103.気が短いニワトリスたちとモール駆除の準備をする俺

 向かう先は町の西側だ。

 ……つーか、チャムさんも身体強化魔法を持っているから自力で走れるんだよな。

 魔法師っつっても防衛隊に所属しているから身体強化魔法は必須なのかな。

 と、相変わらず羅羅ルオルオの上に乗せられて移動しながら遠い目をしそうになった。軽く走っている羅羅の頭の上にはピーちゃんが止まり、機嫌よさそうに身体を揺らしている。俺の前にはクロちゃんがいて、俺はクロちゃんに抱き着いている。後ろにはシロちゃんがいて、俺にぴっとりとくっついている。この移動方法が気持ちよすぎて堕落しそうで困るのだ。

 羅羅の横をシュワイさんとチャムさんが当たり前のように走っているのがもう、ね。

 俺も身体強化魔法欲しいけど、もう魔法は覚えられないしなー。

 なんかで手に入ったりしないだろうかと考えてしまう。

 そんなことを考えている間に、予定地に到着した。

 町の中だというのに、そこはそれなりに広い畑だった。複数人で世話をしている畑だという。


「おお、チャム、それに少年。オカイイ殿もか。よく来てくれた」


 そう声をかけてくれたのは防衛隊の隊長であるバラヌンフさんだった。


「ご無沙汰してます」


 急いで羅羅から降りて挨拶をした。


「少年は相変わらず礼儀正しいな。うちの子どもたちを見習わせたいものだ」


 ハッハッハッとバラヌンフさんが笑う。防衛隊の面々がちらほら見えた。みな同じ恰好をしていて皮鎧を付けているからわかる。


「いえ、そんな……」

「本当にオトカ君は奇特ですよね。礼儀正しいですし、いろんなことを知っています。ただ知識がいささか偏っているようには感じますが……」


 チャムさんがそう言いながら首を傾げた。


「今日は領主様も見に来ることになっている。まずは少年のモールの狩り方を見せてもらうことになるが、いいか?」

「えーと、僕だけじゃなくて従魔たちも参加しますがいいですか?」


 あんまり参考にはならないと思うけど、俺だけだと日が暮れそうだし。


「ああ、参考にはならないかもしれないがヒントはもらえるかもしれないからな。それに、実際ニワトリスやタイガーがどのような動きをするのか興味がある」

「ああ、そういう……」


 そういう動きって人に見せてもいいもんなのかな? と今更ながら思った。でもうちの従魔と魔物たちがまるっきり同じ動きをするとは限らないのでいいだろう。

 なんとなくみんな人とか魔物の動きをパターン化したがるけど、個体差ってものがあるんだよな。シロちゃんとクロちゃんは似ているようでけっこう動きが違うし。尾の動かし方とか、飛びかかり方とかも違ったりする。

 さて、防衛隊の人たちが揃ったところで領主のキズノモ様が来た。

 こういうタイミングとかも考えているんだろうなって思う。


「今日も見学をさせてもらうよ。よろしく頼む」


 領主はフランクに声をかけてきた。その頃には畑の管理をしている農家さんたちも集まっていた。彼らは領主というより防衛隊の面々に圧倒されているみたいだった。


「よ、よろしくお願いします……」

「先に僕らでモール駆除を始めます。確認させていただきたいのですが、生きている苗があったら避けておきますか?」

「ああ、頼む」


 農家さんたちは気を取り直したようにそう答えてくれた。

 中にはモール駆除に行った先の人もいたので話はスムーズだった。

 鉢をいくつか用意してもらい、さっそく始めることにした。とはいえかなりの広さの畑なので四回に分けて行うと言ったら、


「オトカ、私も手伝おう」

「オトカ君、私も手伝いますよ」


 シュワイさんとチャムさんが申し出てくれたので頼むことにした。

 羅羅には畑の周りに土魔法である程度の深さの土壁を築いてもらうことにした。これには他に土魔法を使える隊員がいたので、羅羅と一緒に壁を作ってもらう。最初はおっかなびっくり羅羅の側に来たが、羅羅が話せることがわかると目をキラキラさせて一緒に作業を始めた。

 ピーちゃんはバラヌンフさんの頭の上に止まった。


「ああああ、ピーちゃんが、すみません……」

「……これはこれでいい」


 筋肉質で身体がとても大きいバラヌンフさんは心なしか嬉しそうだった。


「ココー、ソレナリー、タカイー!」


 ピーちゃんは高いところにいたかったらしい。普段はシュワイさんの肩に止まってたりするもんな。

 シロちゃんクロちゃんは俺の側にいる。

 気を取り直して畑に手を付き、鑑定魔法をうすーくかけた。


「生きてる!」


 防衛隊の人たちに手伝ってもらい、生きている苗をどんどん掘り返して鉢に運んでもらった。シュワイさんはさすが魔法の扱いに長けているだけあって、そう時間をかけずに生きている苗を見つけてくれた。チャムさんは初めてのことなので戸惑ったみたいだけど、俺が二か所目を終える頃にはコツを掴んだみたいだった。

 天才なんて嫌いだ、くそう。

 俺はこの方法を編み出すまでに半年もかかったのに。

 ま、これが才能のあるなしの違いなんだろうなと内心やさぐれた。


「オトカー」


 ぴとっとクロちゃんがくっついてくれて一気に和んでしまった。ああもうこのかわいいもふもふはあああああ!


「クロちゃんお仕事中だよ~」


 そう言いながらもクロちゃんをもふもふしてしまう。ああもうかわいい気持ちいいサイコー! と思っていたらシロちゃんにズビシ! とつつかれました。ごめんなさい、お仕事中でした。


「オトカー!」

「痛いっ、痛いってばシロちゃん!」

「……あれを痛いで済むのはオトカ君だからですねぇ」

「とんでもないな」


 チャムさんとバラヌンフさんが何やら話していたが、俺はそれどころではなかった。

 ピーちゃんはシュワイさんの肩に移りコキャッと首を傾げている。作業を終えていた羅羅はまだー? と言いたそうな顔をしていた。

 つつかれてたらお仕事できないでしょー!


「痛いってばー!」


 えいっとシロちゃんを抱きしめて、どうにかつつくのを止めさせたのだった。



次の更新は、27日(木)です。誤字脱字などの修正は次の更新でします。

かわいすぎて話進まないですー(ぉぃ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る