105.待っているニワトリスたちと、付き合わされる俺
バラヌンフさんとチャムさんはある程度当たりをつけて剣を突き立てたりしていたけど、防衛隊の他の面々はどうしたらいいのかわからないみたいだった。結果ところどころに穴を掘り、モールが運よく顔を出したら捕まえるという方法に落ち着いたようだった。
「これでは時間がいくらあっても足らぬな……」
領主であるキズノモ様が呟いた。
「確かにこれでは食べていけんだろう。モール駆除には今後補助金を付けることにしよう」
「その方がいいですね……」
隊員たちが掘った穴にハマり泥だらけになったチャムさんが、疲れたように同意した。チャムさんて意外とどんくさいんだなとか失礼なことを思った。
彼らの動きを見ながらお茶を飲み、従魔たちには肉をあげた。ピーちゃんはそこらへんの草をつつくことにしたらしい。
なかなか終わらないので、農家さんに許可を取ってボアの肉を野菜と一緒に焼いてもりもり食べた。もちろん農家さんたちにも分けたし、どさくさに紛れて領主も食べていた。まぁいいけど。
「オトカー」
クロちゃんがご機嫌で尾を振っている。びったんびったんと土に叩きつけられているのが非常に危ない。シロちゃんは肉を食べ終えるとコキャッと首を傾げた。
「シロちゃん、どうしたの?」
「マダー?」
「あー……」
まぁうん、時間はかかるよね。
ちなみに防衛隊で鑑定魔法持ちはチャムさんともう一人ぐらいらしい。そのもう一人は鑑定魔法の使い方に応用がきかないせいか、結局土を掘り返していた。
普通はこんな風に穴を開けまくってモグラ叩き的なことをして駆除をするみたいだ。
確かに……うちの村でもそうだったかな。
シロちゃんとクロちゃんが来てから、なんか鑑定魔法だけじゃなくて注意すれば気配みたいなものを感じ取れるようになった俺からすると非効率この上ない。でも探知魔法的なものを持っていないと厳しいんだろうなと思う。
今日参加した防衛隊の面々には探知魔法を使える人はチャムさんを除いて一人もいなかったようだ。探知魔法が使える人たちは北の山に派遣されているらしい。たいへんな仕事だよなぁ。これ以上北の山の魔物が降りてこないことを祈る。
羅羅は肉を食べてから満足そうに寝そべっている。基本的にはそれほど動きたいとは思っていないみたいだ。
ピーちゃんもシュワイさんの肩に乗って毛づくろいしている。
一番パワーが余っているのはシロちゃんだ。いつまで経っても終わらないことにご立腹らしい。みんなそんなにニワトリスほど狩りの能力は高くないんだって。
「オトカー!」
「シロちゃん、なぁに?」
「タッタッター!」
「ええー……」
シロちゃんの言う「タッタッター」は追いかけっこだ。
「オトカー、タッタッター!」
「俺が逃げるの?」
聞けば、シロちゃんは頷くように頭を前に動かした。
「しょうがないなー。畑の周りだけだよー」
シロちゃんは退屈なんだからしょうがない。
「じゃあ、俺が十数えたら追いかけてきてね?」
「ワカッター!」
途端にシロちゃんの尾がびったんびったん揺れる。シュワイさんと領主はなんのことかわからないという顔をしていたが、今はシロちゃんのご機嫌を取ることの方が重要だった。軽く二人に手を上げて、数を数えながら走り始める。
けっこう本気で走らないとニワトリスたちにはすぐ捕まってしまう。
「……」きゅーう、じゅうっ!」
数えたところでシロちゃんがドドドドドと追いかけてきた。
やヴぁい、本気だ。追っかけっこにならないってばー!
俺もそれなりにがんばって走ったのだが、畑を四分の一走ったところでシロちゃんにつつかれてしまった。
「はーっ、はーっ、はーっ……シロちゃん、速いってー……」
「オトカー、オソイー」
「知ってる」
自分でもわかってるんだよそんなことは!
「次は俺が追いかけるよ~」
「ホンキー?」
コキャッとシロちゃんが首を傾げる。くそう、めっちゃかわいいなこれ。
「本気、本気」
「ワカッター」
シロちゃんがためもなくいきなり走り出す。それを俺はどうにか追いかけた。
だから、本気出されたら速すぎるんだってば!
「オトカー!」
途中でシロちゃんが立ち止まって俺を振り返る。もっとがんばって走れってことなんだろう。
俺は俺なりにがんばってるんだよー。
「……思ったより速いな」
「オトカは魔法を持っていない」
「それであれだけ速いのか? かなりの身体能力だな」
シュワイさんと領主が何やら話していたようだが、俺はそれどころではなかった。
広い畑の周りを五周もさせられて、汗だくになって倒れた。もう降参という合図である。シロちゃんがそれに気づいてドドドドドーッ! と走って戻ってきてくれた。
「オトカー」
「も、無理……」
「オソイー」
「そ、だね……」
ニワトリスの走るスピードに勝とうと思ったら身体強化魔法が必要だよなと思う。でも俺が覚えられる魔法は二つだけで、その二つも埋まってしまっている。
どうにか立ち上がり、ふんすとしているシロちゃんを抱きしめた。ちょっとは機嫌が戻ったみたいだ。
「シロちゃんはすごいなー」
「スゴイー?」
「うん、すごいよー」
シロちゃんの尾がびったんびったん揺れる。
そんなシロちゃんをしみじみとかわいく思ったのだった。
次の更新は4日(木)です。よろしくー
誤字脱字等の修正は次の更新でします。
ニワトリスかわいいよニワトリス
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