117.少しごねるニワトリスたちと高級ホテルに泊まる俺

 ロビーにいた女性はまだこちらのホテルに勤務して日が浅かったらしい。

 支配人に頭を深く下げられてしまった。


「い、いえ……悪いのは……」

「魔物を見たら叫ぶのは当たり前だ。ところでこちらでは魔物の肉は調理してもららうことはできるか?」


 シュワイさんが聞いた。


「はい、お任せください! それと従魔がいるということですので、こちらのホテル内ではなく離れに部屋をご用意いたします」

「離れ?」


 俺は首を傾げた。


「はい、一階建てになりますが庭付きの建物でございます。本来ですと一泊金貨一枚いただいておりますが、大銀貨五枚でいかがでしょうか?」


 金貨一枚と聞いて眩暈がしそうになった。

 ひゃくまんえん?

 いくら俺が金持ちでも一泊に金貨一枚は使いすぎだと思うし、その半額だって高すぎだ。ただ、それぐらいするホテルだってこともわかるから価格に文句をつける気はない。


「……そうだな。オトカ、この町にはどれぐらい滞在するつもりだ?」


 聞かれて、ハッとした。そういえばそういう話もしていなかったように思う。


「ええと、できればモール駆除の状況を知りたいのでとりあえず三泊ぐらい、ですかね……」

「三泊か。安くはなるか?」

「れ、連泊でございますので、一泊大銀貨四枚で如何でしょうか?」


 え? 更に安くなんの? と思った。


「それで頼む。魔物の肉もこちらから提供しよう」

「ありがとうございます。ではこちらへどうぞ」


 支配人自らホテルの離れという部屋に案内してくれた。


「おお……」


 それなりに広い居間と簡易キッチン、そして広い寝室が四部屋あった。確かにこれは高いはずだ。居間から見える庭は芝生で、その周りには木が生えている。この木で目隠しがされるんだな。その庭もそれなりに広かった。トイレと風呂場があり、猫足の浴槽があった。


「すごい……」


 まさしく高級ホテルである。


「Sランク冒険者のオカイイ様をお迎えできたことは、わたくしキスイダネカの誉でございます。このベルを鳴らしましたら使用人が参りますので、なんなりとお申し付けくださいませ」

「ああ」


 ソファの後ろに羅羅ルオルオが寝そべった。その上にシロちゃんが乗り、クロちゃんはソファに腰かけた俺の隣にもふっとなった。ピーちゃんはソファに腰かけたシュワイさんの腕に止まった。

 支配人の後ろから男性がお茶を運んできた。執事みたいなかっちりした人である。お茶とかはメイドさんが運んできてくれると思っていたのでちょっとがっかりした。

 まぁでも、ブルータイガーとニワトリスだもんな。従魔だってわかってても怖いだろう。内心反省した。

 ローテーブルにお茶とお茶菓子が用意された。


「従魔の方々には何をご用意いたしましょう?」

「水をいただけると助かります」

「かしこまりました」


 男性はキレイに一礼するとすぐに水を入れた大きめのボウルを四つ運んできてくれた。すごい、かっこいい。

 何故か支配人は出て行かず、俺たちの向かいのソファに腰かけた。何やら俺たちに話があるみたいだった。


「たいへんぶしつけなお願いなのですが……」

「なんだ?」


 シュワイさんが返事をする。


「できましたら、魔物の肉を少し融通していただくことは可能でしょうか? もちろんお金はお支払いしますし、なんでしたら無料でこちらの部屋をお貸しします」


 無料!? と聞いてピクリと反応してしまった。

 いやいやいや、ただより高いものはないぞ?


「……主に魔物の肉を狩っているのはオトカの従魔だ。肉の所有権もオトカにある。オトカ、どうする?」

「うーん……どの肉をどれだけほしいかにもよります。ワイルドボアの肉でしたらそれなりにありますけど……」

「ワイルドボアの肉をお持ちなのですか? できましたら半分、いえ、三分の一でもいいので買い取らせていただくことはできませんか?」


 支配人に食いつかれて、俺はとっさに横にいるクロちゃんを抱きしめた。


「オトカー」


 クロちゃんが嬉しそうに俺の名を呼ぶ。


「ええっと、ちょっと確認します……」


 とりあえずクロちゃんが支配人をつついたりしないように、抱きこんでもふもふした。


「シロちゃん、ワイルドボアの肉半分譲ってもいーい? 他にもお肉いっぱいあるから」

「エー」


 シロちゃんは不満そうに羅羅の上で身体を揺らした。


「明日ギルドで依頼とか確認して、ろくなのなかったら狩りに行ってもいいし」

「カルー!」

「行けなかったらごめん。約束はしないよ」

「エー?」

「ワイルドボアのお肉、だめ?」

「イイヨー」

「ありがと」


 ってことでシロちゃんから許可が下りた。主に狩りたいのはシロちゃんだから、魔物の肉に関してはシロちゃんに聞いた方が早い。


「……主よ……我には聞かぬのか……?」

「んー? 本来は約束破ったんだから一切れもあげなくてもいいけど?」

「ぐぬぬ……」


 羅羅は伏せたままそっぽを向いた。すんごく強い魔物のはずなんだけど、うちだと序列が低いよなぁ。


「ワイルドボアの肉、半分でしたらいいですよ」

「本当ですか!? ありがとうございます。それでは本日の宿泊は無料にさせていただきます!」

「は、はい……」


 うちの従魔たちが狩ったワイルドボアの肉半分が大銀貨四枚に化けた?

 シュワイさんを見る。シュワイさんは頷いた。ピーちゃんはよくわかっていないみたいで、コキャッと首を傾げたのだった。

 でっかいけどインコかわいいな。


次の更新は、15日(木)です。よろしくー

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