121.味にうるさいニワトリスたちと相変わらずうかつな俺

「……おいしかった……」

「こういう料理もいいな」


 俺もシュワイさんもホテルでの昼食に大満足である。最後にデザートが出てくるらしいので今はそれ待ちだ。

 クロちゃんが食事の途中で呼びにきたので、庭に向かいボウルを回収して全員に浄化魔法をかけた。イハウスさんが恐縮していたが、ボウルの回収は俺がしないと危険なのでいいのである。

 羅羅は芝生に寝そべり、シロちゃんはその上にまふっと。クロちゃんとピーちゃんは部屋の中に戻ってきて、クロちゃんは俺の隣に。ピーちゃんはソファの背もたれの上に止まった。

 そうして俺とシュワイさんが食べ終わるまでおとなしくしていてくれた。

 デザートはスフレだった。器がとてもでかい。

 口の中でふわふわととろける食感がたまらなくて、ほっぺたが落ちそうだった。

 ……しっかし甘いな。


「……このスフレ、おいしいですけどちょっと甘すぎるかな」

「伝えておきます」


 ぼそっと呟いたら、イハウスさんが頭を下げた。


「あ、いえ! 好みは人それぞれだと思うのでっ!」

「お客様には常に最高のもてなしをさせていただきたいのです」

「で、でも……宿泊費は……」


 魔物の肉でチャラになるから、俺たちがお客様というのはどうなんだろう?


「……確かに甘いな。量が三分の一ぐらいならこの甘さでもいいが、この量に対してはしつこいぐらいだ」


 シュワイさんがさらりと言う。うんまぁ、確かに量も多い。


「ピーチャン、タベルー!」


 ピーちゃんが一口シュワイさんからスフレをもらった。食べてからコキャッと首を傾げる。この仕草がかわいいよな。


「ンー? マアマア?」


 さすがはピーちゃんだ。とてもかわいいインコなのにけっこう厳しい。クロちゃんがぐりぐりと頭を摺り寄せてきた。


「ん? クロちゃんも一口食べる?」

「タベルー!」

「はい、どーぞ」

「……アマーイ!」

「だよね」


 ちょっと笑ってしまった。ボウルに水をもらったら、クロちゃんは顔をつっこんでがぶがぶ飲んだ。よっぽど甘かったらしい。


「料理長に伝えておきます」

「頼む」


 いや、とてもおいしいはおいしかったんだよ? ちょっと量が多くて、俺にとっては甘すぎただけで。

 ステーキも食べやすいように切り分けてはあったけど、用意された量は多かったから、ここのホテルの料理は全体的に量が多いのかもしれない。

 足りないよりは……とは思うんだけどどうなんだろう。

 イハウスさんが席を外したところで、シュワイさんがこちらを見た。


「……オトカはスフレを食べたことがあるのか?」

「えっ?」


 シュワイさんに問われて、冷汗が背を伝った。スフレなんて貧乏な村で暮らしていた俺が知っているはずがないわな。


「は、初めて、ですよ! そういうおいしい料理があるってキタキタ町で聞いて、憧れてたんですっ!」


 すんごく苦しい言い訳だが、前世なんて言っても頭がおかしい人扱いされるだけだろうから絶対に言わない。


「そうなのか」


 シュワイさんはそれ以上追及はしてこなかった。

 ふぅ……危ない危ない。

 呟くのも一瞬考えてからにした方がいいだろうな。

 俺がスフレを初めて食べたのは元の世界の喫茶店だった。なんだろうと思って頼んで食べてみたらびっくりするほどふわふわで、甘くておいしかった記憶がある。さすがにここで出されたのの三分の一ぐらいの大きさだったけど、懐かしいと思った。

 イハウスさんはすぐに戻ってきた。

 離れの前にも従業員がいるので、その従業員が厨房へ伝えに行ったらしい。

 高級ホテルだと、伝言ゲームで内容がおかしく伝わるようなミスはなさそうだよな。

 少し部屋でまったり過ごした。クロちゃんはソファに乗り、俺の横でまふっと座っている。そして俺にすりすりとくっついてくるのだからたまらない。ついがばっと抱きしめてもふもふしてしまうのはしょうがないことだ。

 ああもうクロちゃんがかわいいよおおおおお。


「オトカー」


 時折クロちゃんがとても嬉しそうに俺の名を呼ぶのがイイ!

 一生大事にするからねええええええ!

 ピーちゃんはシュワイさんの肩に止まって毛づくろいしている。シュワイさんは肩幅が広いからできることだと思う。

 ピーちゃんがこっちを見て、


「オトカー、クロチャンー、カワイー!」


 と言い出した。


「……クロちゃんがかわいいのは認めるけどさぁ……」

「オトカもかわいいだろう」


 シュワイさんがさらりと言う。

 ぐぬぬ……と思った。

 俺がかわいいというのは、あまりなぁ……だって中身は43歳のおっさんなんだぞ! 目の前に鏡があっても納得できん。

 シロちゃんが庭から部屋に戻ってきた。


「オトカー」

「シロちゃん、おかえり」

「キルー」


 シロちゃんが身体を揺らして言う。


「あ、ギルドに行ってこようか」


 そろそろ魔物の解体も終わってるかもしれない。ワイルドボアとワイルドディアーだっけ。かなりでかかったよな。

 シロちゃんはアイテムボックス持ちだから、狩りをする時容赦がない。魔物の肉もとんでもない量が俺たちのアイテムボックスには入っている。いくら悪くならないとはいえ、獲りすぎだよなぁ。

 そんなことを思いながら、いつものように羅羅に乗ってギルドへ向かったのだった。


次の更新は、29日(木)です。よろしくー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る