96.狩りがしたいニワトリスたちと、いろいろ採取する俺

 そりゃあわかってるよ。

 北門まで行くのだって俺の足に合わせてたら時間かかるだろうし。北門から出て森に行こうとしたら森の入り口まで間違いなく半日はかかる。

 それを短縮していると思えばいいのだが、鈍るのもやだなと思うのだ。

 朝晩のストレッチは欠かさないし、一応筋トレとかもしてるんだけどさ。

 羅羅ルオルオの背に乗ったままクロちゃんの羽に埋もれる。ううう、このもふもふは癒し効果抜群だ。今は尾の上に乗れと言われているので尾が邪魔になったりもしない。しかも後ろにはシロちゃんがくっついててくれるし、俺にとっては天国でしかない環境だ。

 文句を言ったら罰が当たるかも……。

 そうしている間に森に入ったみたいだ。羅羅とシュワイさんがしばらく走ったところで足を止める。


「オトカ、森に着いたがなにか目的があるのか?」


 シュワイさんに聞かれ、そういえばそういう話もしていなかったなと思った。羅羅の背に乗ってると舌を噛むのが怖くて話せないし。

 羅羅もシュワイさんものんびりしているということは、獲物も脅威もないのだろう。うちのニワトリスたちものほほんとしている。

 一応目を閉じて感覚を研ぎ澄ませた。

 うん、近くにはいないみたいだ。


「オトカは自分でも確認するのが美点だが、そういうことは従魔に任せた方がいい。オトカや私よりも彼らの方が感知魔法には優れているはずだ」

「あ、そうですね」


 言われてみればもっともだった。とはいえ俺一人でなんとかしないといけないこともあるかもしれないので、定期的に感覚も鍛えた方がよさそうだ。

 羅羅の背から降りて辺りを見回す。

 木の上とかもそうなんだけど基本見るのは足下だ。シロちゃんクロちゃんも降りて思い思いに草をつついている。ピーちゃんもだった。


「主に薬草とか、毒草、それからできればユーの実がほしいです」

「そうか。この辺りにユーの実が生る木があるのか?」

「ええ、ありますよ。この木とか」


 ちょうどユーの実が生る巨木がすぐ側にあった。うちの周りのユーの木はこんなにでかくなかったけど、この辺りの木はどれもけっこうでかいのだ。キタキタ町から離れたところの方が木はでかかったけどな。


「これが?」


 シュワイさんは驚いたような声を発した。知らなかったらしい。


「そうか……これだけ木が高いから別の物で代用するしかないのだな」

「チャムさんのところで使ってるのは菜種油でしたよね。肥沃な土地から運んできてるんですか?」


 キタキタ町の畑には菜種油を栽培しているところはなかったはずだ。菜種はいい土壌でないとできない。キタキタ町の畑は水はけはいいが、栄養が豊富とは思えなかった。


「ああ、他のところから運んできているから油の値は高い。ユーの実はどうやって採る?」

「え? 登りますよ?」

「は?」


 一日の半分は森で暮らしていただけあって、俺は木登りが得意なのだ。ユーの木は枝が多いからとても登りやすい。


「クロちゃん、ユーの実を採ってくるから、なんかあったら助けてね」

「オトカー」


 まぁシロちゃんクロちゃんと初めて会った時以来、木から落ちたことはないんだけどな。

 ってことで木登りをするから靴を紐でしっかり足に縛り付けた。靴が脱げたりしたら危ないしなー。


「じゃあ登りますねー」

「あ、ああ……」


 シュワイさんが戸惑っている。珍しいなと思った。


「ピーチャン、テツダウー」

「あ、ありがとう。ユーの実があるところに留まって待っててもらっていい?」

「ワカッター」


 目印があれば格段に登りやすくなるのは間違いない。

 羅羅は退屈なようで大きなあくびをした。


「……我は狩りにでも行くか」

「羅羅、オトカがユーの実を採ってくるのを見てからではだめか? 確認したら一緒に行こう」

「あいわかった」


 というわけで、羅羅とシュワイさんはのちほど狩りに行くらしい。肉は大量にあるんだけどなー。ま、狩りをするのもストレス発散になるだろうから、狩りすぎってほど狩らなければいいかも。今北の山の魔物もまだ降りてくる危険性はあるみたいだし。


「シロチャン、イクー」

「シロちゃんもよろしく」


 シロちゃんも羅羅とシュワイさん組らしい。


「ちょっと待っててくださいねー」


 シュワイさんに声をかけて、俺は巨木を登り始めた。それなりに枝があるから本当に登りやすかった。


「……速いな」


 下からシュワイさんの呟きが聞こえた。ピーちゃんを目指して登ったら、それほどかからずにユーの実があるところまで登れた。


「ピーちゃんありがと! うわー、いっぱい生ってるねー」

「ピーチャン、エライー?」


 ピーちゃんが得意そうに首をコキャッと傾げた。


「うんうん、えらいよー。この調子でよろしくー」


 籠とかがいらないから、ホント、アイテムボックス助かるー。にこにこしながらユーの実の熟しているのをいっぱい採った。

 ある程度の高さのところに沢山生っているみたいなので、横の木に飛び移る。下にいるクロちゃんが俺がいる木の下に移動したのが見えた。


「クロちゃん、ありがとー! もう少し採るねー」

「ハーイ」


 森の中でこんなに大きな声を出してもいいんだろうかと思ったけど、ピーちゃんは平然としているから脅威はなさそうだ。


「ピーちゃん、ごめん。大きな声出して」

「ダイジョブー!」


 そういうピーちゃんの声の方が高く響いて、思わず笑ってしまった。

 それなりに採ったので、そろそろ降りることにした。


「クロちゃん、降りるよー」

「オトカー」


 登るのはいいけど降りるのが怖いから、しっかりした枝に紐をくくる。俺が降りたタイミングでピーちゃんに紐を齧ってほどいてもらうことにした。

 紐を持ち、トンットンッと木を蹴るようにして降りる。上にピーちゃんがいるし、下ではクロちゃんが待機しててくれるから気持ち的に楽だった。


「オトカー」


 ある程度の高さでクロちゃんが飛んで迎えにきてくれた。前から抱き着いて飛んで降りてもらう。あー、気持ちいい。

 そして地上に降りる。


「クロちゃんありがとー」

「オトカー」


 もふもふしてねぎらった。紐が落ちてくる。そしてピーちゃんも降りてきた。


「ピーちゃんもありがとなー」


 紐を回収して、頭に止まったピーちゃんの足を撫でた。


「……オトカはすごいな」


 シュワイさんが呟いた。ずっと見ていたらしい。


「? ほとんど森にいましたから、木登りは当たり前ですよ?」

「そう言い切れるのもすごいんだ。羅羅、シロちゃん、狩りに行こうか」

「うむ」

「カルー!」

「おなかがすいたら戻ってきてくださいねー」


 シュワイさんは頷くと、羅羅、シロちゃんと共に森の中を走っていったのだった。

 なんだかんだ言って、好戦的だよなー。



次の更新は6/3(月)です。よろしくー

多忙にて、誤字脱字等は次の更新で直しますー


カクヨムコンで特別賞いただきました! ありがとうございます!

これからもがんばりますー

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