104.狩りはお手の物なニワトリスたちと、やっぱり勝てない俺

 シロちゃんの暴挙を止めたところで、気を取り直して作業を再開することにした。


「オトカー」


 機嫌を直してくっついてくれるシロちゃんがたまらない。

 みんなの視線が生ぬるい気がするが考えたら負けだ。しょうがないだろ、俺をつつくのを止めさせるには抱きしめる方が早いんだから。


「コホン、これから畑に直接入ってモールを駆除します。従魔も一緒なので畑はめちゃくちゃになってしまいますが、このやり方で今まではモールを全て退治してきました」


 説明をしてから農家さんたちが頷くのを待って、従魔たちと畑に足を踏み入れた。今回はやり方を見せた後実践してもらうので、俺が二匹ほど狩ったら一旦止めることになっている。

 というわけで従魔たちにはあまり離れないで作業してもらうことにした。


「じゃあ、始めるよー!」


 従魔たちに声をかけて、俺は神経を研ぎ澄ませた。

 近くにいないことを確認して移動していく。

 あ、いた。

 地面の下で動いているのを確認し、解体用の先の尖ったナイフを進行方向に突き刺した。土の中の動きを感じる。

 もう一本突き刺して動けなくし、先に刺したナイフを引き抜いてから次を探す。

 畑の外でざわついた気配を少し感じるが、こちらへ向かってくるモールの存在を感じ取り、またナイフを地面に突き刺した。

 うん、手ごたえあり。


「終わりー!」


 従魔たちに声をかける。


「早かったな」

「エー」

「オトカー」


 羅羅は三匹、シロちゃんは四匹、クロちゃんは三匹狩ったらしい。短時間でも並ばないとかちょっとへこむ。ピーちゃんはシュワイさんの肩の上で毛づくろいをしていた。うん、優雅だね。


「オトカ君が突き刺したところにモールがいるのかい?」


 チャムさんに聞かれて頷いた。掘り返してみれば、果たしてこと切れたモールが二匹。


「すごいね。どうやって土中のモールの動きを感じ取ってるんだい?」

「うーん……」


 これについてはなにか魔法を使っているともいえない。経験として、神経を研ぎ澄ませると、土中でもある程度の深さまでは生き物が動くのを感じ取れるのだ。


「説明できないです。鑑定魔法を使えれば比較的簡単だとは思いますけど……」

「今までモールを狩ってきた勘みたいなものなのかな」


 チャムさんは苦笑した。


「土の中の存在を感じ取って、か……シュワイはできるのかな?」


 チャムさんがピーちゃんを撫でているシュワイさんに声をかけた。防衛隊の人々がどよめく。


「おそらく、できるとは思うが……」

「試しに一匹、捕まえてみてくれないか?」

「生死は問うなよ」

「えっ?」


 シュワイさんは俺に近づき、「ピーちゃんと待っていてくれ」と言った。俺の腕にピーちゃんが止まる。羅羅は畑の中に残ったが、俺はクロちゃんとシロちゃんにぐいぐい押されて畑から出されてしまった。

 なんなんだよー。

 シュワイさんが畑に入り、ゆっくりと歩き始めた。ゆっくりなんだけど無駄のない身のこなしっていうんだろうか。獲物を狩る時のシュワイさんの動きはとにかく洗練されている。

 畑を歩きながら、シュワイさんがいきなり素早く動いた。

 ザンッ! と畑に短剣を突き刺す。


「こういうことか。狩ったぞ」

「確認しますねー」


 防衛隊の人が短剣を突き刺した場所を掘り返すと、果たしてモールがこと切れていた。


「うーん、オトカ君もシュワイも動きがすごすぎて参考になりませんねー」


 チャムさんが首を傾げた。


「手順はわかっただろう」


 バラヌンフさんが言い、今度は防衛隊の面々が実践することになったようだ。シュワイさんと羅羅が戻ってきた。


「お疲れ様です」


 声をかけるとシュワイさんは頷いた。


「思ったより神経を使う。これを普通にやっているオトカはすごいな」

「はい?」


 俺にとっては普通なんだけどな。もちろん神経を研ぎ澄ませるからある程度は疲れるけど、俺が使える魔法は少ないんだからしょうがない。経験やら工夫で補うしかないのだ。もちろん筋トレもしている。

 ただ、やっぱ魔法を多く使える人にはかなわないと思う。そこは自分なりにやっていくしかないのだ。

 ピーちゃんは俺の腕からシュワイさんの肩に飛び移った。やっぱり高いところが好きらしい。

 チャムさんが指揮を執る形で防衛隊の人たちと作業を始めた。


「あと何匹ぐらいいるんだろうな」


 シュワイさんが呟いた。


「うーん、あの短時間で十二匹も狩れたわけですから、少なくとも二十匹ぐらいはいそうですよね」

「日が暮れるまでに終わると思うか?」

「どうでしょう」


 コツさえ掴めばあとは早いと思うんだよな。バラヌンフさんも楽しそうに土を掘り返している。本当は現場でいろいろやりたい人なのかもしれない。


「オトカー」

「はいはい。かわいいかわいい」


 ちょっと照れ隠しにそっけなく言ってみるんだけど、ついつい顔が緩んでしまうのはしょうがないことだろう。後ろにくっついているシロちゃんをなでなでする。

 あー、もううちのニワトリスたちはなんてかわいいんだろ。

 前からぐいぐいくっついてくるクロちゃんを抱きしめてなでなでしながら、しばらく彼らの動きを見学しつつ、お茶を飲むことにしたのだった。



次の更新は、7/1(月)です。よろしくー

誤字脱字などの修正は次の更新でします

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