73.近づく人には容赦ないニワトリスたちと、誰かと再会する俺

 ……結局俺も食い気なんだよなー。

 ギルドの二階から一階に降りたら、「うぉっ!?」という声がした。羅羅ルオルオに乗ったままそちらを見ると、どこか見覚えのある顔があった。背の高いテーブルがある席である。男女交えて五人ぐらい腰かけていた。

 えーっと……。


「主よ、道中に会った者ではないか?」

「あっ、そうか! えーっと、確かアイアンってパーティーの……」


 パーティー名は覚えていたんだけど、その人の名前は忘れてしまっていた。複数でいたからなんとなく顔は覚えていたかんじだ。確か五人パーティーなんだっけ?


「覚えていてくれたか。弓使いのキュウだ。そっちは……従魔が増えてないか?」

「あ、はい」


 キュウさんが難しい顔をする。(名乗ってくれて助かった)羅羅の頭の上にいるピーちゃんがコキャッと首を傾げた。


「こっちに来てから一羽増えたんですよ。依頼、無事終えられてきたんですね。よかったです」


 そういえばこの町に着いたらアイアンてパーティーの知り合いだって答えればいいと教えてもらったけど、俺が思っていたより羅羅は恐れられる存在みたいで、そんなこと頭から吹き飛んでしまった。冒険者になれたのだって町の入口でだったしな。

 でも事前にいろいろ教えてもらえたから助かったのは事実だ。


「少年も無事冒険者になれたみたいだな。Fランクだろう? なにか困ったことがあれば言えよ」

「ありがとうございます。えーと、おかげさまでEランクになれまして知り合いもできました」


 さすがに失礼なので羅羅からは降りた。するとクロちゃんとシロちゃんがぎうぎうくっついてくる。なんだこの超かわいいおしくらまんじゅうは。


「おお! こんなに早くか? それはすごいな。……そういえば、以前もらった肉のことなんだけど」

「あ、もしかして、なにかありました……?」


 声が潜められた。あの肉に何か問題があっただろうか。ちょっと心配になる。


「いや、すっげえうまかったんだよ。あれって、なんの肉だったんだ?」

「うーん……」


 適当にアイテムボックスから出したから、なんの肉を渡したかも覚えてないんだよな。情報料として出したのってなんの肉だったっけ? 食べて異常がないってことは、少なくともポイズン系ではないだろう。(火を入れれば毒は抜けるが、それは知らないだろうという判断)


「……ごめんなさい。うちの従魔たちが適当に狩ってきたのだったんで、どの肉をお渡ししたか覚えていないんですよ」

「どの肉って……」


 キュウさんと、その周りにいた人たちが絶句した。

 あれ? なんか俺おかしなこと言ったかな。

 まぁここで会ったのも何かの縁だ。


「羅羅、シロちゃん、クロちゃん、お近づきの印にお肉、少しあげてもいいかな?」

「よかろう」

「イイヨー」

「イイヨー」


 一頭丸ごととかじゃなければけっこう気前がいいんだよな。

 ってことで今日解体してもらったジャイアントボアの肉をクロちゃんに出してもらって渡した。


「えっ? いいの? 俺、今日何もしてないぞ?」

「あはは……この町の知り合いとかってあんまりいないので、よかったらもらってください」


 どうせ渡したのはほんの少しだし。(注:従魔たちが大量に狩ってくるのでオトカの感覚がおかしくなっています。1kg渡しました)

 五人で一食分ぐらいにはなるんじゃないかな。


「い、いや……こんなにはもらえないって……」

「……いただいておこう。その代わり、困ったことがあったらいつでも頼ってくれ」


 後ろにいたリーダーらしき人に声をかけられて頷いた。せっかく出したんだからもらってくれると嬉しい。

 その人はいかついかんじで声も低い。皮鎧をつけていても明らかにわかる筋肉がすごいって思った。その人が椅子から立ち上がった。シュワイさんほど背が高いわけではないけど、全体的に身体がでかいっていうのかな。圧がすごい。

 彼が俺に向かって両手を差し出した。


「お、おい、マッスル……」


 あ、ここに載せろってことですね。


「はい、よろしくお願いします」


 肉の包みをいかつい人――マッスルさんに渡した。マッスルさんはそれまで難しい顔をしていたけど、肉を受け取ると満面の笑みを浮かべた。いかつさが消えたように見えた。


「マッスル……喜びすぎ。ありがとう、嬉しいわ」


 そう声をかけてきたのは、腰に剣を下げている女性だった。剣士、なのかな?


「私はナイティー、で、このいかついのがマッスルっていうの。オトカ君、だったかしら。本当にありがとう」

「いえ……」


 なんでこんなに感謝されてるんだろう。俺の前にはクロちゃんがいるから近づいてこられないみたいだけど、クロちゃんガードがなかったら今にもハグされそうな、そんな雰囲気だった。


「お肉もらえてよかったー」


 その後ろにいた女性がはーっとため息をつきながら呟いた。


「こら、ソーサ」

「だって、帰りにせっかく狩ったのにポイズン系だったじゃない。毛皮は取れるけどお肉~」


 ポイズン系ってことは、もしかして?


「あれ? もしかしてポイズンボアを狩られたのって、キュウさんたちですか?」

「え? なんで知ってんだ?」

「ええと……」


 うちの従魔はポイズン系の肉もおいしく食べるから、ギルドから買い取ったような話をした。(実際にはこれから狩る獲物と交換する予定なんだけど)ポイズン系は俺も食べるんだけどさ。それはさすがにないしょで。


「ええー? ってことは、ポイズン系の肉でもオトカ君に聞けば別のお肉と交換してもらえる可能性があるってこと!?」


 ソーサさんが食いついてきた。


「ええまぁ……」


 俺も普通に焼いて食うし。しかも実はポイズン系の方がうまいのだ。


「じゃ、じゃあじゃあ! 二対一ぐらいで交換してもらうことって可能? もち、こっち二で! あ、でもポイズン系だから三対一でも五対一とかでもいいよ!」


 ぐいぐい来られてクロちゃんが不機嫌になっているのがわかる。困ったなと思った時、リフさんが俺の前に出た。


「はいはーい、オトカ君が困ってるから下がって下がってー。あんまり近づくとニワトリスちゃんにつつかれちゃうわよぉ」


 リフさんにそう言われて、彼らはハッとしたようだった。そしてずりずりと下がる。なんでリフさんが、と思って背後を見れば、シュワイさんがそっぽを向き、セマカさんが苦笑していた。きっとシュワイさんがリフさんに頼んで助け舟を出してくれたのだろうなと思った。


「交渉だったら私が引き受けるわぁ」

「じゃあ、またもしそういうことがあったらお願いします!」


 ソーサさんが頭を下げたかと思うと、キュウさんたち他のメンバーもバッと頭を下げた。一人ずっと黙っていたけど、その人も肉は食べたいみたいだ。

 俺、そんなにいい肉あげたっけ? でも魔物の肉って全部うまいもんなー。なんでか知らないけど。

 そんなかんじで、俺は町に来る前に知り合ったアイアンというパーティーと再会したのだった。

 ちなみに、クロちゃんとシロちゃんは興奮して彼らをつつきそうになっていたのでなでなでして宥めた。

「あの人たちはいい人なんだよ~」って。すぐに機嫌を直してくれたうちのニワトリスたちがかわいくてしかたありません。

 アイアンのみなさんは三日ぐらい休んでからまた依頼を受けるということで、もし機会があればごはんを食べに行こうという話になった。

 その時にはシュワイさんとセマカさんも近くに来て、「私たちも一緒でいいか?」とセマカさんが聞いてくれた。

 保護者が多くて、ありがたいんだけどちょっとうざいなと思ってしまったのだった。(ごめんなさい)



次の更新は、14日(木)です。よろしくー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る