119.守ろうとするニワトリスたちと、魔物の肉を提供する俺

 少しまったりしてから部屋の中を見て回り、庭に出て「広いなー」と実感したりした。

 ホテルの一角だというのに、この離れの庭はチャムさんの家の庭よりも広さがあった。

 庭に出たら羅羅ルオルオはまた寝そべった。シロちゃんとクロちゃんは庭の広さを測る為なのか、ツッタカターと走り出した。


「元気だなぁ……」

「セマイー」

「オトカー」


 ぐるぐると軽く走ってからニワトリスたちが戻ってくる。

 シロちゃんにとっては広さが足りないらしい。まぁ、自然の中にいるのが当たり前だもんな。定期的に町の外には出ないといけないだろう。そう考えると、キタキタ町ではよく一緒に町の中にいてくれたと思う。

 ……いや、いろいろあったってのもあるけど、けっこうやらかしたような? 気のせいかな?

 気のせいってことにしておこう。

 狭いって言いながらシロちゃんとクロちゃんはまた庭をぐるぐる走った。運動不足かな。それとも走り心地を試しているんだろうか。走り心地ってなんだ?

 ピーちゃんは羅羅の頭の上に乗ってもふっと座った。やっぱ外の方が気持ちいいのかな。

 しばらくそうしていたが、やがてシロちゃんとクロちゃんは走るのを止め、俺のところへ戻ってきた。なでなでする。


「厨房にお肉置いてこよっか」

「私も行こう」

「我も行くぞ」

「ピーチャンモー」

「みんなで行くの?」


 ちょっと笑ってしまった。

 ただ魔物の肉を置いてくるだけなのに大げさだなぁと思いながら、イハウスさんに声をかけた。


「ご案内いたします」


 丁寧に先導されて、とても広い厨房へ案内された。料理長だという人を呼んでもらう。


「魔物の肉を譲ってくださるのは……ニワトリス、ですか……」


 料理長の腰が引けていた。他の人たちは遠巻きにこちらを窺っている。一応聞いてはいたんだろうけどこわいはこわいよな。


「ニワトリスのアイテムボックスから出しますので」


 ワイルドボアの肉半分はシロちゃんが出してくれる。


「ニワトリスが?」

「アイテムボックスだと?」


 ざわざわしている。一応冒険者ギルドには回っている情報なので明かしても問題はない。ニワトリスって普通は手懐けることできないし。あと、俺は森の少し深いところでニワトリスに遭遇したけど、元はそんなに簡単に遭遇する魔物でもないんだよね。森の中を歩いてた時だって、多分あれはニワトリスだったのかなって思うのは一回ぐらいだったし。(直接は見ていない)


「ここに出してしまってもいいですか? すでに解体した肉ですけど」

「ワイルドボアの肉を一頭の半分、ボアの肉を一頭分、ディアーの肉を一頭分でございましたか?」


 料理長がきりっとして確認する。


「はい、そうです」

「布を広げろ!」

「はいっ!」


 他の従業員が大きめの厚手の布を出し、俺たちの前に広げた。さすがに床にそのまま出すのはよくないよな。


「シロちゃん、出して」

「ハーイ」


 俺はクロちゃんに出させるふりをして、布の上にボアとディアーの肉を落とした。


「おお……」

「すごい量だ……」

「魔物の肉? これ全部が?」

「……素晴らしいです……ありがとうございます。これでさまざまな料理に挑戦できます!」


 従業員は感心しているようだったが、料理長は震えてそんなことを言い出した。


「そ、そうですか……」

「料理長、私たちの分は他に肉を提供するからそれで作ってもらえるか?」


 シュワイさんが聞くと、料理長は目を見開いた。


「ど、どどどんな肉でしょうかぁっ!?」


 なんか目が血走ってて怖い。

 俺の前にシロちゃんとクロちゃんが陣取る。俺に料理長を近づけさせないようにしてくれているみたいだ。小声で、「つつかないでよ?」とお願いした。羅羅は俺の後ろ、ピーちゃんはシュワイさんの腕に止まっている。


「オトカ、なんの肉がある?」

「うーん……ターキーとか、ブラックディアーもありますけど。あとはホワイトボアとか」

「な、ななななんという……」


 料理長は絶句した。


「そ、そんな貴重な魔物の肉を調理させていただけるなんてっ! なんという幸せ!!」


 でもすぐに復活して叫んだ。やっぱ怖い。


「はっ! そろそろ昼でございますね! ご用意いたしましょう!」


 料理長がこちらへ向かって両手を差し出した。これは肉を出せってことかな。

 俺はシュワイさんを見る。シュワイさんは頷いた。


「えーと、どちらに出せば……」

「はっ、失礼しました! こちらの皿の上にお願いします!」


 料理長はとてもでかい皿を出してきた。小さい豚の丸焼きぐらいなら乗りそうな大きさの金属皿である。


「えっと、じゃあどこかに置いてください」

「はいっ!」


 テーブルの上に置かれた皿にクロちゃんと共に近づき、クロちゃんが出したように装ってターキーの肉を出した。


「これ、半分はうちの従魔にあげるんで食べやすい大きさに切ってください。残りは僕とシュワイさんに調理していただいて、残った分は差し上げます」

「な、なななんと太っ腹な! なんて素晴らしい少年なんだ!」


 料理長が暑苦しい。俺たちは苦笑しながら部屋に戻ることにした。

 料理長、中年ってかんじの歳に見えたな。後から聞いた料理長の名前は、チノイリウリだった。

 そうかー、と思った。


次の更新は、22日(木)です。よろしくー

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