78.俺から離れないニワトリスたちと、今後の予定を話す俺

 というわけで翌日である。

 朝飯を食べた後冒険者ギルドへ直行したら、セマカさんとリフさんは先に着いていた。髪の色が変わっていて、一瞬誰だかわからなかった。セマカさんは金が混じっているような茶色の髪になっていて、リフさんは真っ黒だった。お互い何か吹っ切れたのかもしれない。

 また若いもんはえ~のうとか思ってしまった。

 それはともかくギルド長のドルギさんに呼ばれて二階へ。


「北の山の魔物を狩ってきたんだな?」

「北の山の固有種であれば五頭だ。残りの三頭はジャイアントディアーだな」


 シュワイさんが答えると、ドルギさんは額に手を当てて頭を軽く振った。


「……おいおい、一日で八頭も狩ってきたのかよ? そのうちの五頭が北の山の魔物だって? どうなってんだ」

「人数が多かったから襲われたのかもしれん。あんな短時間で狩れたとなると、北の山の魔物が飽和状態なのかもしれないな」

「……それは困りますね」


 ルマンドさんが考えるような顔をする。

 ん? 飽和状態ってことは、まだ北の山の魔物が森に降りてくる危険性があるのか?


「オカイイさん、別に依頼を出すとして受けていただけますか?」

「オトカも一緒ならば」

「ええええ」


 ルマンドさんの提案に、シュワイさんがそんなことを言い出す。もう北の山は勘弁してほしかった。


「不満か?」

「……今回はうちの従魔たちも狩りたいって話でしたから一緒に行きましたけど、俺自身はなんの役にも立っていませんし、そろそろ別の町へ移動したいんで嫌です」


 きっぱり言うと、みなに意外そうな顔をされた。

 なんでだよ。


「移動?」

「移動するのか?」

「どこへ?」

「そうなの?」


 ドルギさん、ルマンドさん、セマカさん、リフさんに聞かれた。俺は旅がしたいんだってばー。


「まだ決めていません。西の門から出て、行けるところへ行こうかと」

「オトカ」


 シュワイさんに声をかけられてそちらを見た。


「今日明日の話ではないのだろう?」

「ええまあ。モール駆除依頼があれば積極的に受けたいですしね」

「そうか」


 シュワイさんはなんというか、鷹揚としていた。羅羅と離れたくなくてちょっとごねられるかと思ったけど(超失礼)、そんなことはなかった。

 すんなり離れられるのが一番だ。

 その後は裏の倉庫へ向かい、獲物を出して(シロちゃんとシュワイさんが出した)解体してもらった。


「ジャイアントディアーが三頭、ホワイトサーベルタイガー一頭、ホワイトライオンが二頭、ホワイトジャイアントボアが一頭、ホワイトボア二頭……ってどうなってんだお前らは」


 解体専門のおじさんが呆れたように呟いた。

 俺とピーちゃんは何もしていない。あ、でもピーちゃんは治癒魔法で活躍したなー。やっぱ治癒ってできるといいよな。

 ドルギさんとルマンドさんも開いた口が塞がらないような状態だった。


「それで? どれとポイズンボアの肉と交換する?」


 シュワイさんが、俺にぎうぎうくっついているニワトリスたちに聞いた。


「ンー?」

「ンンー?」


 シロちゃんとクロちゃんがコキャッと首を傾げた。もしかして忘れていたのだろうか。羅羅は覚えてそうだったので、聞いてみる。


「……羅羅は?」

「そうさな……、ホワイトボア一頭であればよいのではないか?」

「だそうです」

「お、おお、それは助かる……」

「ありがとうございます」


 ドルギさんとルマンドさんはほっとしたように胸を撫で下ろした。

 解体はちょっと時間がかかるらしい。明日取りにこいとのことなので、今日のところはチャムさんちに戻ってまったり過ごすことにした。

 昨夜もなんだかんだで寝る時間が遅くなったし。

 適当に買い物をしてチャムさんの家に戻る。セマカさんとリフさんも付いてきた。これでもう二人からの依頼は完遂だ。


「いろいろ世話になったな」

「ありがとう」

「お二人は王都へ戻られるんですか?」


 寂しくなるなと思いながら聞くと、こんな返答があった。


「ああ、報告があるからな」

「でもまた戻ってきたいわ。貴方たちと一緒にいると飽きないし」

「僕はこの町を出るつもりですよ?」


 苦笑した。俺としてもセマカさんとリフさんが一緒にいたら楽しいだろうなと思う。でも俺は世界中を巡りたいなとも思っているから、彼らが戻ってくるのを待つのはあまり現実的ではないだろう。


「……ホワイトムースの換金が追加であるはずだ。それが終わるまではいた方がいい」


 シュワイさんが口を開いた。あ、と思った。確かにそんなのもあった。今回の獲物の解体が済んだらはい、さよならってわけにはいかない。しかも実はまだ解体を頼んでいない獲物もけっこうあるのだ。シロちゃんと羅羅が調子に乗って狩るから、アイテムボックスの中は肉で満載である。下手したら一か月ぐらい何も狩らなくても大丈夫なんじゃないだろうか。


「そういえば、そんなのもありましたね」


 今の俺は大金持ちだが、金はあるに越したことはない。何せ従魔たちを養うのにも金がかかるだろうし。でも家を買いたいとかは思わないんだよな。

 とにかく、今は旅がしたいのだ。


「そうですね。もらえるまではいますよ」


 隙あらばくっついてくるクロちゃんをなでなでしながら答えた。かわいいかわいい。クロちゃんも満足そうで更にかわいい。わしゃわしゃしてしまう。うう……かわいいしか言えない。

 一番反応したのはチャムさんだった。


「そろそろ別の町へ移動しようかと思ってます」


 と告げたらこの世の終わりのような顔をされた。この人はどんだけ魔物の肉が好きなんだよ?


「毎朝銀貨一枚と言わず、三枚出しますから! もうしばらくは行かないでくださいー!」

「えっと……そんなにいらないんで。ホワイトムースの換金待ちなんで、まだしばらくはいるかなーと……」


 毎日銀貨三枚も俺にくれてたらチャムさん破産しない? ちょっと心配になってしまった。

 ちなみに、北の山でピーちゃんが治癒魔法を使ってくれた時毒が消えてなかった理由について聞いたら、ピーちゃんは魔物で毒状態にならないから毒を治癒すべきものととらえていないということが判明した。(強い治癒魔法だと状態異常も治す力がある)だから傷はキレイに治ったけど、毒はそのままだったみたいだ。この世界の魔法って、本人の自認も大事なんだなと思った。


「オトカー、ケガー?」

「してないから大丈夫だよ」


 ピーちゃんがコキャッと首を傾げて心配してくれる。

 嬉しくなってピーちゃんを少しなでなでしたのだった。



次の更新は4/1(月)です。よろしくー

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