118.初めてお菓子を食べるニワトリスたちと、魔物の肉の価格がわからない俺

「ちょっと在庫確認しますね」

「在庫……ですか?」


 ホテルの支配人は不思議そうな顔をした。


「シロちゃん、今ワイルドボアの解体した肉って何頭分持ってる?」

「ンー?」


 シロちゃんがコキャッと首を傾げた。


「イーチ、ニー……ニー!」


 言い方すっげえかわいいんだけど。

 じゃなくて。


「二頭か。それと今日解体頼んだのがあったよね。クロちゃんてワイルドボアの肉持ってたっけ?」

「ンンー?」


 横にいるクロちゃんがコキャッと首を傾げた。アイテムボックスを調べてくれるの助かる。


「ナイー」

「そっか……」


 そうなると後は俺のアイテムボックスか。

 何故かローテーブルを挟んだ向かい側にいる支配人が汗をかいているように見える。この部屋そんなに暑いかな?


「あと一頭分はあるから……そうなると二頭分ですかね」


 シロちゃんにまんま出してもらえばいいだろう。


「そ、そそそんなにいただけませんっ!」

「えっ?」


 支配人は土下座をする勢いだった。シュワイさんがクックックッと笑う。え? なんで?

 俺は横にいるシュワイさんを見た。


「オトカ、支配人は一頭の半分のつもりで聞いたのだろう。ワイルドボアはそこまで簡単に獲れる獲物でもないからな」

「ええー? だったらそう教えてくださいよ!」


 俺はてっきり持ってるワイルドボアの半分だと思っていたのに。


「そうむくれるな」


 頭撫でられてもそう簡単に宥められないんだからなっ!


「オトカー」


 クロちゃんが反対側からぴっとりとくっついてくる。ああもうこのもふもふかわいいいいいっ!

 反射的にクロちゃんをだっこして膝に乗せた。それなりに重いんだけどこのもふもふをだっこしていると気持ちが落ち着くのだ。もう習慣と言っていい。

 シュワイさんの目が細められて、更になでなでされてしまった。なんでだ。


「オトカ、ワイルドボアの肉は一頭の半分を提供しよう。他に多めにありそうな肉はあるか?」

「えーと、多分ボアとディアーならそれなりにありそうですけど」

「ということだが、ワイルドボアの肉だけでいいか?」


 シュワイさんが支配人に聞く。って、他の人がいるじゃんか何やってんだよ俺ー!

 支配人と給仕の男性が平静を保とうとしているのがわかる。すみません、困らせてしまってすみません。

 とはいえここでクロちゃんを横に下ろすのも違うと思ったので、内心羞恥と戦いながらクロちゃんをなでなでした。ああもうなんでこんなにふかふかでかわいいんだっ!(懲りない


「……できましたら、ボアとディアーも一頭ずつご提供いただけると助かります。そうしていただけましたら三泊分のお代はいただきません」


 三泊分……金貨一枚と大銀貨二枚分の宿泊がタダに……。


「ボアの肉はともかく、ディアーを一頭分となると……そこまで安くはないはずだが」


 シュワイさんが呟く。


「そ、そうでございますね……で、ではもう一泊ご宿泊いただけないでしょうか……?」

「四泊分がタダになると考えていいのか?」

「はい」

「だ、そうだが……オトカはどうしたい?」


 こっちに振られてしまった。えーと、ワイルドボアを一頭の半分と、ボアを一頭、ディアーを一頭分で四泊分がタダ? どうなってんだいったい……。

 俺からしたらそんなに価値があるとは到底思えないんだが、普通はそんなに狩れるもんじゃないかもな。俺一人でボアに立ち向かえって言われても無理、って思うし。

 ってことは妥当だと考えよう。シュワイさんが交渉してくれてるし。


「いいんじゃないですか? それで、不満がなければ……」

「不満などあるわけがございません!」


 支配人に食いつかれた。ってことで、のちほど厨房の方へ持っていくことになった。この部屋まで取りにくると言われたんだけど、どう考えても俺たちが直接行った方が早いのでそうさせてもらう。

 お茶とお茶菓子を用意してくれた男性は、この部屋付きの侍従なのだそうだ。わあ、と思った。離れの横に付いている小屋に寝泊まりしているので、すぐに対応が可能らしい。若いイケメンで、イハウスさんといった。


「おいしい……」


 そういえばこういうお菓子って初めてかもしれない。

 市場で果物とかは買ってたけど、こんな高級そうなお菓子なんて食べたことはなかった。元の世界では普通に食えたけどな。

 ジャムの入ったクッキーである。


「もっと食べるといい」


 シュワイさんがにこにこだ。


「オトカー」


 クロちゃんが興味津々でクッキーを眺めた。


「クロちゃんも食べる? って、魔物にクッキーってあげてもいいのかな?」


 パキッと割って少しあげてみた。普通の動物にはあげたらいけないんだろうけど、魔物だしなぁ。


「オイシー!」

「そう、よかった」


 クロちゃんがそう言ったらシロちゃんが羅羅の上から降りてやってきた。


「タベルー!」

「はいはい」


 シロちゃんにも少しあげた。


「オイシー!」

「ピーチャン、タベルー!」

「どうぞ」


 ピーちゃんにはシュワイさんがあげている。羅羅は肉じゃないから興味はないみたいだ。それでもちょっとだけあげてみた。


「……不思議な味だな」

「もういらない?」

「いただこう」


 羅羅もそれなりに気に入ったみたいだった。

 イハウスさんはそんな俺たちの側に控えていたけど、全く表情は変わらなかった。プロってすごいなと思った。



次の更新は、19日(月)です。よろしくー

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