110.少しいじわるなニワトリスたちと、いろいろ挨拶に向かう俺
本屋で文字を習う為の本とか、この国についての本とかが買えてよかったと思う。
でもさぁ……精神がかなりごりごり削られたよ。
俺は十歳の無垢な男の子! と自分に言い聞かせなきゃいけなかったぐらいに。俺の中身が43歳のおっさんだなんて誰が思うんだろうか。これ、いずれシュワイさんに伝えないといけないかな? いや、別にいいか……。
子どもの妄想と片付けられるのがオチだな。前世の知識があって役に立ったのは羅羅との出会いぐらいだし。
いろいろ買ってチャムさんの家に戻る。
夜はチャムさんが泣いた。
ちょっとうざい。
「シュワイはともかくオトカ君がいなくなるのはつらいです!」
チャムさんはきっぱりとこう言った。
「俺、って言うより魔物の肉ですよね。チャムさんがなくなってつらいのは」
苦笑した。夕飯の後である。ソファでくつろぐ俺の膝の上にクロちゃんがもふっと乗っていて、落ちそうなんだけど落ちないというバランスで俺にぴっとりと寄り添っている。超かわいい。
「ぎくっ」
チャムさんてホント素直だよなぁ。
感心してしまう。
シロちゃんは俺の側でじーっとチャムさんを見ている。そして嘴を開いた。
「アゲナーイ」
「え?」
「チャム、アゲナーイ」
「えええええ~……シロちゃんひどい……」
チャムさんがよよよと泣く。
「シロちゃん、チャムさんをいじめちゃだめだよ。おうちに置いてもらってるんだから、ね?」
「オトカー、オカネモチー」
「どこで覚えたのその言葉?」
なんでシロちゃん、俺が金貨を沢山持ってることを知っているんだ? しかもそれがいろいろ物を買ったりするのに必要なものだってなんで? って、まぁ硬貨の山はギルドで見てるっけ。
シロちゃん頭よすぎじゃね? クロちゃんをなでなでしながらにまにましてしまった。
「ううう……毎朝銀貨2枚払いますからぁ……」
「いやいやいやいや……」
チャムさんてばどんだけ魔物の肉が食べたいんだよ。
「チャムさん、ご自身でも魔物は狩れるでしょ? いちいち俺にお金払わなくたって食べられるじゃないですか」
そう、チャムさんも能力は高いんだから俺たちにお金を払う必要はないと思う。つーか、そんなに食べたいなら自分で狩りに行ってほしい。
チャムさんは、はーっとため息をついた。
「そういうことじゃないんですよぉ……オトカ君たちとの生活が楽しいんです」
「ありがとうございます」
そう言ってもらえたのは嬉しいけど、明後日にはこの町を出ていくつもりだ。明日の夜はアイアンのみなさんとごはんを食べることになっている。
「お肉、多めに置いていきますね」
「そんなぁ~」
俺にできるのはそれぐらいだ。
「……仕事を辞めて付いてくるか?」
シュワイさんもそういうこと言うの止めて。
「……私ももっと若ければねぇ……」
チャムさんがため息をつく。それで話は終わりだった。
翌日はギルドに顔を出して、町を離れるからと挨拶をした。
「そうか。すっかりみんな慣れただろうがな。寂しくなるな」
「また来てくれると助かる」
ドルギさん、ルマンドさんに言われて笑顔になる。夕方にアイアンの面々とギルドで待ち合わせだ。それまでにいろいろなところへ挨拶に向かった。もちろん領主館には絶対に寄らない。
羅羅の背に当たり前のように乗せられて移動した。すっかり町のみなさんも俺たちが羅羅の上に乗って移動している光景に慣れてしまったらしい。
子どもに手を振られて、何度か振り返した。
俺はともかく、羅羅がみんなに受け入れられてよかったと思う。
市場のおじさんやおばさんたちにも残念がられた。
「ええー、町を出ていくのかい? せっかく仲良くなったのにねぇ」
そう言いながら果物を売っているおばさんがりんごをくれた。
「餞別だよ。是非食べていっておくれ」
俺が持ったりんごをピーちゃんがつつく。
「オイシーイ!」
「それはよかった。インコが喜んで食べるりんごだよー! おいしさは保証付き! さぁ買った買った!」
いい宣伝材料にされてしまったが、これぐらい逞しい方がいいと思う。
りんごを五つ買って移動した。
そして夕方、アイアンの人たちと従魔も連れていける食堂へ向かった。俺はりんごをしぼったジュースをもらった。
「旅に出ちまうのか。さみしいなぁー」
キュウさんがお酒を飲みながらしみじみと呟く。
「ここから近い町だとキタニシ町だけど、オトカ君はそっちへ向かうの?」
剣士のナイティーさんに聞かれた。
「そうですね。まずはキタニシ町に行ってから考えようかと思ってます」
「西とか北に向かうのはかまわんが、あまり南には行かない方がいい」
リーダーでマッチョマンのマッスルさんが低い声で注意してくれた。
「どうして、ですか?」
「……ここから南はリバクツウゴの領地だ。あの領主は珍しい魔物を集めるのが好きだから、下手すると捕まってしまうかもしれない」
「ええー……」
やっぱ住んでた村の領主、ろくでもないんだなぁ。
「覚えておきます。ありがとうございます」
でもいずれ例の領主には会うことになりそうな気がする。これはただの予感だけど、なんとなく俺は確信していた。
「オトカー」
クロちゃんが機嫌よさそうにくっついてきたのをなでなでして、今はアイアンの人たちとの食事を楽しんだのだった。
次の更新は、22日(月)です。よろしくー
誤字脱字などの修正は次の更新でします
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます