90.狩った獲物の数を競うニワトリスたちと、とにかく依頼をこなす俺

「いやー、助かったよ。これだけ苗も救ってくれたしな」


 農家のおじさんが鉢を見、そう言いながら札に依頼完了のサインをしてくれた。


「ありがとうございます」

「少年、モールは置いていくのか?」


 領主が不思議そうな顔をして聞いてきた。


「? はい」

「従魔のエサにはせぬのか?」

「ああ……」


 けっこうこれ、勘違いする人多いんだよな。俺は苦笑した。


「うちの従魔たちは自力でエサを調達できるので必要ないです。食べたいものは町の外で狩りますから」

「ふむ……やはり高位の魔物なのだな……」


 領主はうんうんと納得したように頷いた。


「オトカの従魔はオトカには従順だ。だが、聞けることと聞けないことはある。何かさせようとは思うな」


 シュワイさんが釘を刺すように言った。


「何かをさせるつもりはないんだが……ところで昼飯はどうかな?」

「えーっと、もう一件あるのでそちらが終わってからでいいですか?」

「もちろんだ。それも見学させてほしい」

「はーい……」


 次の畑も近くにあった。そちらの農家さんも領主の姿を見ると明らかに動揺した。みんなが姿を知ってるってことは、領内の視察を頻繁に行ってるのかなと思う。でも、俺がいた村を統べている領主の顔なんて知らなかったなぁ。あんまり評判はよくなかったけど。

 名前も確かリバクツウゴとか言ったっけ? 税金がそれなりに高いからうちの村はいつまでも貧しかったのかな。

 やっぱり兄の靴を持ってくるのはやりすぎだったか。ちょっとまずかったかなと思った。

 荷物とかって送ってもらうことできたっけ? 自分でこっそり運んだ方が早いかな。羅羅ルオルオの足頼みにはなっちゃうけど。


「オトカー?」


 すぐ横にいたクロちゃんがコキャッと首を傾げた。

 俺が別のことを考えていたことに気付いたのかもしれない。クロちゃんをなでなでする。


「なんでもないよ。さて、始めようか」


 軽くストレッチをし、先ほどと同じ手順を経てモール駆除をがんばった。今回は二十八匹中五匹狩れた。俺的になかなかいい成績である。

 やる時はやるのだ。……シロちゃんには絶対勝てそうもないけど。

 シロちゃんはこの短時間に単独で十匹も狩り、ふんすとしている。羅羅の頭の上にシロちゃんがノシッと乗った。一番を主張しているんだろう。見てるだけで癒される。


「シロちゃん、ほどほどで降りてあげてね」

「ワカッター!」


 いい返事だけど、その後もしばらくはふんすふんすとしてなかなか降りなかった。はー、シロちゃんかわいい。


「……ニワトリスというのはブルータイガーよりも強いものなのか?」


 領主の問いにはシュワイさんが答えた。


「一概には言えないだろうが、オトカのニワトリスはタイガー種よりもはるかに強いと思う」

「そうか」


 見た目からしてニワトリスってかわいいもんな。普通恐れられるとしたらブルータイガーだろう。


「いやー、本当に助かったよ。ありがとう」


 こちらの畑では隅の方に植えていた苗には全然被害がなかったせいか、すごく感謝された。モールがたまたまそっちに行かなかったってだけなんだけど、もしかしたらモールも忌避するものってのがあるのかもしれない。固まって生き残っていた苗がなんなのかと聞いたら、唐辛子だという。もしかしたら苗の段階から刺激があるのかもしれないと思った。

 依頼の札にサインをもらってから、領主のいきつけだという店に連れて行ってもらった。もちろん従魔を連れて行ってもいいかどうか確認をして。

 そこは少し広い家という佇まいの場所だった。

 パッと見、食堂には見えない。


「キズノモ様、予約は最低でも一週間前にお願いしますって言ってるじゃないですか!」

「すまんすまん」


 料理人と思われる青年が包丁をぶんぶん振り回しながら領主に訴える。うん、普通に危ない。


「しかもすんごく食べそうな従魔とか……肉足りるかなぁ……」


 青年はうちの従魔たちを見てげんなりしたような顔をした。


「あ、場所だけ提供していただければ従魔のごはんはこちらで用意しますから大丈夫です」

「それならいいけど。庭は使っていいですよ。ただし掃除もお願いしますね」

「わかりました」


 庭を貸してもらえるのはありがたい。さすがにもう羅羅からは降りている。クロちゃんとシロちゃんにはもふもふくっつかれてるけど。歩きづらいけどかわいいなぁもう!


「領主様って大食漢なんだよなぁ、食材足りるかなぁ……」


 青年がぶつぶつ呟いている。それを聞いて少し気の毒になった。


「あのー、肉でよければ少し提供しましょうか?」

「えっ? いいの?」

「はい。グレートボアでいいですかね。シロちゃん、一塊くれる?」

「ハーイ」


 シロちゃんがアイテムボックスから出したのを宙で受け取り、それを青年に渡した。


「じゃあ、従魔にごはんあげてくるのでお願いしますねー」

「あ、ああ……」


 今日は何の肉をあげようかなぁ。



 料理人の青年が肉を受け取って茫然とし、その姿を見たシュワイさんと領主が苦笑していたことに俺は気づかなかった。

 従魔のごはんは大事だしね。

 ピーちゃんには森で大量に採ってきた毒草と毒キノコ、それから野菜をあげた。


「オイシー!」


 ともりもり食べていた。うんうん、みんなかわいいなぁ。羅羅の食べ方は豪快すぎてたいへんだけどさ。



次の更新は、13日(月)です。よろしくー!

なんとなく章タイトルっぽいものをつけてみました~

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