56.怒っているニワトリスたちとお昼ごはんを食べる俺

 ぐらんぐらんと頭をゆすぶられるようにして、チャムさんちに到着した。

 あ、シュワイさん宅じゃないんだ、とだけ思った。


「オトカ、大丈夫か?」

「……え、ええまぁ……」


 乗り物酔いはしないから、とりあえず少し休めばどうにかなるはず。

 気持ち悪くはないけど、ちょっとつらい。

 チャムさんの家に入ったら、まずは浄化魔法をかけた。これで少しは気分がよくなるはずである。……みんなにごはんあげないとなぁ。


「……すみません、うちの従魔たちに肉とかあげておいてもらっていいですか……」


 もう取り繕うこともできず、皿と先ほど解体してもらったジャイアントモールの肉を一部出す。ピーちゃんにはチャムさんが買ってきた野菜をあげてもらおう。


「わかった。この肉から私たちの昼飯も切り分けていいのか?」

「あー……そっちはまた別に出しますんで、それは羅羅ルオルオとニワトリスたちにあげてください」

「わかった」


 羅羅の背から降りて居間のソファに横たわる。クロちゃんが俺を心配してかくっついていてくれた。ああもうかわいいなぁ……。

 少しぎゅっとしてもふもふさせてもらってから、


「シュワイさんがごはん用意してくれるから、庭へ行っておいで」


 と言って送り出した。


「オトカー……」


 クロちゃんは俺を何度も振り返りながら庭へ行ってくれた。あーもう、なんであんなにかわいいんだろうなぁ。

 幸せに浸っているうちに気分も回復してきたので起き上がる。そして庭へ出た。

 ジャイアントモールの肉を食べていたクロちゃんは皿からバッと顔を上げ、「オトカー!」と叫びながら突進してきた。

 うわぁ、と思った。

 さすがに一歩手前でクロちゃんは立ち止まってくれたけど鼻息が荒い。


「お、俺は大丈夫だから、まずは食べようか……?」

「オトカー」


 クロちゃんは返事をすると、またぽてぽてと皿のところに戻り、満足そうに再び肉を食べ始めた。ああ、びっくりした。クロちゃんてば俺のこと好きすぎだな。うん、かわいい。


「……クロちゃんはオトカのことが大好きだな」

「ええ、とっても好かれていると思います」

「昼飯は私が作ってもいいか?」

「あ、はい。じゃあ肉を出しますね」


 一旦キッチンにジャイアントモールの肉を出した。


「全部食べてもいいですけど、チャムさんにも残しておいた方がいいような気はします」

「わかった。ありがたく使わせてもらおう。夜も私が作ってもいいか?」

「作っていただけるとありがたいです!」


 俺が肉を焼くよりもシュワイさんに焼いてもらった方が絶対おいしくなるのだ。あれってなんなんだろうな? 切り方一つでも味が変わるとか意味がわからない。

 庭に出て、従魔たちの食事風景を見守った。

 なんとなく最初に出した量だけでは足りなさそうだったので、ボアの肉も追加することにした。


「……モールのくせに何故こなにうまいのか」


 羅羅は首を傾げていた。そう、ジャイアントモールの肉はそれなりにうまいのだ。だから一度にたくさんは出さなかった。いつでも獲れるものでもないしな。でもモール駆除の依頼はいいなと思った。もしジャイアントモールが出なかったとしても、農家の手伝いができてお金ももらえるなんて一石二鳥だ。モールだけはなにがなんでも駆除しなければならない。絶対に。(農家の息子として)


「足りなければボアの肉を食べてくれ」

「……わかった」

「ワカッター」

「オトカー」

「ヤサイー」

「はいはい」


 ピーちゃんには野菜を出す。

 従魔たちが満足そうに食べ終えたところで俺たちの昼飯ができたらしい。

 皿を片付け、みんなに浄化魔法をかけてから家の中へ。


「できたぞ」


 と呼ばれて席についた。


「思ったより食べやすい肉だから、ステーキにしてみたが……」

「ありがとうございます、いただきます!」


 ちゃんと味見をしてから出してくれる辺り素晴らしいと思う。パンとサラダ、ジャイアントモールのステーキとかどんな贅沢だろう。しかもシュワイさんの作る飯はうまいときている。胃袋を掴まれそうで怖い。


「おいしいです!」

「それはよかった」


 シロちゃんとクロちゃんがじわじわと近づいてきたので、ステーキを切って少しあげた。


「オイシー」

「オトカー」

「あれ? そういえば羅羅は?」


 絶対ステーキを食べにくると思っていたのに家の中に入ってきていない。


「ルー、ダメー」


 シロちゃんが答えた。あげないってことか?


「ん? じゃあ、また後でもいいか」


 シュワイさんは笑った。


「うーん、私もかな?」

「シュー、ダメー」


 シロちゃんが答える。シュワイさんがうんうんと頷いた。


「食べ終わってからで頼むよ」

「? どうしたの?」


 シュワイさんはわかっているみたいだ。なんでうちのニワトリスたちとシュワイさんで会話が成立しているんだろうか。俺、やっぱ察しが悪いんだろうか。

 そんなことを思いながらおいしい昼飯を食べ終えた。


「片付けは僕がします」

「ありがとう」


 皿をざっと水で流してから浄化魔法をかける。なんか浄化魔法って食洗器的な扱いだよなーと思いながら皿を片付けていた。

 背後でドサッと音がした。

 なんの音だろうと振り向いたら……。


「ええええっ!?」


 シュワイさんが椅子から床に倒れていた。


「ど、どどどどうしたんですか!?」


 慌てて起こそうとしたら、シュワイさんの前にクロちゃんが出てきた。


「シュー、ダメー」

「えっ?」

「ハシルー、ハヤイー、オトカー」

「え? ああ、確かに走るの速かったけど……ってことは羅羅も!?」


 俺は慌てて庭へ出た。羅羅が庭で、へんな恰好で転がっていた。


「うわー、羅羅! 大丈夫かー!?」


 羅羅に触れる。羅羅はぶるぶると身体を震わせてから、体勢を整えた。


「……主よ、もう少し早く気づいてほしかったぞ」

「いや、まさか……つつかれて麻痺ってるとか思わないだろー?」

「シロ殿クロ殿の愛情は重いのであるな」

「あっ、シュワイさんもか!」


 ようは、シュワイさんがあまりにも速く走ったことで俺が具合を悪くしたことに、ニワトリスたちが怒ったという話らしかった。

 シロちゃんとクロちゃんを宥めてシュワイさんに触れさせてもらった。


「僕は大丈夫だから、ねっ?」

「エー」

「オトカー」


 二羽は不満そうだったけど、一応許してくれた。


「……今後は、まず許可を取ってからにしよう」

「……すみません。うちのニワトリスたちが……」

「いや、オトカがとにかく大事だという気持ちはよく伝わった」


 つつかれて麻痺させられたというのに、シュワイさんは笑顔だった。

 その後はシュワイさんに文字を教わり、チャムさんが帰宅するのを待ったのだった。



ーーーーー

オトカを害する者は許しませんッ!

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