99.まだ怒っているニワトリスたちと、うかつな俺

「キルー!」


 町に戻ったらシロちゃんが叫んだ。もう夕方だからギルドに獲物を預けるのはどうかと思う。解体のおじさんたち、お仕事徹夜になっちゃうよ。(しないだろうけど)


「シロちゃん、明日の朝持っていこー」

「キルー!」

「他にも食べるものいっぱいあるでしょ! 明日の朝!」


 どうせアイテムボックスにしまったものは時間経過がないんだから我慢しなさい。

 後ろからシロちゃんに軽くつんつんとつつかれた。


「もー、痛いってばー。やめてよー」


 羅羅ルオルオの上に乗っているから逃げられなくて困る。


「痛い程度で済むのはオトカだからだな」


 羅羅の横を走りながらシュワイさんが笑った。


「もー。本当に痛いんですからねー」


 市場で明日用のパンを買ったりして、チャムさんの家に戻った。

 で、シロちゃんとクロちゃんにぎうぎうくっつかれたと思ったらそのまま居間で倒されて二羽にのしっと乗られた。羅羅にも頭を前足で押さえられてしまう。


「オトカー、ダメー!」

「オトカー!」

「主よ、わかっておるな?」


 ピーちゃんは目を丸くしているシュワイさんの肩に留まり、自分は関係ないとばかりに毛づくろいしている。うん、まぁ俺が手伝わせただけでピーちゃんに非は全くないからいいけどさ。

 シロちゃんとクロちゃんに乗られた時って鉤爪が背に当たるから痛いは痛いんだけど、すぐにのしっと座ってくれるから(その際に足もしまう)もふもふあったかいで幸せなんだよなー。


「主?」

「……羅羅、頭を押さえないでくれる?」


 確かにクロちゃんはあのままほっといてもシロクマを倒したかもしれないけど、俺的には見過ごせない状況だったんだ。ちゃんと身を守る為にかなり高いところから飛んだし、ピーちゃんに魔法を頼んだりもした。……まぁ、ピーちゃんが俺に魔法をかけそこねたらって話はないとも言えないんだけどさ。


「僕はクロちゃんを守りたかったんだよ。それはわかるだろ?」

「……それは理解できるが、主が落ちる以外の選択肢はなかったのか?」

「……思いついたのがあれだったから、なんともいえないかな」


 上から何か落としたとして、クロちゃんに当たったら困るし。何かを落としたのが俺だとバレた時のデメリットもあるわけだ。


「主は弱い。次からは木の上で待機しているがよい」


 羅羅にそう言われてさすがにカチンときた。俺が弱いことなんて改めて言われなくたって知っている。


「だからってただ待ってられる時と待ってられない時があるんだよっ」


 俺はアイテムボックスからある植物の葉っぱを何枚か出して羅羅の鼻先に投げつけた。アイテムボックスの使い方も習熟すると、自分の半径1mぐらいの範囲なら任意の場所に出すことができるようになる。羅羅に頭を押さえられていたから鼻のところへ落とすぐらいわけはなかった。


「ん? な、なんじゃあこれは……」


 羅羅は慌てて俺の頭から前足を離し、鼻の当たりを擦った。

 途端に香るある植物の……それは。

 猫が酔っぱらってしまうというアレである。

 そのまま俺も逃げられればよかったんだけど、シロちゃんとクロちゃんが背にお座りしているわけで。そのままの恰好で羅羅の様子を見守った。


「んんー……?」


 羅羅はくんくんとその匂いを嗅ぐと、その場にうずくまった。


「……なんぞふわふわするのぅ……」

「オトカ? 羅羅はどうしたんだ?」


 シュワイさんに聞かれて、「マタタビです」と答えた。そう、森の際にはマタタビが生えていたのだ。葉っぱは陰干しすると腹痛の薬になるので、薬草として採取していた。


「猫科の動物が酔っぱらうマタタビの匂いを嗅がせたんですよ」


 せっかくの葉っぱだが、羅羅は掴んでくんかくんかと嗅いでいる。あれは回収できないだろうな。


「オトカー?」


 シロちゃんにどういうことかと聞かれたので、


「羅羅はマタタビに弱いんだよ」

「ヨワイー!」


 そこだけ強調しなくてもいいと思うけど、弱点には違いない。それでようやくニワトリスたちも俺の上からどいてくれた。やれやれである。(当然ながら俺は反省なんて全くしていない)


「ただいまー。ってあれ? 羅羅はどうしたんですか?」


 チャムさんがちょうど帰ってきたので、羅羅にマタタビの匂いを嗅がせたことを伝えた。


「タイガーというのは猫なのですか?」


 俺の話を聞いて、チャムさんは驚いたような顔をした。あ、まずいかもと思った。


「あ、いえ……猫に似ているなと思いまして、だから効くんじゃないかなって……」

「効果てきめんですね。これはなかなかの情報ですよ」

「え? いやぁ……それなりに知ってる人、いるんじゃないですかね……」

「そうでしょうか? そもそもタイガーと遭遇するという情報もあまり聞きませんし。大概は餌になってしまうか、討伐できなくて命からがら逃げ帰ってくるなんていうのが関の山でしたしね。そうなるとその植物の採取も考えないといけません」

「え……それはさすがに……。この葉は元々腹痛に効く薬草なので」

「腹痛に効くだけでなくタイガーもこのように無力化してしまうなんて!」


 チャムさんが感動したように言う。

 あー、俺もしかしてとんでもないもの教えちゃった?

 しまったなと内心頭を掻いた。

 まだ羅羅はゴロゴロと喉を鳴らしている。この情報が一般に出回ってしまうと、もしかしたら羅羅を捕まえようとする者が出ないとも限らない。

 考えすぎだって? でも可能性を考えるのは悪いことではないはずだ。

 シュワイさんの手料理を食べながら、どうしたものかと考えたのだった。



次の更新は13日(木)です。よろしくー

もふもふー!

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