124.素直なニワトリスたちと、モール駆除について尋ねる俺

「こ、この町にSランク冒険者を迎えられるとは……なんという僥倖か。ぜ、ぜひゆっくりしていってくれたまえ!」


 町長はひきつった笑みを浮かべ上擦った声でそう言った。手は揉み手をしているようなかんじだ。それでリスマゴ……と納得してしまった。


「町長、私たちは聞きたいことがあってここへ来た。この町の農業に詳しい者がいるのならば呼んでほしい」


 シュワイさんが淡々と言う。


「の、農業? こ、この町で農業でもするのかね?」


 町長の上擦った声を聞いて、シュワイさんはため息をついた。


「ワヨキさん、呼んできてください」


 秘書だというクーさんが副町長に声をかけた。


「は、はいぃ!」


 副町長もまた変な声を上げると町長室を出ていった。秘書って副町長を顎でこき使えるのかー。すごいなー。(棒読み)

 水を入れた少し大きめの容器が四つ運ばれてきた。運んできた人の手が震えているので、俺がすぐに受け取って鑑定魔法をかけた。人に勝手に鑑定魔法をかけるのはNGだが、物にかける分にはそれほど警戒されないと聞いたので。こういうことはチャムさんやシュワイさんに教えてもらった。

 うん、普通の水だ。


「はい、クロちゃん、シロちゃん、羅羅ルオルオ、ピーちゃんどうぞ」


 クロちゃんが俺の横でおいしそうに水を飲む。周りに水滴を飛ばさずに飲むのが上手なんだよなー。ご機嫌で身体を揺らしているのがかわいい。

 俺たちにはお茶が出てきた。ありがたいと思った。

 これは紅茶だな、うん。

 ピーちゃんがシュワイさんの腕から降りて水を飲む。


「オイシー!」


 と嬉しそうに言った。よかったよかった。


「イ、インコ、なのか……?」


 町長が呟く。クーさんが頷いた。


「インコですね」

「そ、そうか……」


 町長はうちのピーちゃんを確認して、少し落ち着いたみたいだった。まぁ見た目色鮮やかでおとなしそうだしな。……怒らせるとけっこう怖いんだけど、それは知らない方がいいだろう。

 お茶をしている間に副町長がこの町の農業の担当官だという人を連れてきた。その人は部屋に入るなり、「ひぃいっ!?」と悲鳴を上げた。

 ワヨキさん、でっかい従魔がいるってことを説明してなかったのかな?


「ウノウさん、こちらはSランク冒険者のオカイイ様とそのパーティメンバー、従魔の方々です。ウノウさんに農業のことで聞きたいことがあるそうですので、質問に答えてください」


 クーさんが静かに伝えてくれた。


「は、はい! の、農業、ですか?」


 農業というか農地の現状についてなんだけど。かわいそうに、ウノウさんはこちらから目を逸らして汗を拭いている。でもモールの被害状況は聞きたいんだよ。


「農業というか、今年のモールの被害状況と、モール駆除の補助金についての話を聞きにきました」


 端的に聞くと、ウノウさんは俯かせていた顔を上げて俺をまっすぐ見た。


「……モール駆除の補助金については先日聞いたばかりです。なぜ、一冒険者の貴方が知っているのですか?」


 当然の疑問だった。なので、キタキタ町でこれこれこういった経緯で俺がそのモール駆除の補助金交付に関わっていると説明したら、ウノウさんは納得したというように頷いた。


「そういうことでしたか。その案件については現在町長に裁可をお願いしているところですが……?」


 町長のところで止まってるのかな? と町長を見やると、町長は汗をだらだら掻いた。


「も、もももちろん知っているに決まっているではないか! クー、書類はどこだ? もう判子は押してあるはずだぞ!」

「まだですね。こちらの書類です」

「で、では判子を持て!」

「はい、どうぞ」


 町長はよほど慌てていたのか、書類を読まずに判子を押した。それは大丈夫なのか?


「はい、こちらの書類ですね。今許可が下りましたよ」


 ウノウさんはクーさんから直接書類を受け取り、それを読んだ。


「モール駆除一匹につき、銅貨五枚の補助金が出ます。すぐに農地と、冒険者ギルドに知らせを出しましょう」

「それっていつから出ますか?」

「今すぐにでも出せますが?」


 ウノウさんにそれを聞いて俺はにんまりした。


「じゃあこれから一緒に冒険者ギルドに行って、モール駆除の補助金が出ることを伝えてください」

「え? これから? 一緒に?」


 目を白黒させるウノウさんの腕をシュワイさんが掴む。


「羅羅、行くぞ」

「それを我の背に乗せる気か?」


 羅羅は嫌そうな顔をした。


「その方が早い。オトカが喜ぶぞ」

「それならしかたない」


 羅羅は嘆息した。


「乗せるがいい」

「え? え?」


 羅羅の上にクロちゃん、俺、その後ろにウノウさんを乗せ、そのまた後ろにシロちゃんが乗った。サンドすればウノウさんが落ちることもないだろう。


「ありがとうございます。モール駆除に行ってきますので、よろしくお願いします。ウノウさんはのちほどお返ししますね!」

「はい、よろしくお願いします」


 クーさんが頭を下げた。


「え? なんで? どうして?」

「俺にしっかり掴まってください。黙らないと舌を噛みますよー」

「どうしてええええええ~~~~~!?」


 そうしてウノウさんを羅羅に乗せ、シュワイさんの肩にピーちゃんが乗った状態で俺たちは再び冒険者ギルドへ走ったのだった。



次の更新は9日(月)です。よろしくー

ウノウさんが災難な件について。

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