87.心配するニワトリスたちとそれはそれでご褒美な俺
服を掴んで引っ張るのは止めたけど、計算が終わってお金を受け取るまでシロちゃんにつんつんとつつかれ続けました。
地味に痛い。ちょっと切ない。
お金を受け取ってから振り向いて、シロちゃんをバッと抱きしめた。
「オトカー!」
「つついちゃだめって言ってるだろー!」
麻痺はしないけど痛いんだぞ。
「まったくもう、このこの~!」
ぎゅーっと抱きしめてもふもふしまくる。だっこするとつつけないから、こうするのが一番だ。俺ももふもふを堪能できるしなっ。(ここ重要)
「オトカー」
なんかシロちゃんの語尾に音符だかハートだか付いたようなかんじだ。うむ、かわいい。
「……なんつーか、あれだな」
「……その気は全くないんですが、小さい子とふかふかの生き物が戯れる姿は癒されますね……」
「そうだろうそうだろう」
ドルギさんとルマンドさんが呆れたように言うと、シュワイさんがとてもいい声で同意するように言いながら頷く。
ハッとした。ちょっと恥ずかしい。
「す、すみません……」
でも今度はシロちゃんが自分からぐいぐいくっついてくるからぁ。ああもうかわいいなぁ!
「……まぁいいんだけどよ。お前ら見てるとニワトリスがかわいく見えてくるから不思議だな」
「かなり凶悪な魔物のはずなんですが」
「オトカは麻痺しないからな」
解体専門のおじさんたちは無言で仕事をしている。ここにずっといるのも迷惑だから出て行かないとだよね。
「あ、あの……依頼だけ確認して帰りますね。ありがとうございました!」
頬が熱い。いつものことなんだけど、あんまりもふもふしてるのを冷静に見られているのも恥ずかしいものだ。
「ああ、明日も顔は出すんだろ?」
「? はい、来ます」
「じゃあまた明日な」
「はーい、ありがとうございましたー」
ドルギさんたちに声をかけてから、ギルドへ戻った。当たり前のように羅羅の背に乗せられてしまうのがどうかと思うんだ。ギルドに入る時はいつものポジションである。そのままシュワイさんと掲示板を確認した。
「うーん、今日はもうモールの依頼はないですね」
「明日の朝にまた見にくればいい」
「そうですね」
チャムさんの家に帰る途中、市場に寄って買物をする。パンと青菜がほしい。肉は大量にあるから大丈夫。
「オトカー、オトカー」
シロちゃんが後ろで俺にぴっとりくっついたまま催促する。早く肉を食わせろってことなんだろう。
「シロちゃんもう少し待ってねー」
もふもふに包まれすぎの俺、超贅沢だよなー。
市場の人たちももう慣れたもので、「今日はいい果物が入ってるよ!」とか声をかけてくれる。ありがたいことだ。
「クダモノー!」
それに反応するのはピーちゃんだ。
「はい、味見」
店のおばさんがピーちゃんに少し切った果物をくれる。
「アリガトー!」
すっかりうちのもふもふたちは人気者だ。でも、ここに長居する気はない。ホワイトムースのお金をもらったら別の町へ移動するつもりである。
「ありがとうございます」
「ほらよ、お食べ」
おばさんが気前よく俺とニワトリスたち、シュワイさんにもくれる。羅羅は果物など食べないことを覚えてくれている。
「あ、甘い!」
「オイシーイ」
「オトカー」
「これはなかなか」
俺、シロちゃん、クロちゃん、シュワイさんが声を上げる。ピーちゃんは嬉しそうに羅羅の頭の上でジタジタ踊った。
「これ、おいくらですか? ひいふうみい……6ついただきます」
「大銅貨3枚だけど、ちょっとまけて大銅貨2枚と銅貨5枚にしてやるよ!」
「ありがとうございます!」
1つはチャムさんの分だ。
俺たちが離れると、
「買った買った! インコとニワトリスが認める甘くておいしい果物だよ!」
おばさんは声高にそう宣伝を始める。思わず笑ってしまう。逞しいよなぁ。そんなかんじで買物をし、やっとチャムさんの家に帰った。
もちろん今日がそんな平和に終わるわけはなく……。
荷物を片付けたら、従魔たちに怒られた。
モール駆除の依頼の際の、ジャイアントモールに対する俺の動きである。
怪我しなかったんだからいいじゃんとこっちは思うのだが、そういう問題ではないらしい。
「……片付けとやらは終わったのか?」
羅羅に聞かれて、「うん、終わったよ」と言った途端、シロちゃんとクロちゃんにくっつかれてそのまま床に引き倒された。
「???」
そして俺の上にシロちゃんとクロちゃんがのしっと乗り、頭を羅羅に前足で押さえられた。
「主よ、わかっておるな?」
「オトカー!」
「アブナイー!」
一瞬なんのことかわからなかったけど、畑の時のことかと思いいたった。
一応従魔たちもTPOをわきまえて、帰ってきてから怒ってくれたみたいだ。それはありがたい。
「羅羅、どういうことだ?」
シュワイさんの方が戸惑っていた。
「主はでかいモールの正面に立ったじゃろう」
「……大丈夫だと思ったんだよー」
一応言い訳をしたけど、余計に怒られてしまった俺だった。
だってさぁ、ジャイアントモールぐらい一人で倒せなかったらDランクになんかなっちゃいけないだろ?
「主は我らに簡単に抑えつけられてしまうぐらい弱いではないか。己の能力を正しく把握せよ」
「……はーい」
羅羅の前足はともかく、シロちゃんとクロちゃんは鳥のせいか乗られててもそれほど重くはないんだよなー。お仕置きというより俺にとってはご褒美っぽいんだが?
でもそんなこと言ったら羅羅に乗られそうだから言わないでおく。
「もう少し考えて動くことにするよ」
「そうしてくれ」
ってことで従魔たちによる説教は終わった。ちなみにピーちゃんはシュワイさんの肩の上に乗って首をコキャッと傾げていた。
ピーちゃんは戦わないからな。
チャムさんが帰ってくる前に魔物の肉を切り分けて従魔たちにあげた。シロちゃんが一番喜んでいた。うん、うちの子たちはホントかわいいよな。
次の更新は5/2(木)です。よろしくー
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます