91.絶対に離れたくないニワトリスたちと、困るけど嬉しい俺

 シロちゃんとクロちゃんも肉は引きちぎって食べるってかんじにはなるんだけど、羅羅ルオルオほど豪快ではない。

 ホント、浄化魔法が使えてよかったよ。羅羅が食べる時はけっこう飛び散るからなー。

 浄化魔法の便利さハンパない。

 で、従魔たちのごはんを終えて、従魔と庭に浄化魔法をかけて建物の中に戻った。


「庭、貸していただきありがとうございましたー」

「……できれば従魔は店に入れないでほしいかな」


 料理人の青年に言われて、「あ、ハイ」と返事をした。


「じゃあ、庭にいさせてもらっていいですか?」

「うん、庭ならいいよ。でも帰る時に掃除してってね~」

「わかりました」


 俺にとっては従魔が側にいるって当たり前なんだけど、やっぱ店の中に一緒に入れるってのは非常識だったか。


「羅羅、シロちゃん、クロちゃん、ピーちゃん、庭で待っててくれるかな? 終わったら呼びにくるから……」


 それに反応したのはクロちゃんだった。俺が離れようとしたらぎゅうぎゅうくっついてくる。


「オトカー!」

「クロちゃん、中はだめだから……」

「イッショー!」

「うん、大丈夫だよ?」

「イッショー!」


 クロちゃんがぎうぎうくっついてくるから、中には入れそうもなかった。ぽんぽんと軽く身体を叩いて落ち着かせようと試みたけど、どうしても俺から離れたくはないらしい。ああもうかわいいなあああああ。


「オトカ、どうかしたのか?」


 なかなか俺が戻れなかったせいか、シュワイさんが様子を見に来てしまった。

 申し訳ないと思う。


「あ、いえ……店内に従魔は入れないでくれと言われてしまったので、庭で待ってるように伝えたんですけどクロちゃんが……」

「それはしょうがないだろう。領主サマが言い出したことだ。それならば帰ろう」

「ええっ?」


 シュワイさんがさらりと言う。さすがにそれはまずかろうと思った。


「オトカはここで待っていてくれ。領主に言ってくる」

「そんな……」


 クロちゃんは絶対に放さないぞとばかりに、慣れない羽まで動かして俺を抱きしめるようにした。困るけどめちゃくちゃかわいくて悶えてしまう。


「イッショー」

「うんうん、一緒だよー」


 うちのかわいい子たちと離れてまで領主とごはんを食べたくないしな。でもシュワイさんを置いて帰るって選択肢はないからクロちゃんをもふもふしながら待っていた。

 そうしたらシュワイさんだけでなく、領主と、不機嫌そうな表情をした青年もやってきた。


「すまんな。従魔は入れないなどという規定はなかったはずなのだが……」


 領主がすまなそうに謝る。


「あ、いえ。店内に毛とか羽が舞ったらよくないでしょうし。僕は全然かまわないんですが、放してくれないもので」


 そう答えると、青年はバツが悪そうな顔をした。


「……そう考えてくれるならかまわない。せめて従魔の足とかは拭いてもらうけど……雑巾持ってくる」

「あ、大丈夫です。僕、浄化魔法使えるので」

「……それならよかった」


 すったもんだあったが、みんなを連れて店内に入れることになった。

 領主が連れてきてくれただけあって、青年の作ってくれた料理はとてもおいしかった。

 グレートボアの肉というだけでうまいのだが、使われたソースとか、焼き加減とかがとにかく絶妙で、これは絶対俺では再現できないだろうなと思った。あんまりおいしかったので、マナー違反だとは思ったが従魔たちに少し分けてもいいかどうか青年に聞いたら、青年は「ちょっと待ってほしい」と言って厨房に戻った。そして従魔たち用にかグレートボアを調理して持ってきてくれた。

 ピーちゃんは首をコキャッと傾げた。


「ピーちゃん、お肉は食べない?」

「タベナーイ」


 ピーちゃんはそっぽを向いた。


「せっかく用意していただいたのにごめんなさい。この子は肉があまり好きではなくて……」

「そういう従魔もいるのか。じゃあサラダはどうかな?」

「タベルー!」


 途端にピーちゃんは嬉しそうな声を上げた。

 ピーちゃんにはサラダを。羅羅、シロちゃん、クロちゃんは別々に肉料理をもらって嬉しそうだった。よかったよかった。

 食後のデザートを出してもらってから、青年に謝られた。

 なんでも大分前に、領主から紹介されてやってきた別の土地の領主が、魔物を連れて来店したことがあったらしい。珍しい魔物だとその領主はやたらと自慢していたが、魔物は誰かに危害を加えたりはしないものの、店内を好き勝手に動き回っていたからいろいろ汚されたり壊されたりしてたいへんだったというのだ。

 そういうことがあったというなら、従魔といえど魔物を店内に入れたくないという理由はわかる。


「そんなことがあったのか」

「もうあんな人に紹介しないでくださいよ」

「さすがに領主同士、しがらみもあるからな。そういうことになったら今後は私も同席することにするよ」


 領主は頭を掻いた。シュワイさんが聞く。


「どこの領主だったんだ?」

「隣の、リバクツウゴだ。珍しい魔物を集める為に金を費やしているそうだぞ。この町は北の山に近いせいか、ギルドでよく依頼を出している。さすがに本人はそう簡単にはこないがな」


 ため息をつきたくなった。

 人様の領地で迷惑をかけるなよ。

 リバクツウゴは俺が住んでいた村を含んだ土地の領主のはずだ。自分の領地だけでなく他のところでまでそんなことをやっていたなんて。

 とっくに覚悟を決めて家を出てきたけど、母さんのことは心配になったのだった。



次の更新は、16日(木)です。よろしくー

多忙中なので、誤字脱字報告はご遠慮ください。次の更新の際に確認して直します。

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