112.どうしても狩りがしたいニワトリスたちと、がんばって叱る俺
もふもふたちのおかげで快適な目覚めだった。
実家から持ってきた薄い毛布は健在だが、更に掛布団も買ったからである。
お金があるって素晴らしい!
武器と皮鎧と靴は早めに買ったけど、生活用品ってあんまり考えてなかったんだよな。特に布団に関してはもふもふがいるものだから余計に。
でも浄化魔法もあるんだし、掛布団一枚買っても贅沢ではないはずと思ったのだ。
金貨を大量に持っていても貧乏性は消えないらしい。
いや、つーか普通この短期間で金貨百枚とか稼げないから。
「主よ、起きたか」
「うん、おはよ」
シュワイさんはすでに起きて鍛錬をしていた。
「オハヨー」
「オトカー」
「オハヨー」
みんな俺より早起きだ。シロちゃんとクロちゃんの卵をありがたく回収し、朝食を作ることにした。
「おはよう、オトカ。私が作ろうか」
「いいんですか?」
「ああ、かまわない。すまないが浄化魔法をかけてもらってもいいか?」
「はーい」
シュワイさん、いっぱい魔法が覚えられるし、すでにかなり使える魔法も多いけど浄化魔法は使えないらしい。ほこりとかは風魔法で吹き飛ばしていたと言っていた。魔法の使い方ぁ。
鍛錬して汗だくのシュワイさんに浄化魔法をかける。途端にさわやかシュワイさんになった。青い長髪もさらりと揺れる。
くそうこれだから美形ってやつは。
シュワイさんに卵を渡し、ストレッチし始めたら羅羅とシロちゃんがじりじりと離れていこうとしているのが見えた。
「こらっ!」
「小さいのだけだー!」
「カルー!」
羅羅とシロちゃんが一目散に駆けて行ってしまった。
「全く……」
どうしても狩りがしたくてたまらないらしい。まぁ林の中だから大した獲物は獲れないとは思うけど。……ってあいつらスペック高すぎてどこまでも遠くまで行けるんだった……。
ピーちゃんとクロちゃんは戯れるように追いかけっこをしている。これだけ見るとすごく平和な光景なんだけどなー。
とりあえず一通りストレッチを終えると「できたぞ」とシュワイさんから声がかかったので朝飯を食べることにした。
「羅羅とシロちゃんは狩りか」
「……言うこと聞いてくれなくて困りますよ~」
「本能だからしかたないだろうな」
シュワイさんはそう言って笑う。
全然笑いごとじゃないんだけど。
しっかしなんで目玉焼き一つでも作る人が違うとこんなに味が違うのだろうか。確かに調味料も香辛料もありったけ買ってはきたけどさ。
野草とキノコのスープ、買っておいたパン、目玉焼きとワイルドボアのコロコロステーキという豪勢な朝食だ。
これ野宿で出てくる飯じゃないだろ、普通。
シュワイさん特製の朝食に舌鼓を打っていたら、羅羅とシロちゃんが戻ってきた。
俺はわざと不機嫌そうな顔をして立った。
「羅羅、シロちゃん、どこ行ってたの?」
「狩りだ。一頭だけ狩ってきた」
「オトカー、キルー!」
羅羅は言いつけを破ったという自覚があるのか、目を逸らしながら。シロちゃんは得意げに頭をクンッと上げて答えた。
「羅羅、シロちゃん。俺は狩りには行かないように昨夜言ったよね? 守れない悪い子はどうしたらいいかなぁ?」
ゆっくりと羅羅とシロちゃんに近づきながら笑顔で話し、きょとんとしているシロちゃんをがばっと捕まえた。
キョワァー!? とシロちゃんが驚きの声を上げる。
羅羅のことはクロちゃんがそっと近づいてつついた。それで羅羅はバタッと倒れた。
「シロちゃん! いいかげん俺怒るよ!」
「カルー! ダイジー!」
「いっぱいお肉あるでしょっ! 必要以上に狩ろうとするんじゃありませーん!!」
「ヤーッ!」
「いいかげん言うこと聞きなさーい!」
と、騒いでいたのが悪かったのかどうなのか。
「オトカ、町の防衛隊だ」
シュワイさんに言われてギクッとした。朝からうるさくしすぎたかも。
あんまり怒られないといいなぁと思った。
キタニシ町の防衛隊と思しき人たちも、おそるおそるというかんじで向かってきているみたいなので、シロちゃんを再度叱った後片づけをした。
羅羅とシロちゃんが目でごはんを訴えてきているのはわかったが、今はそれどころではない。だいたい朝飯前に狩りになんか出かける奴らが悪いのだ(さすがに羅羅の麻痺は解いた)。
「あとで」
シロちゃんが懲りずに俺をつんつんとつっつく。
「痛いから止めなさい」
「タベルー」
「あとでー」
ぎゅっと抱きしめた。
そんなことをやっている間に防衛隊の人たちが着いたみたいだった。
林の向こうから声がかかる。
「朝から騒がしくしているのは誰だ!」
「すまない。Sランク冒険者のオカイイという」
シュワイさんが出ていった。
「Sランクぅ!? そ、それは失礼しました!」
うんうん、Sランクじゃしょうがないとか思うよね。そういうものじゃないとも思うんだけどね。
「いや、仲間たちとつい楽しくなってしまってな。これからキタニシ町に向かう予定なのだが、仲間も一緒に審査してもらっていいだろうか」
「はい、もちろんです!」
「できれば驚かないでほしいのだが……」
羅羅の尻尾に絡め取られ、俺は羅羅の上に乗せられた。俺の前にクロちゃん、後ろにシロちゃん。羅羅の頭の上にピーちゃんといういつもの状態で、林をゆっくりと出る。
「なっ、なななななんでここに魔物があああああ!?」
「私の仲間だ。彼らは相棒の従魔だ。首輪を見ろ」
防衛隊の人たちは一瞬でパニックを起こしたが、シュワイさんに言われて徐々に落ち着いた。
朝から驚かせてごめんなさいと思ったのだった。
次の更新は、29日(月)です。よろしくー
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