109.買い物に付き合ってくれるニワトリスたちと、やっぱり不機嫌な俺

 知らないことばかりだなって思う。

 小さな村と隣村ぐらいしか知らなかったんだからしょうがないんだけどさ。

 そういえば俺がいた村の周りの森の中ではポイズン系の魔物って見たことがなかったと思う。シロちゃんクロちゃんが獲ってきたのもボアばっかりだったし。たまにワイルドボアが獲れて村を挙げて宴会とかもしたっけ。懐かしいなぁ。

 母さん、元気かな。

 父さんとか兄妹のことはどうでもいいと思ってしまうんだけど、母さんのことだけはどうしても思い出してしまう。

 チャムさんの家の居間でしんみりしていたら、クロちゃんがぎゅーってくっついてきてくれた。


「オトカー」


 首をコキャッと傾げる仕草に癒される。


「クロちゃん、ありがと」


 俺、本当にニワトリスたちに出会えてよかったな。クロちゃんにもふもふさせてもらった。



 そろそろ町を出るからと、翌日はシュワイさんと買い物へ行くことにした。

 ギルドにも顔を出し、夕方までに終わりそうな依頼がないかどうかは確認した。薬草類が主だったので、それだったら薬師ギルドへ持っていけばいいなと思った。

 ボードの依頼が読めるようになってきて、珍しい魔物の生け捕りについての依頼があるのを見るようになった。依頼人の名は書かれていないが、これは絶対俺が住んでた村の領主が出した物だろうと思った。

 そこに求める魔物が書かれている。ニワトリスというのを見てカッと頭に血が上りそうになった。


「オトカ」


 シュワイさんが気づいてくれて俺の肩にそっと手を置く。


「……大丈夫です」


 魔物を狩って食べるのは生きる為だ。だけど生け捕りにして従えるのは違う。冒険者の相棒としてならばわかるけど、絶対あの領主は生け捕りにした魔物にいい待遇はしないだろうと思うのだ。


「オトカー」


 クロちゃんがぴっとりとくっついてきたから、だっこして気持ちを落ち着けた。

 うちのニワトリスは俺の癒しだ。

 武器屋では武器、というか肉切り包丁とか剣鉈、腰鉈などを何本か買った。折れた時の予備がほしいし、獲物によって武器を変えるということは聞いていたから。

 なにせ金貨が山ほどあるので使いたいというのが本音だった。俺が使えそうな武器を全て買っても、金貨一枚にもならなかったんだけどさ。

 つか、金貨一枚で約百万円相当だし。

 俺が村にいたら一生見なかった貨幣だな。

 ホワイトムース、どんだけレアなんだよ。

 アイテムボックスがあってよかった。金貨一枚でもけっこうずっしりくるし、それを今百枚ぐらい持ってるわけで。

 俺、今超大金持ちじゃん。約一億円とか元の世界でも稼いだことないわ。うん? いや、43歳の時点で総額はどうだったかな? ……わかんないな。


「オトカ、どうかしたのか?」


 武器屋を出たところである。シュワイさんに声をかけられてはっとした。羅羅とニワトリスたちにもじいっと見られてちょっと困った。


「あ、いえ……なんともないです」

「そうか? また本屋にでも行くか?」

「それもいいですね。あ、でも僕のこと縦抱っこするのはなしでお願いします!」


 シュワイさんは目を丸くした。


「その方が早いだろう?」

「梯子があったじゃないですか」

「私が抱えた方が早い」


 それは間違いないんだけど、店員さんの視線が痛いから止めてほしいのだ。


「もうっ、シュワイさんは僕に対して過保護だと思います!」


 ビシッと指をつきつけて言ったら、シュワイさんは考えるような顔をした。


「私が、過保護……」

「主よ、効率がいい方がいいのではないか?」


 なんで羅羅がシュワイさんに援護射撃するわけ?


「えっ? じゃあ羅羅も想像してみてよ。シュワイさんに縦抱っこされるて高いところの物とか取るの。なんか恥ずかしいし情けなくない?」


 小声で聞いた。


「ううむ……主が縦抱っこされる姿はかわいいのではないか?」

「はい!?」


 自分自身が縦抱っこされて、ってのを想像してほしかったんだけどなぁ。まぁ、羅羅ほど身体が大きいと想像自体が難しいか。


「かわいいって何!?」


 俺はかっこよくなりたいんだけど。もちろんシュワイさんほどじゃないけど。つーか、シュワイさんは背もすんごく高いし、顔面もすごいからきっと誰もかなわないんだけどさ。


「カワイイー」

「オトカー」

「カワイイー」


 シロちゃん、クロちゃん、ピーちゃんに言われて撃沈した。


「ううう……」

「オトカ、本屋が嫌ならば雑貨屋へ行こうか」


 シュワイさんにも気を遣わせてしまった。

 かわいいから脱却したい。


「もー、かわいいのはシロちゃんクロちゃんとピーちゃんでしょ!」

「オトカもかわいいぞ」


 シュワイさんにさらりと言われて腹が立った。そりゃあ俺はまだ十歳ですけどね。

 中身は43歳のおっさんなんだっつーの。

 何がしたいんだかよくわからなくなってしまった。

 意地を張ってもしょうがないので雑貨屋へ向かい、必要そうなものを片っ端から買って行く。アイテムボックスがあるから入れ放題だ。

 そして本屋へも行った。梯子を借りようとしたのだが、店員のお姉さんに不思議そうな顔をされてしまい、やっぱりシュワイさんに縦抱っこされて本を探すことになってしまった。解せぬ。



次の更新は、18日(木)です。よろしくー

男の子のプライド!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る