97.脅威に立ち向かうニワトリスと、ただ見ていることができなかった俺

 羅羅ルオルオ、シロちゃん、シュワイさんが出かけた後、俺たちは薬草や毒草、毒キノコなどを採ることにした。

 毒草も薬師ギルドでは少し売れるし、毒草と毒キノコは主に俺たちの食料である。


「あっ、虹色のだー」


 虹色の毒キノコ発見。これがうまいんだよなー。あまり見つからないんだけど、見つけると群生していたりするから一個見つけたら一気に沢山採れるのがこのキノコのいいところだ。


「キノコー!」


 ピーちゃんも喜んでいる。クロちゃんも嬉しそうにムシャムシャと食べている。

 俺は採れるだけ採ることにした。キノコは胞子が飛んで発芽するから、採りつくしたと思ってもどこかでまた生えたりする。だから遠慮なく採ることにしている。(注:絶滅危惧種もあるのと、野生のキノコは毒キノコとの区別がつきづらい為採取はおすすめしません)

 毒キノコもおいしく食べられるこの体質が素晴らしい。


「虹色のはあらかた採ったかな……」


 次は別のを採ろうと思った時、異様な雰囲気を感じた。


「?」

「オトカー……」


 クロちゃんがいつになく険しい声を出す。


「……何が来てる?」

「トブヨー」


 ピーちゃんがそう言って木の上に飛んだ。ということは地上の生き物なんだろう。クロちゃんの羽毛が逆立っている。よほどの脅威が近づいてきているみたいだった。


「登る」


 俺もそう言って近くの巨木に登った。ピーちゃんがいるところまで登ると、だいたい10mぐらいだった。3階ぐらいの高さって言えばいいのかな。けっこう高い。(この木自体はもっと高い)クロちゃんは木の下にいる。その視線は北に向いているようだった。

 神経を研ぎ澄ませ、脅威はどこから来るのかと探った。

 北、は間違いない。それなりの速さでこちらへ向かってきているというのがわかった。

 やがてザクッザクッと音が聞こえるようになってきた。

 クロちゃんは完全にヤる気だ。足で地面の土を掻くように交互に動かしている。本気で飛び掛かる気満々の動きだ。

 それをピーちゃんと共に見ていることしかできないのがもどかしい。だが無謀なことをしても死ぬだけだから、見ているしかないのだ。

 ザクッザクッという音が更に近づいてきた。そして巨木の間から覗いた姿は……。


「うええ……」


 3m以上はありそうなシロクマだった。

 こっちではポーラーベアとかホワイトベアとか言うのかな。

 そう思った瞬間、グオオオオオーーーーッッ!! という鳴き声と、クワァアアアアーーーーッッ!! というクロちゃんの威嚇が重なった。

 シロクマの鳴き声は雄叫びのようで、威嚇の効果はなかったらしい。一瞬シロクマの動きが止まったが、クロちゃんが飛び掛かった時にはもう動けるようになっていた。


「魔法耐性もあるのか、あれ!」

「ソーカモー」


 ピーちゃんののん気な声で気が抜けそうになる。

 クロちゃんは威嚇が効いてないとわかると瞬時に離れ、その強靭な尾をシロクマにバシーンバシーン! と叩きつけ始めた。シロクマはその尾を掴もうとする。まさしく怪獣大決戦と言いたくなるような動きだった。

 シロクマはニワトリスの脅威を正しく理解しているようで、クロちゃんをなかなか近づかせない。嘴でつつかれたら麻痺してしまうからなのだろう。どちらの攻撃もなかなか決め手にならなかった。

 身体の大きさでいったら、絶対クロちゃんの方が不利だ。


「……投げる? でもこっちに来られたら困るしな。腰鉈、じゃ刺さらないし……肉切り包丁なら切っ先が尖ってるから……」


 俺たちがいる木の真下とかに移動してくれたら攻撃できそうなんだけど。

 今シロクマとクロちゃんがいるのは三本ほど先の木の下辺りだ。


「移動するか」


 俺がもっと高いところから落下して、包丁をクマに投擲したらどうだろう。勢いが乗るから、少しは突き刺さるかもしれない。それで隙ができたら、クロちゃんがつつくことも可能だろう。

 問題は俺がそのまま落下したらやヴぁいってことだ。


「ピーちゃん、風魔法で俺のことを包んで、落ちるスピードを緩めるってことはできる?」

「ナニー?」


 シロクマとクロちゃんが戦っているのを見ながら、俺はどうにかピーちゃんに説明した。


「アブナイー、ヨー?」


 ピーちゃんが首をコキャッと傾げて言う。ピーちゃんが言うことは正しい。


「でもクロちゃんを助けたいんだ。もしピーちゃんが、俺がこの包丁をクマに投げた時に俺を風魔法で包んでくれたら、俺は木に掴まってまた登って逃げるから」

「ワカッター」


 というわけでまず更に上の方まで登り(かなり登った。てっぺんに近い)、巨木から巨木に飛び移ってどうにかシロクマとクロちゃんが戦っている木の上に付いた。


「クロチャンー、オコルー」

「多分ね」


 ピーちゃんが身体を揺らしながら言う。よくわかっていらっしゃると苦笑した。

 でもきっと大丈夫。俺は怪我したりなんてしない。うちのニワトリスたちは俺が守るんだよ。

 シロクマは俺たちの姿に気づいていない。

 肉切り包丁を出し、シロクマ目がけて落ちた。

 落ちる速度と勢いを付ければそれなりの威力になるはずだ。すごく怖かったけど、少し手前で肉切り包丁をシロクマに向かって投げた。

 途端に落下速度が落ちる。急いで木の枝に掴まった。

 グオオオオオオオオオーーーーーッッ!?

 どうやら少しは傷を負わせることができたみたいだ。俺は下を見ずに、急いで木を登った。

 こういう時確認してはいけないんである。

 ピーちゃんがいるところまでどうにか登って下を伺うと、シロクマが倒れていた。


 クァアアアアーーーーーーッッ!!


 クロちゃんが勝利の雄叫びを上げる。

 よかった、と胸を撫で下ろした。シロクマの肩に、包丁が突き刺さっているように見えた。


「頭は無理だったかー……」


 でもほっとした。

 汗がどっと噴きだす。それから、少しの間俺は動けなかった。



次の更新は、6日(木)です。

引き続き多忙中ですので、誤字脱字等の修正は次の更新でします。よろしくー


オトカ、がんばったー!(そしてクロちゃんに怒られまくる

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