122.肉大好きなニワトリスたちと少しばかり悩む俺
往来をシュワイさんと
歩道は危ないので馬車道を走っている。ぎょっとするような視線を向けられて、そういえば違う町に来たんだよな思った。うちの従魔たちは首輪を付けているから道行く人たちもパニックになったりはしないみたいだけど、怖いは怖いだろう。
でかいってだけで強いし。
ギルドにはすぐ着いた。
まっすぐ倉庫へ行ってもいいんだけど、一応顔出しは必要だろうということでギルドの中に入る。
「えっ?」
「なんだっ!?」
すぐに冒険者たちが反応した。反応が速いのはいいことなんだけどね。
「首輪を見ろ」
シュワイさんが言うと、冒険者たちは動きを止めた。
「……従魔か?」
「でかいな……」
「倉庫へ向かう」
冒険者たちの呟きを無視して、シュワイさんがギルドの職員に伝えた。
「しょ、少々お待ちください……」
職員も腰が引けているが、そのうちの一人が二階へ駆けていった。きっとギルド長へ声をかけに行ったのだろう。こういうところが面倒だなって思うんだけど、シュワイさんはSランク冒険者だからいろいろ便宜を図ってもらえることも多い。
ほどなくして、二階からギルド長のイカワドルギさんが降りてきた。若いしスラッとしているからとてもギルド長には見えない。(俺のイメージである)にこにこしているがその目は笑っていなかった。
「やあ、さっきぶりだね。どうかしたのかな?」
「……倉庫へ向かうから断りにきただけだ」
シュワイさんが素っ気なく告げた。
「そうか」
「……い! もういい!」
その時二階から怒鳴り声が聞こえ、バンッ! という激しい音がした。イカワさんの眉がピクリと反応したのを俺は見逃さなかった。
「早く倉庫へ行った方がいい」
「そのようだな。行くぞ」
イカワさんに促されて俺たちはギルドを出、倉庫へ向かった。
ん? さっきの声、どっかで聞いたような……? 気のせいかな?
「すみませーん、解体って終わってますかー?」
倉庫のカウンターで解体をしているおじさんたちに声をかけた。さすがに羅羅からは降りた。
「ん? ああ、でっかい従魔連れてる連中か。ちょっと待ってろ」
シロちゃんがウキウキしたように身体を揺らしている。尾も期待するようにびったんびったん動いているのが怖い。
「シロちゃん、もう少し待ってね」
「マツー」
俺にそっと寄り添って素直に言うシロちゃん、たまらなくかわいいです。もちろん反対側にくっついて俺にすりすりしているクロちゃんもいつも通りかわいい。しかしその尾が両方ともびったんびったん動いているから俺たちの周りには近寄らない方がいい状態になっていた。
シュワイさんと羅羅は何気に俺たちから離れてるしな。ピーちゃんはシュワイさんの肩の上に移動した。
「ワイルドボアとワイルドディアーが一頭ずつだったな。できてるぞ」
「ありがとうございます!」
「肉以外は全部買い取りでいいんだな?」
「はい」
「肉も少しは売ってほしいが……従魔の餌だよなぁ」
「そうなんです、すみません。たくさん食べるので……」
「だろうな」
おじさんたちはうちの従魔たちを見て苦笑した。
肉以外の部分は全て買い取りしてもらったから、解体の費用はそこから賄えた。魔石だけじゃなくて皮やディアーの毛皮、骨も売れるからけっこうな金額になる。肉も売ればもっとらしいけど、うちの従魔たちは食べたくて狩ってるんだから肉は基本売らない。ホテルとかでならいいけどね。
「インコも肉を食うのか?」
「ピーチャン、ニク、タベナーイ!」
おじさんの問いにピーちゃんが自ら答えた。
「おおう……でもインコも魔物だろ?」
「食べられないことはないみたいですけど、食べたくないらしいです」
「あー、好みもあるのか」
「ニク、イヤー!」
ピーちゃんがそう言ったら、
「肉はうまい」
「オニクー!」
「オトカー!」
と羅羅、シロちゃん、クロちゃんが反応した。クロちゃんや、それじゃ俺がクロちゃんに食べられちゃうよ。
苦笑した。
解体した肉はシロちゃんのアイテムボックスに入れてもらい、買い取りの内訳が書かれた紙を持ってギルドへ戻る。キタキタ町のギルドだと倉庫で払ってもらえることもあったけど、こちらのギルドではお金のやりとりは全てギルドの建物の中だけなのだそうだ。
「領主のお膝元なわけではないからな。少しばかり治安が悪いんだ」
「そうなんですね」
ギルドの建物に入る時はまた羅羅の上に乗せられた。もう考えない。考えたら負けだ。(何
紙を受付で渡したら、ギョッとしたような顔をされた。
それでも書かれた金額を無言で渡してもらった。紙の数字を指さして確認してくれる。
すごいなと感心した。受け取る金額が他の冒険者にはわからないようにしてくれるのだ。しかもちょっとした衝立もあるし。ギルドによって違うんだなぁ。
ギルドのボードを眺める。午後だから依頼はあらかたなくなっているみたいだったが、モール駆除の依頼が一件だけあった。
「あ」
でもモール駆除一匹につき銅貨一枚と書かれていた。
「うーん……」
安くてもモールは駆除したいけど、さすがに一匹につき銅貨一枚はないかな。銅貨二枚なら受けてもいいんだけど。(俺の基準としては、である。自分がいた村で小遣い稼ぎでもらっていた金額が一匹辺り銅貨二枚だったのだ)
「受けたいなら受ければいいだろう」
シュワイさんが気づいた。
「ちょっと安すぎるんですよね。ただ……放置して他の畑に影響があるとまずいかなって」
こんなに安くちゃ誰も引き受けないだろうし。
だからといって俺が引き受けてこの金額でみんな受けてくれると思われても困る。
「それはそうだな」
とはいえ、モールの駆除問題なんて一冒険者が考えることじゃないだろう。どうしても気になるならここに書かれた畑を見に行ってから考えた方がいいかもしれない。
「難しい……」
「駆除はしたいが、というやつだな。オトカは本当にモールが嫌なんだな」
俺はシュワイさんにジト目を向けた。
「……好きな人なんています?」
「確かに害獣だ」
「何かお悩みかな?」
後ろから声をかけられて、振り向く。
イカワさんが胡散臭い笑みを浮かべたまま少し離れたところにいた。うちの従魔たちを刺激しないようになんだろう。
「ああ、少しな」
シュワイさんが答えた。
「相談に乗るよ」
ということで、せっかくだから聞いてもらうことにした。
次の更新は、9/2(月)です。よろしくー
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