101.心配性なニワトリスたちと?でいっぱいな俺
この世界には活版印刷の技術はある。
だがそれに従事する人があまりいないことと、紙自体高価ということもあってかあまり本屋もない。本屋があるのは富裕層が住む地域で、建物自体あまり大きいとは言えなかった。
シュワイさんを先頭に本屋へ向かい、従魔たちには本屋の外で待っていてもらうことになった。
「オトカー!」
「クロちゃん、少しの間だけだから……」
「ヤッ!」
だからなんだこのかわいいの!
「クロちゃん、私がオトカに付いていてもだめだろうか?」
シュワイさんが苦笑して助け舟を出してくれた。
「クッツクー」
「うん」
「ハナレナイー」
「わかった」
「……いや、なんで手を握ってるんですか……」
シュワイさんに当たり前のように手を取られて、ちょっと恥ずかしいと思ってしまった。
「こうしないとくっつけないだろう? 腕を組んで歩くには身長差がな……」
何が悲しくて男と腕を組んで歩かねばならぬのか。シュワイさんは考えるような顔をした。
クロちゃんがコキャッと首を傾げる。
「シュワイー、オトカー、ダッコー!」
「えっ?」
「だっこか……縦抱っこでいいかな」
「ちょっ、まっ……! うわぁっ!」
ひょろひょろしているように見えるのにシュワイさんの力はけっこう強い。魔法を使っているのかもしれないけど、シュワイさんに縦抱っこをされてしまった。慌ててシュワイさんの首に腕を回す。
「これでいいかな?」
「イイヨー。イッショー!」
クロちゃん的にこれがベストな形らしい。シュワイさんに縦抱っこされた俺を見てクロちゃんが嬉しそうに身体を揺らした。俺、もしかしてクロちゃんのことだっこしすぎたかな……。
「ううう……」
「オトカ、クロちゃんはオトカが心配なんだ。耐えろ」
「わかってますけどぉ……」
そのまま本屋に入った。シュワイさんはとても背が高い。少なくとも俺より50cmは高いと思う。だからなのか、縦抱っこされて周りを見回した時の視界がとても高くてびっくりした。こんな世界をシュワイさんは見ているんだな。え? 元の世界ではそれなりに背があったんじゃないかって? 170cm未満だったよくそう。あ、思い出したら悲しくなってきた。落ち着け俺。
本屋はけっこう高いところまで本棚があったから、上の方の本を取るのはたいへんだろうと思った。
「いらっしゃいませ、オカイイさ、まっ……!?」
声をかけられて、シュワイさんと俺はそちらを見た。声をかけてきたのは二十代ぐらいの女性だった。ここの店員さんだろうか。
目を見開いて、驚いたような顔をしている。まー驚くわな。
シュワイさんは一瞬ビクッとしたが、俺を抱き直した。そういえばシュワイさんて人嫌いだったよな。特に女性が苦手だと言っていた。
「……この子の本を探しにきた。ちょうどいい本があれば紹介してもらいたい」
「は、はい……あの、そちらは……」
女性の目がシュワイさんと俺をいったりきたりしている。どういう関係か聞きたいのだろう。
うーん、冒険者のパーティーメンバーっていうのは図々しいかな。シュワイさんはSランクで、俺はやっとDランクになったばかりだし。
「十歳だ」
シュワイさんが端的に答える。いや、そういうことが聞きたいんじゃないと思うよ。関係性を聞きたいんだと思うけど、シュワイさんは答える気がなさそうだからまぁいいか。
「かしこまりました。十歳ですと、この辺の本がよろしいかと……」
女性は少し困ったような顔をしながら本を見せてくれた。
シュワイさんが本を手に取る。
「ふむ……読めさえすればこれも面白いのだがな。読んでみるか?」
「はい、読んでみます」
縦抱っこされたまま少しページをめくってみる。何かの物語みたいだ。女性が持ってきた本を何冊かシュワイさんが選び、全て俺に中身を確認させた。いいかげん重くないのかなと心配になってしまう。
「これと、これとこれをもらおう」
「ありがとうございます!」
シュワイさんが払おうとするので慌てた。
「シュワイさん、僕、自分で払いますよ」
「ならば後で渡してくれ」
「はーい」
確かに俺はまだあんまりお金に慣れていないから、後で確認して渡した方がいいかもしれない。高額のお金はまだまごまごしてしまうのだ。高額ってどれぐらいかって? 銀貨一枚だってビクビクするもんなんだよ。(約一万円相当)
シュワイさんは本五冊に対して銀貨を二枚出していた。一冊辺り大銅貨4枚か。本というのはやはり高いものらしい。
そうして本屋を出た。
「オトカは思ったより軽いな。もう少し食べた方がいい」
「かなり食べてますけど?」
今のところは新陳代謝がいいから食べても太らないのかもしれない。最近羅羅の背に乗せられて移動しているので少し太ったのではないかと危惧していたがそんなことはないみたいだ。
それか、シュワイさんの基準が緩いだけかもしれないけど。
体重計みたいなものがないから困ってしまう。これからもストレッチとか筋トレはがんばろうと思った。
「ん?」
なんか視線を感じて顔を上げたら、往来を歩く人たちの視線が俺たちの方を向いていた。
「シュワイさん、降ります」
「ああ」
なんつーか、羅羅の背に乗せられすぎて、運ばれることに慣れてしまっているのかもしれない。ちょっと気を引き締めないといけないなと思った。
その後は雑貨屋へ向かい、明日のモール駆除に必要そうな物を仕入れた。
クロちゃんは何故か俺がシュワイさんに縦抱っこされた姿が気に入ったらしく、チャムさんの家に戻ってから「シュワイー、オトカー、ダッコ!」と言い出した。
「なんで?」
「オトカー!」
クロちゃんが機嫌よさそうに身体を揺らす。そして俺にぴとっとくっついた。
無意識で抱きかかえたら、そのままシュワイさんに抱き上げられてしまった。
「なんで?」
「クロちゃんも軽いな」
「だからなんで?」
「クロちゃんがオトカをだっこしろと言ってるじゃないか」
「オトカー!」
クロちゃんはご機嫌で俺にくっついている。俺とクロちゃんをまとめてだっこできるとかどうなってんだよ?
意味がわからない昼下がりのことだった。
次の更新は20日(金)です。よろしくー
かわいいのが見たかったんです。後悔はしていない(ぉぃ
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