88.守ろうとするニワトリスたちと、誰かに出会った俺

 翌日もいつも通りギルドへ向かった。

 モール駆除の依頼がないかどうか確認する為である。


「?」


 ギルドの建物に入った時、なんだかいつもと違うような気がした。受付の前に年配の人がいる。テーブル席には一、二組冒険者たちがいて。


羅羅ルオルオ、出るぞ……」


 シュワイさんが羅羅に声をかける。羅羅は理由も聞かず踵を返した。


「オカイイ! それから従魔を連れた君! 待ってくれないか?」


 なんというか、威厳のある声だった。俺はその声にギクリとした。

 これって、もしかして?

 シュワイさんが足を止め、ため息をついて振り向いた。


「……何用ですか、領主サマ」


 やっぱり受付前にいた人、ここの領主様だったー。

 テーブル席にいた冒険者たちがビクッとした。


「そんな嫌そうな声を出さなくてもいいだろう。君の髪の色が元に戻っていると聞いてね、興味が沸いたんだ。それから、そこの少年にもね」


 やだー、ロックオンされるのやだー。

 俺は平和に暮らしたいんだー。

 シロちゃんとクロちゃんが俺にぎうぎうくっつく。もふもふサイコーです。

 じゃなくてだな。

 もふもふが幸せなのとニワトリスたちがかわいすぎてすぐに我を忘れるの、どうにかならないかな。


「……何用か?」


 羅羅が機嫌悪そうに唸る。俺は慌てて羅羅の背を軽く叩いた。


「羅羅、だめだよ」

「しかし……」

「つつかせようか?」

「……あいわかった」


 俺の力で止めることができないのは情けないけど、羅羅が何かやらかして従魔は処分なんて話になったら困る。そんな話になったら全力で逃げるけどさ。きっとシュワイさんなら追手も止めてくれそうだし。


「はっはっはっ!」


 びっくりした。

 シュワイさんが領主サマと言った年配の人が笑い出したのだ。


「いきなり笑ってすまない。正直ブルータイガーにニワトリスと共に乗っている少年という話を聞いても半信半疑でね。オカイイが共にいるというから大丈夫だろうとは思っていたんだが、しっかり手綱を握っているんだな。安心したよ」

「ピーチャン、イルー!」


 領主がそう言うと、羅羅の頭の上にいたピーちゃんが抗議した。そう、うちのかわいい大きなインコもいますよ。


「すまない。インコも一緒だったな。ちょっと君たちに話があるんだが、いいかい?」


 ピーちゃんがふんすという顔をしている。うん、かわいいよな。


「…………」


 しっかし、これ絶対断れないヤツじゃん。俺はクロちゃんをぎゅっと抱きしめた。


「オトカー」


 クロちゃんが嬉しそうに声を上げる。ああもうかわいいなぁ、と我を忘れそうになった時、二階からドルギさんが慌てたように降りてきた。


「キズノモ様! 直接来られちゃ困るんだよ! 上がってください、オカイイとボウズたちもな!」


 ドルギさんにそう言われてしまったら逆らえない。


「羅羅、上行くよ……」


 領主と共に俺たちは二階のドルギさんの部屋に入った。領主はドルギさんの席に腰かける。ルマンドさんが疲れたような顔をしていた。この領主、フットワーク軽そうだなと思った。


「キズノモ様、困ります。オトカには今日改めて頼むつもりだったのですから」


 ルマンドさんが領主を窘めた。


「すまんすまん。来た方が早いと思ってな。領主館になんて招かれても困るだろう?」


 領主に話しかけられて、どう答えたらいいのか迷った。だが、自分が十歳の男子だと思い出す。


「……領主館になんて、恐れ多くて行けません。でもこんな不意打ちみたいなことをされても困ります」


 そう素直に答えたら、領主は目を丸くした。あれ? 俺、なんかまたしくじったか?


「まだ十歳じゃなかったか? 随分しっかりしているんだな。うちの息子も見習わせたいよ」


 やだー。

 俺は中身が43歳+αのおっさんなんだよー。それに領主の息子だったら絶対俺なんかよりちゃんとしてるだろ。


「ってことで、メシにでもいかないか?」

「今から、ですか?」


 オカイイが聞き返した。


「夜、は気兼ねするだろうから昼ならどうだい?」

「……モール駆除の依頼がなければ」


 空気読まない系素直でいくことにした。モールの駆除は早ければ早い方がいいしさ。


「そういえばモールの駆除を率先して受けてくれるんだって? 今年はとても多いらしいから助かるよ。それから例のホワイトムースのことなんだが、国王に献上することにしたから後で報酬を払おう」


 ……なんつーか、驚きがMAXなんだけど?

 怖いから、金もらったらとっとと別の町へ行こうと思った。

 でもなー、モールの駆除だけは徹底的にやりたいんだよなー。悩ましい問題である。


「しかしモールの駆除を一人の冒険者に集中してやってもらうというのも問題だ。他に受ける者はいないのか?」

「報酬が低い上にモールは土中にいて普通はなかなか捕まえられませんからね。やりたがる冒険者がいないというのが実情です」

「ふーむ。それは少し考えてみよう」


 ルマンドさんに言われて、領主は真面目な顔になった。そういう表情をするとナイスミドルってかんじだな。


「依頼見てきてもいいですか?」


 まだ掲示板を見れていない。気になる。


「よし!」


 領主がいきなり大きな声を上げてビクッとしてしまった。シロちゃんの目が怖い。つついたりしないようになでなでして宥めた。


「もしモール駆除の依頼があったら私も行こう!」

「え? えええええ~~~~?」


 なんか面倒くさいことになったぞ。

 ちら、とシュワイさんを見たが、シュワイさんは軽く首を振った。どうやらシュワイさんには止められないと知り、俺はげんなりしたのだった。



次の更新は5/6(月)です。よろしくー

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