68.ガードが厳しいニワトリスたちと薬草を摘む俺
「おいおい、なんなんだよいったい……」
「留守番でしょぉ? オトカ君、仲良くしてねぇ」
置いていかれたセマカさんがぼやき、リフさんにはうさんくさい笑みを向けられた。失礼かもしれないけど、この人たち見るとなんか姿が微妙にブレててさぁ。
「ダメー!」
クロちゃんが俺とリフさんの間に入った。羽を広げている。一歩リフさんがこちらに踏み出そうものならつついてしまいそうだ。
「クロちゃん、大丈夫だから、ね?」
後ろからだっこしてもふもふしてなだめた。ああもうこのもふもふたまらん。
「オトカー」
クロちゃんの声に甘えたような音が混じるのがすんごくかわいい。尾がびったんびったん揺れる。
「狩りってどこまで行ったのかしらぁ?」
「さぁ……しばらくは戻ってこないかもしれませんね」
付いていかないならいかないでいくらでもやることはある。薬草も毒草も食べられる草も森の中にはたんまり生えているし。
「狩りに行ったって、運搬は……ってああ、ニワトリスか。アイテムボックス持ちとかすげーな」
セマカさんが感心したように言う。そうだ、うちのニワトリスたちはすごいんだぞ。
「うーん、それじゃ確かになかなか帰ってこないかもぉ」
二人が話している間にクロちゃんを撫でてから放し、「薬草とか採るからなー」といろいろな草やキノコを採り始めた。
「オトカ君はぁ、鑑定魔法持ち?」
「ええ、あります」
「でも鑑定だけに頼ってるわけじゃなさそうねぇ」
「物心ついた時から採ってますし。うち、すっごく貧しかったんで」
「そっかぁ、苦労人なのねー」
……俺は苦労人なんだろうか。
ちょっと考えてしまった。
確かに家は貧しかったし、小さい身体で農作業を手伝うのはたいへんだったけど、みんなやってたことだしなぁ。それに俺は自由に森へ遊びに行くこともできたし、ニワトリスにシロちゃんとクロちゃんを譲り受けたしな。
そんなに苦労人と呼ばれるほどのことはないと思う。
「……うちの村では普通でしたよ」
「そう? この薬草を採るとお金になるのかしら?」
「ええまぁ、小遣い程度ですけどね。それに薬草がそれなりにあれば誰かが病気になっても早めの対処ができるじゃないですか」
「……オトカ君って、十歳じゃなかったかしらぁ?」
ギクッとしてしまう。やはりそこはかとなく43歳のおっさん臭がするのだろうか。発言には気を付けないとな。
「チカイー!」
クロちゃんが俺とリフさんの間に入って羽を広げた。
「あらぁ、ごめんなさいね。オトカ君が面白いから、つい……」
面白がらないでほしかった。
「で、どうするんだ? こんな森の中で魔法ぶっぱなすワケにもいかねえしなぁ」
セマカさんがとんでもないことを言う。絶対にやめてほしい。
「あらぁ、だめよセマカ。そんなことしたら森の魔物が一斉に突撃してきちゃうじゃなぁい?」
「そ、それもそうだな……」
セマカさんは青ざめたみたいだった。
そう、森の中であんまり大きな音を立てたりすると魔物が襲ってくる確率が上がるのだ。元の世界とかだと、基本動物は臆病だから熊避けの鈴なんてものがあったぐらいなんだけど(注:クマでも音に寄ってくる個体もいます)、こっちの魔物にとって人間は脅威にならないらしい。
まぁ今は一時的に魔物もこの辺りには近づいてこないだろうけどな。(さっきまでホワイトムースがいたからだ)
「オトカ君、薬草の見分け方とか教えてくれなぁい?」
「リフさん、鑑定魔法ありますよね?」
あるとは聞いてないけどありそうなので言ってみる。
「あることはあるけどぉ、自分の目である程度見分けられた方がいいじゃない?」
「そうですね」
セマカさんとクロちゃんには周囲を警戒してもらうことにして、俺はリフさんと一緒に薬草を採取することにした。
ホント、悪い人たちじゃないんだよなー。
結局、超ご機嫌な羅羅とシロちゃん、ピーちゃん、そしてシュワイさんが戻ってきたのはいいころ経ってからだった。時計とかないからわからないけど、太陽の光を見る限りかなり時間は経っていたと思う。
だって途中で薬草を煎じて薬草茶を飲んでたぐらいだし。セマカさんはぶえーって顔をしていたけど、リフさんは「意外と飲めるわねぇ」と言って飲んでくれた。ちなみに冷ましたのをクロちゃんにあげたらつつかれた。ごめんなさい。
「おかえりなさい。どうだった?」
「大猟である」
「タクサーン」
「イッパーイ!」
「すごかった。魔物がか弱い家畜に見えたな」
「ははは……」
またうちの従魔たちは大量に狩ってきたようである。森の生態系とか崩れないのかな、それ。ところでピーちゃんはいったい何をしに行ったんだろう。肉食ではないはずだから、偵察とかなのかな。
「じゃあまたギルドで解体してもらおっか」
「そうだな」
「キルー!」
「うんうん、ギルドでね」
シロちゃんや、俺はそんなにいっぱい解体できないからね。せいぜいできても一体ぐらいだよ。ピーちゃんも楽しかったらしく、機嫌よさそうに羅羅の頭の上でジタジタしている。
かなり汚くなっていたのでみんなまとめて浄化魔法をかけたら、必死に毛づくろいを始めた。毛づくろいしてる姿ってすっごくかわいいよな。
「残念ながら北の山の魔物は降りてきてはいなかった」
シュワイさんに言われて、調査も兼ねて狩りに行ったらしいということに思い至った。
「どちらにせよ間引きは必要になるとみていいだろう。セマカたちも調査で来ているなら一体ぐらいは倒して持ち帰る必要はある」
「……あんなでかいの、どうやって持って帰るんだよ」
「それでオトカ君を連れていきたいのね?」
ああ、ポーター代わりか。うちのニワトリスたちだけを連れて行くことなんてできないしな。
「……オトカは自覚がないだけでかなり優秀だ。戦闘センスもいい。従魔もいれば千人力だろう」
真顔でシュワイさんがそんなことを言う。俺は苦笑することしかできなかった。
「そうねぇ。私じゃあんなに手際よくモールは狩れないわぁ」
「……う……」
セマカさんは目を逸らした。
「……そんなお世辞を言われても、嫌なものは嫌ですよ」
北の山へは行きたくないと、きっぱり拒否した俺だった。
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次の更新は26日(月)です。よろしくー
オトカ、シュワイ氏がマジックバッグを持っていることを忘れています。
別作品ですが、宣伝させてくださいませ。
「前略、山暮らしを始めました。」コミックス2巻、本日発売しました。どうぞよろしくお願いします。
↓近況ノート
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