……ひっ……」

「ウヨチ様、落ち着いてください」


 高そうな執務机に腰かけていた男性が後ろに仰け反った途端、硬質な声がかかった。もう一人いたらしい。若い男性だった。シュワイさんほどではないがイケメンである。執務机から一歩離れた横に立っている。


「Sランク冒険者オカイイ様、そのパーティメンバーの方々ですね。たいへん失礼しました。こちらはキタニシ町町長のウヨチリスマゴ、私は秘書のクーと申します。どうぞこちらへおかけ下さい。従魔の方々は何をお召し上がりになりますか?」

「あ、ええと……従魔たちには水をいただけると助かります」

「かしこまりました」


 クーさんは部屋の中にある扉を開き、その向こうに何やら言いつけた。そちらにも人がいるのだろう。

 シュワイさんが高そうなソファに腰かける。俺もその横に腰かけた。ソファの後ろには羅羅と、その上にシロちゃんが乗った。俺の横にはクロちゃんが当たり前のようにもふっと腰かける。ピーちゃんはシュワイさんの腕に移動した。


「じゅ、従魔がソファに……」


 町長が秘書とこちらをちらちらと見ながら声を発した。


「ウヨチ様、落ち着いてください。ニワトリスはものすごく強い魔物ですよ?」


 クーさんがそう言うと、町長は黙った。

 なんか、この町って町長じゃなくてクーさんが牛耳ってるんじゃないかな、なんて失礼なことを考えてしまったのだった。


次の更新は、5日(木)です。よろしくー

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