116.嘘をついたニワトリスたちとお仕置きする俺

 ぼそっと呟いた「モフモッフーズ」が冒険者パーティ名になりました。

 なんかつらい。

 しかもリーダーは俺とかシュワイさんがさらりと言う。するとギルド長のイカワドルギさんが困ったような顔をした。


「うーん、パーティ名は他と被ったり紛らわしい名前でなければなんでもいいんだけど、少年がリーダーだと、ランクを上げてもBランクパーティになってしまうよ。そうなるとパーティの指名依頼が断れなくなってしまうけど……」

「それは困ります!」


 さすがにそれは即答した。


「……そういうことならしかたない……」


 シュワイさんは大仰にため息を吐いた。


「オトカ、シロちゃん、クロちゃん、羅羅ルオルオ、ピーちゃん。便宜上私がパーティのリーダーでもいいだろうか?」

「もちろんです!」

「イイヨー」

「イイヨー」

「かまわぬ」

「イイヨー!」


 みな快く返事をした。つーかシロちゃんとクロちゃんにとっては誰がリーダーとか関係ない気がするな。

 場所はギルドの裏手の倉庫である。

 すでに狩った獲物を出し、解体のおじさんたちに解体してもらっているところだ。


「ところでシロちゃん、羅羅」


 パーティの話が終わったところで俺はシロちゃんと羅羅ににっこりして話しかけた。

 シロちゃんと羅羅が途端にそっぽを向く。


「小さいのを狩ったって僕は聞いた気がするんだけど、気のせいかなぁ……?」


 どういうわけかシロちゃんのアイテムボックスから出てきたのは、ワイルドボアとワイルドディアーだった。いわゆる巨大なやつである。俺では解体するのが難しい大きさだ。


「キノセイー!」

「主よ、その……目の前に出てきたのでな……」


 シロちゃんは往生際悪く胸を張った。羅羅は言い訳をしている。


「気のせいなわけないでしょっ! これ全然小さくないよっ!」


 俺はシロちゃんをがばっと抱きしめてセクハラし始めた。

 キョキョエーッ!? とシロちゃんが奇声を上げる。シロちゃんは自分から抱き着くのはいいけど俺から抱き着かれて触られまくるのは苦手なのだ。

 ああもうこのかわいいもふもふはっ!

 お仕置きだー!

 羅羅はクロちゃんにつんつんされてぱたっと倒れた。


「オトカー、セクハラー!」


 あまりにももふもふを堪能しすぎたせいか、ピーちゃんにつつかれてしまった。すみません、シロちゃんがかわいすぎてやりすぎました。


「も、もうっ、言ったこと守らないとだめだよっ!」

「オトカー、ヤーッ!」


 放したらシロちゃんにつんつんつつかれた。痛い痛い痛い。


「こらっ! 悪いのはシロちゃんでしょー!」

「オトカー、ダメー!」


 つんつんつんつん。


「おお……」

「ニワトリスにつつかれたらやヴぁいんじゃないか……?」


 解体しているおじさんたちの呟きを聞いてはっとした。そうだよ、普通はニワトリスにつつかれたら麻痺するんじゃないか。


「シロちゃん、終わり!」


 そう言えば、シロちゃんは不満そうな顔をしながらも止めてくれた。ふぅ。


「……少年は麻痺しないのかな?」


 イカワさんが楽しそうに聞く。


「個人の能力を聞くのはぶしつけではないか?」


 シュワイさんが牽制した。


「それはそうなんだけど、もしニワトリスにつつかれても麻痺しないなんて間違った認識をする者が現れたらたいへんだろう? 被害が広がるのはよろしくない。そうでなくてもニワトリスがアイテムボックス持ちという話は聞いてるしね」


 それはキタキタ町のギルドから流された情報だろう。だからってニワトリスのつつきをどうにかしないと飼いならすことはできないはずだ。


「……つつきがなくともニワトリスは強いが」

「うん、それは知ってる。Bランク冒険者が五人でようやく倒してくる魔物だ。そう簡単に倒せはしない。しかも少年はブルータイガーも連れている。誰も君たちにはちょっかいを出そうとはしないだろうね。……愚か者でもないかぎりは」


 イカワさんは笑顔だ。その目が笑ってないけど。


「そういえば、シュワイさんがリーダーってことはSランクパーティになるんですか?」


 気になったことを聞いてみた。


「そうだね。本来は少年がDランクだから、どんなに上げてもAランクパーティがぎりぎりかなってところなんだけど、従魔が強すぎるからSランクで問題ないよ。まぁ、他にAとかBランクの冒険者を仲間に迎えれば誰も文句は言えないんじゃないかな」

「私がいるのにか?」


 シュワイさんがさらりと聞く。


「……オカイイは随分と図太くなったね。少年のおかげかな?」

「そうだな」


 シュワイさんがこちらを見てフッと笑う。イケメンのフッ、いただきました。全然嬉しくないけど。

 美女のフッがいただきたいです!

 リフナホアさん来てくれないかな。彼女、しゃべりはあほっぽいけど美女なんだよなぁ。花がほしいです!

 解体が終わるのは夕方だと聞いたので、今日はそのまま宿を探しにいくことにした。


「それなりに高いところがいいだろう。従魔もいることだしな」

「そうですね」


 お金はあるから問題ない。

 そうしてシュワイさんに案内されたホテルは、すんごく高そうだった。


「……ここ、おいくらですか?」

「最低で一泊大銀貨三枚だな」


 さんじゅうまんえん?


「さ、さすがに高すぎませんか!?」

「従魔も部屋に入れるとなるとこれぐらいのクラスでないと無理だぞ」

「えええええ」


 ただの冒険者のはずなのにこんな贅沢をしても許されるものなのだろうか。

 遠い目をしている間に羅羅の尻尾に絡め取られて羅羅の上に乗せられた。だから、このスタイルはどうかと思うんだよ。前にはクロちゃん、後ろはシロちゃん。ピーちゃんはシュワイさんの腕に止まった。


「入るぞ」

「えー……」

「……ぎゃあああああ! 魔物がっ、魔物がぁっ!!」


 案の定ホテルのロビーにいた女性に叫ばれてしまったのだった。うんうん、でっかいブルータイガーは怖いよな。



次の更新は、12日(月)です。よろしくー

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