120.意に介さないニワトリスたちと、ドラマを見ているような気分だった俺

 なんかー、村ではそんなわかりやすい名前の人ってそんなにいなかった印象だけど村を出たらわかりやすい名前の人しかいないかも? ただの偶然かもしれないけどさ。

 それとも、俺にだけそういう風に聞こえるって可能性は……ないか。

 部屋に戻る際、何故か羅羅ルオルオの背に乗せられた。


「え? なんで?」

「乗っておけ」


 シュワイさんにそう言われてしまったので、大人しく乗ることにした。前にクロちゃん、後ろにシロちゃんというのも変わらない。ピーちゃんだけはシュワイさんの腕に止まっていた。

 シュワイさんと羅羅の雰囲気がちょっとこわい。ピリピリしているように感じる。

 ここって高級ホテルの中なんだよな?

 何か危険な要素でも? と思ったら、俺たちの前を歩いていたイハウスさんが立ち止まった。

 とっさに前にいるクロちゃんを抱きしめる。


「オトカー」


 クロちゃんはのん気だ。ってことは、それほどのことでもないのかな?

 イハウスさんの前方には他の従業員と思しき人がいた。ホテルの階段から降りてきたらしい。その後ろから兵士っぽい人、執事っぽい人、そしてギンギラギンに全然さりげなくない太ったおっさんが続いた。腹を前に突き出すようにして、えらそうに歩いている。そのおっさんの肩に小さいサルの魔物みたいなのが座っている。サルの魔物には首輪が付いていて、それに繋がった紐をおっさんが持っていた。


「うん? なんじゃ? 何故ここに魔物がおるっ!?」


 おっさんは羅羅の姿を認めると、後ずさった。おっさんの前に兵士が二人出てきて、俺たちを警戒するように腰の剣を抜こうとした。

 恐ろしいのはわかるけど、ホテルの中で剣抜こうとしちゃだめだろ。

 イハウスさんが俺たちの前でバッと横に手を広げた。


「お客様、剣をお収めください。こちらの方々も当ホテルの大事なお客様と、その従魔の方々でございます。もし剣を抜かれるのでしたら、当ホテルからは出ていっていただくことになりますがよろしいでしょうか?」


 イハウスさんが慇懃に言う。

 強いなーと思った。

 シュワイさんは冷めた目をしていた。


「従魔か……でかいな」


 おっさんはなおも後ずさり冷汗を掻きながら、ちらちらとこちらを見ながら言った。

 如何にも小物ってかんじだ。


「ど、どうせ張りぼてのタイガーなのだろう。行くぞ!」


 おっさんは捨て台詞を残すと、ドスドスと大きな音を立てて俺たちの前を横切っていった。


「……主よ、張りぼてとはなんだ?」


 羅羅に問われて俺は苦笑した。


「……後でね」


 今説明するとあっちにも聞こえちゃうかもしれないし。ここで羅羅を怒らせてもいいことないんだなぁ。

 クロちゃんを羅羅の上で抱き直す。


「オトカー」


 クロちゃんが嬉しそうに身体を揺らした。かわいいかわいい、癒されるなぁ。

 俺たちはそのまま離れの部屋へ戻った。

 またイハウスさんがお茶を淹れてくれた。


「先ほどはたいへん失礼しました」


 イハウスさんが深々と頭を下げた。


「他の客の問題だろう。かまわん」


 シュワイさんが応えてくれた。あのおっさん偉そうだったししょうがないかなと思う。


「寛大なお言葉、痛み入ります」


 お茶菓子もまた出してもらえた。このクッキー、おいしい。


「オトカー」


 ソファの横にもふっと座っているクロちゃんがクッキーに興味を示した。顔を近づけてくる。


「うーん、魔物ってクッキーとか食べていいもん? なんでも食べるからいいのかな?」


 試しにクッキーを一個クロちゃんにあげてみた。パリパリと食べて満足そうに声を上げた。


「! オイシー!」

「そっかー、よかったねー」

「ホシー」


 シロちゃんが羅羅の上から降りて側に来た。


「はい、どうぞ」


 一個あげる。


「オイシー! モットー!」

「そんなにあげないよー」

「お持ちしましょう」

「あ、ありがとうございます……」


 イハウスさんが持ってきてくれることになってしまった。イハウスさんは柔和な笑みを浮かべると、居間を出ていった。


「ピーチャンモ、ホシー!」


 ピーちゃんがシュワイさんの腕に止まったままねだる。シュワイさんは無言でピーちゃんに一個あげた。


「ンー……マアマア?」


 ピーちゃんはコキャッと首を傾げた。ピーちゃんはなかなかグルメなようである。


「まあまあって……ピーちゃんて面白いなー。羅羅もいる?」

「いらぬ」

「そっかー」


 絶対羅羅も食べたら好きだと思うんだけどな。でもいらないって言ってるものを無理してあげようとは思わないので、羅羅に任せることにした。

 イハウスさんが再び持ってきたクッキーは、先ほどの十倍ぐらいの量だった。


「え?」

「料理長からです。おっしゃられればいくらでも焼きますと」

「そ、そうなんだ……」


 いろいろ種類はありそうだったけど、クッキーだけでこんなにいらないかなと思った。

 お昼ご飯はこちらの離れに用意してもらった。

 肉を切り分けたのを入れた大きなボウルは三つで、わかってるなーと思った。ピーちゃんには新鮮な野菜が沢山入ったボウルをいただいた。それらは庭に持っていって食べてもらうことに。

 俺たちの前にはとても上品な料理が一品ずつ運ばれてきて、コース料理とかのナイフフォークの使い方ってどうやるんだっけ? とまごまごしてしまった。(特に作法はなかったらしい)

 ブラックディアーのステーキは絶品だった。

 ちなみに、羅羅は忘れていたので「張りぼて」の意味は説明しないで済んだ。よかったよかった。


次の更新は、26日(月)です。よろしくー


誤字脱字については、近況ノートをご確認ください

https://kakuyomu.jp/users/asagi/news/16818093081582887529

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