102.やっぱり獲物を解体させたいニワトリスと、おろおろする俺

 なんだかとても疲れた一日だったように思う。

 主に精神的に。

 日が落ちてきたなーと思った頃、


「カイシュー! カイシュー!」


 とシロちゃんにせっつかれて、解体してもらった獲物をギルドの倉庫へ取りに行った。シュワイさんにだっこされた衝撃で忘れてたよ。んで、忘れてたのがバレてたらしくシロちゃんにつんつんつっつかれました。しょうがないじゃん、抱き上げられた記憶なんて五歳ぐらいまでだし。


「オトカー」


 クロちゃんにもふもふされて慰められてしまった。クロちゃんも忘れてたのにー。俺だけつつかれるとかなんて理不尽。

 そういえばニワトリスって自分たちがつつかれるとどうなるんだろう?(見たことがないからわからない


「残りは明日か。預からないから、明日の朝持ってくるか?」

「ええ、そうですね……」


 と解体してくれるおじさんたちに同意しかけてハッとした。明日は防衛隊の面々とモール駆除じゃないか。さすがに朝獲物の解体をしてもらう為にギルドに置きにくる時間はない気がする。


「いえ、明後日の朝持ってきます」

「そうか。がんばれよ」

「?」


 何をがんばるのだろう。苦笑したおじさんたちに首を傾げた。

 チャムさんの家へ戻って、今日回収してきた魔物の肉をシュワイさんに調理してもらった。


「ユーの実から採った油を使うと味わいが違いますね! ですがこの辺りでは高価なんですよねー」


 チャムさんが残念そうに言う。ユーの実なら俺が大量に集めてるけど、さすがに売ろうとまでは思わない。魔物の肉に関して言えば冒険者ギルドで解体してもらえばいいけど、ユーの実の加工はけっこうたいへんなのだ。まず実から種を取り出して砕いてすり潰し、それを今度は布で漉さないといけない。その作業を自分でやってようやく油が手に入るのだ。まぁ、絞ったカスもおいしく食べられるからいいんだけどさ。実の部分は渋みがあるけど、皮を剥いて二週間程軒下に干せば渋みが消えて食べられるようになる。渋柿とは違ってそのままでは食べられないのがポイントだ。(火を入れないといけない)

 ってなんで俺は異世界の食べ物クッキングを真面目に語ってるんだろうな?

 ちなみに元の世界の椿の実が食べられるかどうか、俺は知らない。


「明日は朝一で西の門の内側の畑へ向かいます。よろしくお願いします」


 チャムさんに頭を下げられてしまった。


「こちらこそよろしくお願いします」


 モールをこれで一網打尽にできたらいいと思う。町の中のモールを駆除できたら来年からは出ないかもしれないし。町の外の畑については、明日の様子を見てから決めるそうだ。

 翌朝になった。


「キルー!」


 シロちゃんに言われてハッとした。

 ギルドの倉庫にいるおじさんたちが言っていたのはこれか、とやっと気づいた。


「シロちゃん、今日はギルドに寄ってるヒマがないから明日にしよ?」

「キルー! オトカー!」


 俺を解体するんですか。それは困るので勘弁してほしい。


「シロちゃん、今日はモールを駆除しに行くんだよお。聞き分けてよー」

「キルー!」


 シロちゃんがぷんぷん怒っている。いやいやするように首を振る姿がたまらなくかわいいんだけど、同時に尾も揺れるからちょっと怖い。


「困ったなぁ……」


 でもまだギルドの倉庫も開いてないだろうしな。


「シロちゃん、どうした?」


 シュワイさんに声をかけられて、理由を話した。


「そうか。確かにシロちゃんにとっては許せないことだな」

「キルッ!」


 シロちゃんが得意そうに言う。その言い方「Kill」って言ってるみたいで怖いよー。


「だがシロちゃん。食べる物はいっぱいあるだろう? 明日は必ずギルドで解体してもらおう。それでもだめか?」

「ンー……」


 シュワイさんに優しく諭されて、シロちゃんはコキャッと首を傾げた。その様子にいちいち悶えてしまう。うちのニワトリスたちってばホントかわいい。


「……主よ……シロ殿クロ殿を好きすぎではないか?」

「オトカー、ニワトリスー、ダイスキー!」


 おかげで羅羅とピーちゃんに突っ込まれてしまった。ちなみにクロちゃんは俺にぴっとりとくっついて「オトカー」と言っている。しょうがないだろかわいいんだからぁ。なにせヒナの頃からずっと一緒なんだぞ。


「明日解体が終わらなければ、私も手伝おう。どうだろうか?」

「……ワカッター」


 シロちゃんはしぶしぶだけど了承してくれた。

 シュワイさんて実はテイマーの魔法みたいなの持ってるんじゃないだろうか。嫉妬とかはしないけど、俺情けないなと思う。どうしてもニワトリスたちには甘くなってしまうし、それをニワトリスたちもわかっているから俺に無茶を言うんだよな。

 もっとしっかりしないと。


「シュワイさんすみません、ありがとうございます。シロちゃんもありがと」

「アシター、キルー!」

「うんうん、わかったよー」


 シュワイさんはにっこりと笑んで、俺が出した肉を従魔たちに切り分けてくれた。笑うとその美青年ぷりが際立つような気がする。

 これで女性が苦手じゃなければなぁ。前世で平凡を絵に描いたような人生を送ってきた俺としては、もったいないと思ってしまうのだ。でもシュワイさんは俺じゃないしな。

 従魔たちにごはんを出し、シュワイさんお手製の朝食をいただいてから、チャムさんも一緒に町の畑へと向かったのだった。



次の更新は24日(月)です。よろしくー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る