75.北の山へ向かうニワトリスたちと、なんでついていくのか釈然としない俺

 シュワイさんが事前に羅羅ルオルオへ、あまりスピードを上げないようにと言ってくれていたのでどうにかなった。

 酔いはしないけど、あんまり速すぎると身体にダメージがくるんだよな。これもきっと身体強化魔法が使えれば違うんだろうけど、元からない物はしょうがない。

 あとはセマカさんとリフさんの速度に合わせるってのもあったと思う。彼らも多少鍛えて、ある程度までは付いてこれるようになっているけど、北の山に着いた途端ぶっ倒れて使い物にならないじゃ困るだろうし。


「今回は調査だ。北の山にしかいない獲物を最低二頭狩る。それでいいな?」


 北の山に着く手前で、シュワイさんがセマカさんとリフさんに確認した。


「ああ、それで頼みたい」

「お願いするわぁ」


 もちろん二人も戦うんだろうけど、シュワイさんのサポートがないと厳しいだろうと思う。森の魔物よりも北の山の魔物の方が強いみたいだし。(先日のホワイトムースとかやヴぁいと思った)

 俺も北の山で魔物に遭遇した時の動きは確認している。羅羅から降りてクロちゃんと共に離れることになっている。

 クロちゃんに、獲物狩れないけどそれでいいの? と昨夜聞いたんだけど、


「オトカー、ダイジー!」


 と言われてしまい頬が緩んだ。そのまま昨日はもふもふしまくってしまった。うちの子かわいいよたまらないよ……。

 話を戻そう。

 現在北の山の麓付近である。ここもそれなりに危険らしくて、いつ魔物が出るかわからない地帯だという。

 こわい。

 えーん、助けてママー。(誰)


「ここからは慎重に進むぞ。羅羅、いいか」

「かまわぬ。ピーよ、しっかり潜れ。主よ、落ちるでないぞ」

「ワカッター!」

「はーい」


 ピーちゃんは羅羅の毛に潜り込む。羅羅の毛は暖かいから北の山に入っても凍ることはないだろう。俺は振り落とされないようにしっかり掴まっているだけだ。前後をクロちゃんシロちゃんでサンドされてるからそうそう落ちようがないけどな。

 お茶を飲み、少し落ち着いてから先ほどの半分のスピードでみな山を登り始めた。

 ……俺にとってはかなり速いけど。

 山を登るにつれて辺りが白くなり、風も冷たくなってきた。なんか雪、みたいなのが混じっている気がする。俺はクロちゃんにしがみつきながら、なんで俺ここにいるのかな? とまた思ってしまった。

 そのまましばらく山を登り、寒いなーと思ったところで羅羅が足を止めた。


「……いるぞ。正面に二頭だ」

「……わかった」


 クロちゃんと共に羅羅から素早く降り、後方へ走る。これでみなの邪魔はしないはずだ。もう雪がそれなりに積もっている場所だから、その中を走るのはたいへんだった。

 クロちゃんが足を止めたところでくっつき、振り返る。


 ギャオオオーーンッッ!


 と魔物の叫び声が聞こえた。俺が自分で走っている間も聞こえていたはずだけど、走るのに夢中で耳に入っていなかったみたいだ。


「うわお……」


 離れたところからセマカさんとリフさんが魔法を使い、小さめの一頭を攻撃している。もう一頭はかなりの大きさで、シュワイさんが魔法を使い、シロちゃんと羅羅が攻撃していた。


「うーん、怪獣大決戦?」


 あんまり見られる光景じゃないよなぁと思いながら、俺はクロちゃんをもふもふしている。映画かなんかかなと現実逃避したくなるけど、これは目の前で起こっていることなのだ。

 見ている間にセマカさんとリフさんが小さい獲物の方を倒した。

 火魔法を使っていたから、毛皮はあんまり取れそうもないかななんて失礼なことを思った時、視界の端で何かが動いた気がした。


「……ん?」


 リフさんの後方の白い景色が少しおかしい。


「クロちゃん、あれって……」

「デッカイー?」


 クロちゃんが首をコキャッと傾げた。


「やっば……」


 セマカさんとリフさんは気づいていないみたいだ。シロちゃん、羅羅、シュワイさん組は今一頭を倒したところである。

 多分、俺の方が距離が近い……。


「クロちゃん!」


 小声で合図をし、リフさんたちの方へ走る。


「リフさん、セマカさん! 逃げて!」

「えっ?」

「走ってー!」


 俺が声を上げると同時に、リフさんの後方にいた白い大きな影は実態を現わした。白は白なんだけど、明らかにその存在が見えるようになったのだ。


「ホワイトサーベルタイガーだと!?」


 シュワイさんが叫ぶ。

 なんで大当たりをさっそく引き当てちゃうのかなぁ!


「クロちゃん、つついてー!!」


 クロちゃんがババッと飛び、魔物がリフさんを捕まえる前に飛びついた。

 クロちゃんナイス!


「あううっ!?」


 って思ったけど、魔物が麻痺する前にリフさんを傷つけた方が早かったらしい。その後で、魔物がドサッと倒れた。


「クロちゃん、ありがとう! リフさん大丈夫ですか!? ピーちゃん!」


 リフさんは腕を押さえて倒れた。セマカさんが慌てて何か魔法をかけている。

 羅羅が慌てて駆けつけてきた。ピーちゃんが顔を覗かせる。


「サムーイ!」

「ごめん、ピーちゃん! リフさんに治癒魔法をかけて!」


 ピーちゃんは羅羅の上で踊り始めた。そういえばピーちゃんの魔法はそうやって発動するんだった。緊迫した状況のはずなのに、なんてコミカル……。

 でもおかげでどうにか、リフさんが負った怪我は塞がったみたいだった。ほっとしたけど、リフさんの顔色がすこぶる悪い。


「え? いったい……」

「オトカ、ホワイトサーベルタイガーの爪には毒があるんだ」


 シュワイさんが来て、そう言った。

 ってことは、俺が触れば治る?

 でも俺が触れたら、リフさんが自分にかけている魔法も解けてしまうだろう。それは彼女にとって避けたいことなんじゃないのかな?

 セマカさんが祈るような顔をしている。みんなにじっと見られて、俺は覚悟を決めた。

 リフさん、ごめん。

 俺はそっとリフさんの腕に触れたのだった。



次の更新は21日(木)です。よろしくー

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