113.自己主張をするニワトリスたちと、町へ入るまでの俺
キタニシ町の防衛隊の人は三人だった。
何かあった時の為に見回りとかは三人以上で行っているんだろう。
「そ、それでその、魔物は……」
林を出て、街道の邪魔にならない場所で俺たちは事情聴取されることとなった。代表として一人一歩前に出てきた。足が震えているし、目も逸らしている。本当に申し訳ないと思った。
「僕の従魔です」
「ぜ、全部、なのか……?」
「はい、そうです」
「……ということはテイマーの魔法持ち、なのか? まぁ……首輪はしているから、大丈夫、か……」
「はい、その……僕に危害を加えようとしなければ大丈夫だと思います。あとは従魔たちに敵対するような行動を取らなければ……」
「……従魔ってのは人には危害は加えられないんだろう……?」
黙っていた一人が呟いた。いい質問だと俺は思ったが、シュワイさんは眉を寄せた。
「首輪の約束上、確かに人に危害は加えられないことになっていますが、ニワトリスのつつきに関してはその判定はないみたいです。あと、ブルータイガーは脱毛の魔法が使えますので」
「だ、脱毛!?」
途端にみな兜を被っている頭を押さえた。
「……全身の毛がなくなるだけだがな」
羅羅がぼそりと呟いた。羅羅にとってはあんまり問題にならないんだよねぇ。羅羅は魔物だからなんなのか、自分に脱毛魔法をかけてもすぐに生えそろうみたいだし。かといって他の魔物に試してもらう気にはなれないけど。
「しゃ、しゃべった……」
「魔物が……」
「意志の疎通はできますので、よほどのことがなければ……」
「わ、わかった。隊長に聞いてこよう。ここで待っていてもらえるか?」
「Sランクのオカイイの連れであると伝えてくれ」
「承知しました!」
防衛隊の隊員は一人この場に残り、あとの二人は町の門へ駆けて行った。
残された隊員は青ざめて立っている。羅羅がその場に伏せた。
「降りなくていい? 重くない」
「主とシロ殿クロ殿の重さなどなんのことはない。かえって心地いいぐらいだ」
「それならいいけど」
「ピーチャンハー? ピーチャンハー?」
「ピーが重いはずがあるか。羽のようだぞ」
ピーちゃんは機嫌よさそうに羅羅の頭の上でジタジタしている。
「オトカー」
「ウゴケー」
クロちゃんは俺にくっついているからご機嫌だ。シロちゃんは退屈らしい。
「シロちゃん、もう少し待ってねー」
「タベルー」
「あ、そっか。ごはんまだだったね。今のうちに食べた方がいいかな」
俺のリュックから出すフリをして、羅羅とシロちゃんに切り分けておいたボアの肉を出した。一度羅羅の上からどき、食べてもらう。防衛隊の人は更に青ざめた。
ガツガツと勢いよく食べている姿が怖かったみたいだ。ごめんなさい。本当にごめんなさい。
「オヤツー?」
ピーちゃんが俺の腕に止まってコキャッと首を傾げた。
「なんか食べる?」
またリュックから出すフリをして毒草と毒キノコを出し、ピーちゃんとクロちゃんにあげた。二羽共嬉しそうに食べてくれるのがいいよなって思う。
「そ、それって……毒……」
「魔物は毒を含む物も好んで食べるんですよ」
「……強いはずだ」
意外と知らない人多いよな。ただ一般的に言われる毒薬とかってどうなんだろう。魔物にはそういったものは効くのかな?
ポイズン系の魔物もどうなんだろう。魔物同士だったら毒を含む身体を持ってたって忌避する材料にはならない。人間とか魔物以外の動物にとっては嫌がられるし、処分もたいへんだから敢えて狩ったりはしないだろうけど。
人間を忌避して、とか? まさかね。
そんなことをしている間に町の方から五人ぐらい防衛隊の人たちがやってきた。一人はなんか偉そうなかんじで、一人はローブを着ているからきっと魔法師さんなんだろう。
シュワイさんが立ち上がって前に出た。
「羅羅、オトカを」
「わかった」
「えっ?」
みなに浄化魔法をかけた後だった。羅羅の尻尾で絡め取られて羅羅の上へ。あとはいつものポジションである。だから、基本がこれってどうなんだよ?
彼らは俺たちの姿を認めると、少し離れたところで止まった。
「Sランク冒険者、オカイイ殿はどなたか?」
朗々としたとてもいい声が届いた。
「私だ」
「初めまして。キタニシ町で防衛隊長を務めるダバンラという。従魔を連れていると聞いたが……」
「オカイイだ。従魔は私ではなく、このオトカという少年が連れている。ブルータイガーとニワトリス二羽、そしてインコが一羽だ」
「ほう……そこな少年が。もしかしてテイマーなのか?」
「そんなようなものだ」
テイマーという職業はあるんだよな。そういう人は動物を従える能力はあるけど、魔物に関してはその人の実力が伴っていないと従えられないとか聞いている。俺はそういう魔法は持ってないけど、みんな納得して側にいてくれる。ありがたいなと思うばかりだ。
「ふむ。その従魔は人には危害を加えないと聞いているが大丈夫かね?」
「僕が危害を加えられたり、自分たちに生命の危機を感じればその限りではないと思います」
「正直でいいことだ。わかった。防衛隊長ダバンラとしてキタニシ町に入ることを許可しよう」
「ありがとうございます」
というやりとりを経て、俺たちはやっとキタニシ町に入ることができた。門の前には人々が待っていたが、それをスルーして入る。なんか申し訳ないなと思ったけど、ブルータイガーが並んでたらみんな生きた心地がしないだろうしな。
俺たちが通る時、並んでいる人たちが目を見開いたり、小さな悲鳴を上げたりしていた。ホントすみません、と思ったのだった。
次の更新は、8/1(木)です。よろしくー
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