94.くっついてくるニワトリスたちとついつい甘えてしまう俺

「オトカ君が戦っているところを見られるのですね。とても楽しみです」


 さっそく領主はモール駆除についての話を防衛隊に周知したらしい。その日の夜、チャムさんに言われた。

 早いよ。


「戦うって……モール駆除ですけど」

「やり方を学べば、来年は私たちだけでもできるかもしれませんし。いやー、わくわくしてきました」


 ここのところ平和なので、あまりチャムさんが出張るようなことはないらしい。平和が一番なのですが、と言ってはいるが、意外とチャムさんも好戦的なようだ。

 シュワイさんとは夕飯の後チャムさんの家の前で別れ、久しぶりに家へ戻っていった。家の片付けなどをしてくるらしい。

 別れ際に羅羅ルオルオの毛をなでなでし、ピーちゃんにすりすりされていた。仲良しだよなー。


「明日の朝来る」


 本当に俺と旅に出るつもりのようだ。なんか申し訳ないと思ってしまう。

 チャムさんは自分の部屋に入った。

 居間でくつろいでいる羅羅は少し不満そうだ。シュワイさんのブラッシングの虜になってしまったのだろう。


「羅羅、上に乗ってもいい?」

「……いつも乗っているではないか」

「そうじゃなくてさ」


 ぺたーんと。座るんじゃなくて寝そべるかんじで乗ってみた。羅羅と僕にシロちゃんとクロちゃんがくっつく。


「……うんうんかわいくていいねえ」

「わぁ!?」


 部屋に戻ったはずのチャムさんが、何故か居間を覗いていた。慌てて羅羅から降りようとしたけど、シロちゃんとクロちゃんがぎうぎうくっついてきているから無理だった。ああもうこのもふもふたちめえええええ。

 ピーちゃんは羅羅の頭の上でマイペースに毛づくろいしている。


「ごゆっくり~」


 チャムさんはそう言って顔を引っ込めた。


「ううう……」

「主よ、部屋に行くぞ」

「うん……」


 羅羅がうつ伏せになった俺を乗せたまま、俺が使っている部屋に向かった。ああもう恥ずかしい。

 でも羅羅は俺が上に乗っかっているのが気に入ったらしく、「そのまま乗っておれ」と言っていた。俺も開き直って、そのまま羅羅の上ぐでぐでし、いつのまにか眠ってしまった。

 ……羅羅の身体の上で寝るのは意外と快適だった。

 朝起きて、大きく身体を伸ばしていたのは羅羅の方だった。でっかいもふもふはベッドにもなるみたいだ。羅羅がたいへんそうだからもうやらないけど。


「……昨夜あのまま寝ちゃった。ごめん、羅羅」

「んん~~~っ! ……主が気にすることではないぞ。それよりメシだ。メシをよこせ」


 思わず笑ってしまった。羅羅なりに俺のフォローをしてくれるらしい。


「うん、肉切るね」


 シロちゃんとクロちゃんは俺を挟んで台所まで移動した。もふもふはとっても気持ちいいけど歩きづらい。


「おはよう」

「おはようございます……」


 シュワイさんが来ていた。爽やかな笑顔である。


「肉を出してもらってもいいか?」

「はい」


 従魔たちの肉と俺たちの分の肉を出す。今日はブラックディアーの肉を出した。


「少し熟成させられればいいのだがな……ディアの肉は日を置いた方がうまい」

「ですよね。でもアイテムボックスの中は時間経過がないので……」


 時間経過のあるマジックバッグがあればとは思うけど、常温で保存したら腐っちゃいそうで怖い。切り分けて浄化魔法をかければいいんだろうか。殺菌と熟成の関係とか全然わからない。元の世界でもっと真面目に勉強しておけばよかった。


「ここに吊るしておいてもいいが……」


 シュワイさんはそう言ってから、うちのニワトリスたちを見た。


「うーん、多分熟成する前に食べちゃいますね」

「だろうな」


 つい笑みが漏れた。クロちゃんとシロちゃんがコキャッと首を傾げた。何がおかしいのかわからなかったのだろう。かわいくてついもふもふしてしまう。

 シュワイさんに肉を切り分けてもらい、従魔たちを促して庭へ。


「足りなかったら言えよー」


 ピーちゃんは野菜とか草のみだけど、ピーちゃんも庭で食べてもらう。

 戻るとチャムさんがあくびをしながら起きてきた。


「シュワイも戻ったのですね。毎日魔物の肉が食べられるなんて、本当に幸せですよ」


 チャムさんは毎朝律儀に、俺に銀貨1枚払う。そんなに防衛隊の給料っていいんだろうか。


「高級肉を食べているのは間違いないな」

「もー、シュワイさんまでそんなこと言って~」


 俺的には家畜の肉の方が手に入らないんだけどなぁ。森の魔物だったらうちの子たちが狩ってくれるけど、家畜の肉にはお金を出さないといけない。でも自分で森の魔物を捕まえられるかっていうと、なかなか難しいからそれだけは忘れないようにしたい。


「モール駆除の日が決まりましたらお知らせしますね」


 チャムさんは機嫌よさそうにそう言って仕事へ出かけた。俺たちも一度ギルドへ向かう。


「今日はモール駆除の依頼はないですね……薬草かぁ……」


 薬草だったら薬師ギルドに直接卸した方が依頼料は多くもらえるんだよな。


「どうする?」


 シュワイさんに問われて、今日は先に薬師ギルドへ寄ってから森に向かうと伝えた。


「森もいいな。私も行こう」


 シュワイさんは当たり前のように俺たちと一緒に行ってくれるけど、やることとかないのかな? ちら、と思ったけどニワトリスの羽毛に埋もれてまた思考が溶けてしまったのだった。ニワトリスかわいすぎてやヴぁい。



次の更新は、27日(月)です。よろしくー

誤字脱字等修正は次の更新でしますー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る