69.どうしても獲物を食べたいニワトリスたちと、とうとう観念する俺

 今回のホワイトムースに関しては完全な巻き込まれだと思う。

 あれからも森で少し散策してはいたが、恐ろしい気配はすっかり消えてしまっていた。

 ホワイトムースだけでなく他にも獲物を大量に狩ってきた羅羅ルオルオとシロちゃんはご機嫌だった。特にホワイトムースの味が気になるらしく、シロちゃんにせかされて思ったよりも早く森を出ることになった。

 つっても、羅羅のおかげでこんな遠くまで来られたんだけど。

 きっと俺の足を基準にしたらここまで半日以上かかっただろうなと思う。そう考えるとシュワイさんはともかく、それにしっかり付いてきたセマカさんとリフさんもすごい。元々能力が高いからちょっと鍛えただけで付いてこれるようになるってなんなの? やっぱ超人なの?

 と、遠い目をしながら羅羅の背に揺られ、キタキタ町へ戻ったのだった。

 で、ギルドの倉庫でいつも通り解体してもらおうと思ったんだけど。


「我々は倉庫にいるからギルド長に来てもらうよう言ってくれ。北の山と言えばわかる」


 シュワイさんが受付の職員にそう声をかけた。


「?」


 なんだろうと首を傾げながら裏手の倉庫へ向かう。


「シロちゃん、獲物を出してもらえるかな」

「ワカッター」


 シロちゃんがウキウキしながらどーん、どどーんと狩ってきた獲物を出した。

 ……現実逃避してもいいかな?

 そう言いたくなるぐらい、目の前に獲物が積み上がっています。

 あの時間でどんだけ狩ってきたんですかねえ?

 さすがに解体作業をしていたおじさんたちも目を剥いていた。


「こ、こりゃあすげえな……これは、もしかしてホワイトムースか?」


 エプロンで手を拭きながら、おじさんは一番最初に出した物を見て尋ねた。シュワイさんが頷く。


「こんなにでけえ個体を見たのは初めてだな……こりゃあ……さすがに領主に献上しねえといけねえかもしれないぞ?」

「ええっ!?」


 羅羅とニワトリスたちはご機嫌で解体されるのを待っている。そんなうちの子たちからこれを取り上げるなんて、殺生な! と思ってしまった。


「……確かに、そうなるかもしれないな」


 シュワイさんが難しい顔をして呟き、セマカさんとリフさんもうんうんと頷いた。

 俺は彼らを見回した。

 そっか、そうだよな。北の山の魔物は間引かなきゃいけない時期らしいし、それが森に降りてきた個体ということは領主でなくても研究機関かなにかに接収されてもおかしくはないわけで……かと言って俺じゃこんなでかい個体は解体できないし。

 あー……。

 きっと俺が普通の十歳だったら、なんで? なんで? ってごねるところなんだろうけど、なまじっかラノベ素養が山とある43歳からするとそれはしょうがないことのように思われた。

 ちら、と従魔たちを見る。

 解体されるのが楽しみすぎて話を聞いていないみたいだ。


「あのー……もしももう一体とか狩ったら、そっちは僕たちの物って扱いになるんでしょうか?」

「それは間違いない。領主に出すとしてもこの一体のみで済むはずだ」

「そうですか……」


 目の前にあるホワイトムースに関して、羅羅はもしかしたら納得してくれるかもしれないけど、シロちゃんは絶対に納得してくれない気がする。そうなったらここにいる人たちに危害を加えかねない。

 となると、やっぱり一度北の山にはいかないといけない気がする。

 そんなことを考えている間に、ドルギさんとルマンドさんがやってきた。


「おお! 北の山まで行ってきたのか!?」

「……今朝向かわれたのですよね?」


 ルマンドさんはいぶかしげな顔をしていた。シュワイさんが首を振る。


「いや、今日はオトカたちと森へ向かった」

「じゃあなんで……」

「もしかして……ホワイトムースが森に降りてきたのですか!?」


 ルマンドさんが驚愕の声を上げた。どうやら北の山の魔物が森に降りてくるという時点で大事のようだ。

 うーん、そしたらやっぱりうちの従魔たちの獲物ゲットも含めて北の山に突撃した方がいいのかな?

 え? 嫌なものは嫌なんじゃないかって?

 そりゃあやだよ。

 寒そうだし、高いところまで行ったら息もしづらくなるだろうし、魔物は絶対森に生息してる奴らよりも凶暴だろうし。

 でも森に北の山の魔物が降りてくるってことは、ニシ村にも被害が及ぶ危険性があるってことだ。何日も滞在していたわけじゃないけど、あそこの気のいい人たちがたいへんな目に遭うのは嫌だと思う。

 ……だからといって俺が出動する必要もないんだけどな。

 そんな葛藤をしている間に、やっぱりホワイトムースは領主に届けたいという話になったようだった。

 さすがにそれは羅羅の耳にも届いたらしい。羅羅が牙を剥いた。


「……そこな獣は我らが狩ったものぞ」

「それはわかっている。だがそれと同時にこれは大事な資料となるんだ。今回は譲ってくれ」


 羅羅が不満そうに言い、それにギルド長が対応した。


「オトカ」


 羅羅が唸るような声を上げた。どうにかしろと俺に求めてくれるのはいいんだけどさ。


「……僕の従魔でいてくれる気があるのなら、今回は従ってくれ。シロちゃん、クロちゃんもね」

「ヤダー!」

「オトカー!」


 案の定ニワトリスたちは怒った。羽をバサバサ動かし、嘴を開けて今にもつつくか噛みつきそうである。

 ……やっぱり出動しないとまずいみたいだ。

 しょうがない。


「羅羅、シロちゃん、クロちゃん! 近いうちに北の山へ行って狩ろう! それならいいでしょ?」


 すると、意外にも羅羅の耳が垂れ、ニワトリスたちの尾がぱたりと垂れた。


「……オトカは嫌なのではなかったか?」

「ヤダー、イッテター……」

「オトカー……」


 でも羅羅もニワトリスたちも視線はホワイトムースに向いている。ピーちゃんは我関せずで、羅羅の頭の上でうとうとしていた。大物である。

 ギルド長とルマンドさんはハラハラしているみたいだった。シュワイさん、セマカさん、リフさんは成り行きに任せるつもりだろう。


「……明日じゃないからね? 行くとしてもしっかり準備してからだよ? でもシュワイさん」

「ああ」

「僕、ポーター扱いは嫌ですからね」


 それだけは言っておかないとと思って伝えたが、シュワイさんはきょとんとした。


「? ポーター? いったいなんのことだ?」

「え? だって僕を北の山へ連れていきたいのって、ニワトリスたちのアイテムボックス目当てじゃないんですか?」

「……心外だな。私も容量の大きいマジックバッグは持っている」

「え」


 リフさんを見れば、彼女はごめんと言うように手を合わせていた。どうやら思ったことが口から出ただけだったみたいだ。


「……ポーターだとしたら北の山へ連れて行くのは危険だ。私は、オトカには山へ行くだけの実力があるから誘っているんだ」

「あ、はい……」


 それは買いかぶりだと思ったけど、そう思ってもらえるのは嬉しかった。

 でもまだ北の山へ行くにも情報が足りない。それについてもまたしっかり話し合う必要はありそうだった。



ーーーーー

獲物狩りたい食べたい従魔たちでした。でもオトカも大事!


次の更新は29日(木)です。よろしくー!

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