74.北の山へ行くのがうきうきなニワトリスたちと、怖がりな俺

「アイアンと知り合いだったのか」

「町に着く前に知り合ったんですよ。この町の情報とかいろいろ教えてもらって助かりました」

「そうか。では礼を言わなくてはな」

「……シュワイさんがなんでお礼を言うんです?」


 シュワイさんはきょとんとしたような顔をした。


「オトカが世話になったのだから当然だろう」


 シュワイさん、すっかり俺の保護者になってるなぁ。

 これはチャムさんの家に戻ってからの会話だ。何故かセマカさんとリフさんも付いてきている。チャムさんは帰ってきた時に人がいるのが嬉しいのか、「泊まっていってもいいですよ」なんて言っていた。

 俺がどうのこうの言うことじゃないけど、他にも客室ってあるのかな?


「いえ、夜は宿に戻ります」

「お気持ちありがとうございますぅ」


 セマカさんとリフさんはきっぱりと断った。うん、やっぱちゃんとした人たちなんだよな。

 でも夕飯は食べていくらしい。

 今日はギルドに明日から北の山に向かうという報告をしがてら、昨日の獲物の解体を頼んだ。んで、夕方に解体できた分を回収しに行った。おかげでまた肉がうなるほどある。いろんな肉が食べられてほくほくだ。

 キュウさんたちが狩ったというポイズンボアの肉も少しもらってきた。解体のおじさんたちが「そんなもの食うのか?」と言いたげな顔をしていた。

 これがうまいんだけどな。

 でも毒が含まれていることに違いはないから、勧めたりはしない。鑑定魔法を持ってないと、どれぐらい焼いたら毒が消えるとかわかんないしな。俺はある程度焼いたらそのまま食べるけどさ。(毒全く関係なし。でも生では食いたくない)

 従魔たちの夕飯にはもらってきたポイズンボアの肉と、他の肉を出した。ポイズン系の肉を切り分けるのは俺の仕事だ。ギルドの解体専門のおじさんたちは専用の手袋を持っているが、そういう職業の人以外には売ってくれないらしい。なので必然的に俺がやることになる。

 ちなみに、俺が肉に触れても毒は消えない。これがポイズンボアの通常だからだ。面白いなと思いながら、最後に切り分けた。


羅羅ルオルオ、シロちゃん、クロちゃん、ピーちゃんごはんだよー。このお肉の感想を聞かせてねー」


 そう言いながら従魔たちを促して庭へ移動する。ピーちゃんは毒キノコや野菜をおいしそうに摘まんだ。


「ピーチャン、オニク、タベナーイ!」

「うんうんそうだねー」


 きゅるんとした目がかわいいよな。サイズはタカぐらいあるけど。


「待ちかねたぞ」

「ゴハンー!」

「オトカー!」


 クロちゃんや、だから俺はごはんにならないってば。

 苦笑しながら食べてもらった。


「うむ……ただのボアの肉よりうまいな」

「オイシー!」

「オイシー!」

「じゃあ、一頭分交換してもいい?」

「よかろう」

「イイヨー!」

「イイヨー!」


 ほっとした。

 俺たちの獲物だから肉を卸すも卸さないもこっちで決めていいんだけど、人間にはこう、しがらみっぽいものもあるしさ。あー、面倒だ。

 ちなみに俺の分のポイズンボアは自分の小さいフライパンで焼いて食べた。毒が少し残ってていいかんじだった。毒あった方がうまいのは何故なのか。


「明日は北の門に集合か」

「また明日ね~。ごちそうさまぁ」


 セマカさんとリフさんは手を振って宿へ戻って行った。


「明日はギルドには行かなくていいんですよね?」


 確認する。


「ああ、今日依頼は受けたからな。明日は直接北門へ向えばいい。走るからそれほど早く出る必要もない」

「あははは……」


 俺は今回も羅羅の上だ。身体強化魔法がないから俺の歩みに合わせたら北の山まで二日ぐらいかかってしまう。でも羅羅の背に乗れば半日もかからずに着いちゃうもんな。つくづくなんで俺も行くことになっているのかわからない。

 でも北の山の魔物ってどんなのなのか見てみたい気はする。基本は羅羅の背の上で、魔物が出てきたら降りて隠れることしかできないかもしれないけど。

 とにかく俺は無理をしない。

 そう決めてクロちゃんシロちゃんともふもふしながら寝た。

 ベッドが狭くなるんだけど、これが一番幸せなのだ。



 翌朝。

 今日はとうとう北の山へ向かう日だ。

 足手まといにならないように、怪我も絶対にしないようにしなくては。

 チャムさんが家を出る時念押しするようにシュワイさんに言う。


「気を付けていってきてくださいね。シュワイ、オトカ君を守るんですよ」

「わかっている」


 だからどうして俺は守られながらそんな危険なところへ連れていかれるんですかねぇ?


「きっと、北の山独自のおいしい獲物が獲れるはず……」


 そうでも思わないとやってられない。

 もしかしたらおいしい毒キノコが、とかおいしい毒草が……とか現実逃避しないとやってられない。

 北門まではチャムさんも一緒に移動し、セマカさん、リフさんと合流していざ北の山へ。

 怖いよーと思っている俺とは裏腹に、羅羅は今にもトップスピードで駆け出しそうだし、クロちゃんシロちゃんは俺をサンドしながら「オニクー」とか言ってるし、ピーちゃんはピーちゃんで「シュッパーツ!」とか羅羅の頭の上で身体を揺らしながら楽しそうに言ってるしで、どうなってるんだよと白目を剥きそうだった。(行くのを嫌がってるわけではないです。未知の場所が怖いだけです)



次の更新は18日(月)です。よろしくー

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