98.怒れるニワトリスたちと、宥めようとがんばる俺

 ……この辺りの木は本当にでかいから助かった。でもまた少し南に向かうと更に木がでかくなるんだよな。(通ってきた道)ホント、どうなってるんだろうと思う。


「ふー……」


 ため息を吐く。木の下を見ると、クロちゃんが木を見上げていた。シロクマはまんま倒れている。

 クロちゃんの口、拭いてやらないとな。

 ってことで慎重に降りた。

 途中でクロちゃんが迎えに来てくれたので、前から抱き着いて降ろしてもらう。紐、ありえない長さのをけっこう作っといてよかった。農家さんで藁を少しずつ分けてもらっていたのだ。どうしても木登りする時に紐は必要なので。

 今はピーちゃんがいるから紐もかなりリサイクルできて助かる。(ニワトリスたちも回収を手伝ってはくれていたけど、一度に飛べる距離は30mぐらいなので、この辺りの巨木のてっぺんから紐を回収するのは難しい。どんだけでかいんだよ)


「クロちゃん、ありがとー」


 嘴を布でフキフキする。


「……オトカー」


 あ、やべ。

 クロちゃんの声が低い。しかもいつものきゅるんとしたお目目ではなく、険しい目になっている気がする。


「オトカー!」

「いてっ、痛いっ、痛いよクロちゃーんっ!」


 案の定俺はつつきまくられた。いくら麻痺しないからってつつかれたら痛いんだってばー! でも怒ってる理由もわかるから少しは我慢した。でも痛い。


「えいっ!」


 これ以上つつかれないようにとクロちゃんを抱きしめた。


「オトカー!」


 クロちゃんが羽をバサバサ動かして暴れる。


「ごめんって! でもクロちゃんが心配だったからさー! クロちゃん大好きだから許して―!」

「オトカー!」


 そんな言葉ではごまかされないぞとばかりにクロちゃんが怒る。ああもうこのもふもふ気持ちいいかわいい。

 ピーちゃんは近くの木の枝に止まって毛づくろいしている。


「オトカー、ハンセイー、ナイー?」


 首をコキャッと傾げて追い打ちをかけられた。


「そんなことないってー!」


 でもこのもふもふは最高でっ……!


「オトカー!」


 クロちゃんはなかなか落ち着いてくれなかった。そうしているうちに何かが近づいてくるのがわかった。ピーちゃんが普通にしているということは、シュワイさんたちが戻ってきたのかなと思った。


「オトカ、無事か!?」

「オトカー」

「大事ないか」


 思っていた通り、シュワイさん、シロちゃん、羅羅が戻ってきた。シュワイさんは少し慌てているみたいだったが、シロちゃんと羅羅は普通だった。


「え?」


 クロちゃんにつつかれないようにするのがたいへんってぐらいで、無事は無事だ。


「オトカー!」


 まだクロちゃんは怒っている。それにシロちゃんと羅羅が険しい顔をした。

 えー? 俺、もしかしてみんなに怒られるのー?


「俺のこと怒るのは後にして! これ、まずは片付けちゃおうよ」


 まだ転がったままのシロクマを示した。


「これは、ホワイトベアだな」


 シュワイさんがシロクマを見て言う。

 まんまか。


「北の山から降りてきたんですかね?」

「おそらくそうだろう。ベア系の魔物は植物も食べることが知られている。降りてきた、というよりこれまでもこういうことはあったのかもしれない」

「うわぁ……」


 意識しないで遭遇してたらやヴぁかったかも。


「でも植物って……」


 もしかして虹色キノコ狙いだったとか? もしかしてここの虹色キノコはこのシロクマのごはんだったのかもしれない。ちょっと悪いことをしたなと思った。

 肉切り包丁を抜いて、シロクマをアイテムボックスにしまう。


「そういえば、何か狩れたんですか?」

「ああ、ホワイトジャイアントボアが獲れたぞ」

「うわぁ……降りてきてたんですか?」

「まぁ、そんなところだな」

「困りますね」


 シロちゃんと羅羅がスッと視線を逸らしたから、もしかしたら北の山まで駆けていった可能性がなくもない。俺がいなければかなりの速さで移動することが可能だからだ。

 他にもジャイアントディアーや、ブラックディアー等も狩ってきたみたいだ。シカ系が多いってことは森でも狩りをしたのだろう。ホント、肉には困らないぐらい狩ってくるなぁと呆れた。


「そろそろお昼にしましょうか」

「そうだな」


 シュワイさんはほっとしたようにそっと息を吐いた。

 やっぱ北の山まで行ってきたんだなと思った。

 羅羅に土魔法で竈を作ってもらい、ピーちゃんが火魔法を使って火を熾してくれた。ピーちゃんは「ハーッ、ヨッ、ハーッ!」と掛け声を上げながら踊って火をつけてくれた。面白いしかわいい。

 シュワイさんが肉を焼いてくれる。その後で俺は毒キノコや毒草を焼いてソテーにした。一応シュワイさんには風上にいてもらった。毒がどこまで作用するかわかんないしな。


「……毒を含む物を率先して食べるというのがわからんな」

「うちけっこう貧しかったんで、メシは一日二回だったんですよ。しかも満足に量も食べられなくて。俺、生まれつきなんでも食べられたんで、適当に森の草とか食べてました。そしたら毒がある方がうまいって気づいたんですよねー」


 羅羅は肉しか食べないが、ニワトリスたちとピーちゃんは毒草や毒キノコも食べる。もりもり食べててよかったよかった。


「火を入れた方がもっとうまいのか?」

「ええ、やっぱ調理した方がおいしいですね。つっても俺がやるのは炒めることぐらいですけど」

「私も毒を含むものを食べられたらよかったな」

「普通の食べ物を食べられるならそれが一番いいと思いますよ」


 そんなことを話しながらお昼を食べ、終わってからは再び狩りをする。

 で、チャムさんの家に戻ってから俺は改めて羅羅とニワトリスたちに怒られたのだった。

 見逃してよー。



次の更新は10日(月)です。よろしくー

まだ少し忙しいのですー。誤字脱字等の修正は次の更新でします。

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