55.敵意を向けられたニワトリスたちと巻き込まれそうな俺
ギルドに戻って、依頼達成のサインをもらった札を出した。
「……モールを二十匹駆除、と。銀貨1枚ですね」
職員がギルドカードを受け取って星を一つ付けてくれた。ありがたい。
それでふと、アイテムボックスの中に入れっぱなしにしていた魔石の存在を思い出した。ニシ村で魔物を解体してもらった時に受け取った魔石である。
「あのー、魔石の買い取りってしてもらえます? あと解体を依頼する場合は直接倉庫へ行った方がいいですか?」
「……魔石でしたらこちらでも。解体依頼は倉庫の方へお願いします」
「わかりました」
ってことでカバンから出すようなフリをして(アイテムボックスから)魔石を出した。思ったよりもけっこうあり、職員が顔をひきつらせた。
計算してもらったら、大銀貨5枚と銀貨1枚、銅貨3枚になった。
なんつーかもう、どうなってんだ? と聞きたくなるような金額である。
一昨日から合わせて約250万円の稼ぎだ。それも依頼とかじゃなくて、食いしん坊の従魔たちが獲ってきた魔物関係で、である。
ちら、と三歩離れたところにいるシュワイさんを見た。彼はSランクだから、これぐらい簡単に稼いでしまうのかもしれないななんて思った。
俺が純粋に稼いだ金額なんて、ホント微々たるものだ。だから勘違いしないようにしよう。うん、これはその都度確認したい。
買い取りをしてもらったということでまたギルドカードを渡した。買い取りでも星を増やしてもらえるのが嬉しい。今回上がったのは二つだった。だからEランクになって、星は合計三つである。あと十七個か。Dランクまで先が長いな。
「ありがとうございます。じゃあ倉庫に向かいますね」
受付の職員にそう言って出ようとした時、ギルドの扉が開いた。
「相変わらず汚えとこだ……」
「えっ?」
「何故魔物がっ!?」
ギルドの建物に入ってこようとした三人は瞬時に羅羅を敵と定めたようだった。って、俺が上に乗ってるんだけどっ?
羅羅とニワトリスたちが警戒態勢を取る。
「……止めろ」
何かがいきなりぶわーっと膨れ上がりそうだった気配を一瞬で収めたのは、シュワイさんだった。そして俺たちとその三人の間に入る。
「キャンセルっ!? って……えーっ? なんでオカイイ元に戻ってるのお?」
目を見開いた三人だったけど、一番最初に反応したのは真ん中にいた女性だった。三人とも金髪で整った顔をしている。目の色はそれぞれ違うみたいだったけど、黒いローブを着ていることから、みな魔法師なのではないかと見当をつけた。
「ギルド内で魔法を行使しようとするな。オトカ、行くぞ」
「あ、はい……」
どうやらシュワイさんにとっては歓迎すべき人たちではなかったらしい。
「え? ちょっと待ってよ。ここにいるってことは指名依頼の件は聞いたんでしょお?」
「断る」
「えーっ!?」
シュワイさんに促されて、みんなで倉庫へ移動した。
「また解体か?」
エプロンをつけた解体専門のおじさんにジャイアントモールを渡した。
「おお、こりゃまたでけえな! ちょっと待ってろよー」
「はーい、よろしくお願いします」
「これも肉は全部持ってくのか?」
「はい、肉は全部回収させてください」
そう、ジャイアントモール自体はそこまで珍しいものではない。何年かに一度どこかの家の畑で一頭ぐらい発生したりする。だいたい春を過ぎた辺りでモールの被害が出始めるので、ナカ村では村中総出でモール駆除を行っている。おそらくその中で何年か生き残ったヤツがジャイアントモールに変異するのではないかと俺は勝手に考えているが、そうではないのかもしれない。どちらにせよたまに見かける魔物だったりする。
一体だけだったので解体はすぐに済んだ。ジャイアントモールにも肉以外に使える部位はあるらしくて、こちらが解体費用を払うのではなく大銅貨7枚もいただいてしまった。
「こんなにもらえるんですねー」
「たまにしか出ないワリには安いだろ?」
おじさんには不思議そうな顔をされてしまった。ちなみに、肉まで買い取りしてもらえばそこそこの金額にはなるらしいが、肉は全て引き取りでと断った。
肉まで売ってしまったら俺が肉になりそうである。従魔の食欲を甘く見てはいけない。
ちなみにジャイアントモールで金になったのは魔石と骨だ。魔物の骨は他の動物の骨と違い、高温で熱すると透明になってガラス製品の材料となるらしい。化学式どうなってんだと遠い目をしてしまう。世界が違うし、魔物ってのはその存在だけで不思議なもののようだ。
「今日は戻ろうか」
「はい」
まだ昼前だから何か依頼を受けようと思えば受けられるのかもしれないが、シュワイさんが苦手な人たちがいるみたいだから止めておこう。
と、思ったのだけど、わざわざ先ほどの人たちが倉庫の前で待っていた。
「断るってどういうことだよ?」
ギルドを汚いところだと言っていた青年がシュワイさんに声をかけた。
「言葉通りだ。Sランクへの指名依頼は私が受けたくなければ断れることは知っているはずだ」
「でもぉ……同じ魔法師協会の仲間じゃない」
女性の一人がこびこびで声をかけてくる。ピーちゃんが羅羅の頭の上でぶるりと震えた。クロちゃんとシロちゃんが俺にぎうぎうくっついてくる。
「……協会に所属はしているが、いつ脱退してもかまわない。オトカ、行こう」
「お、おい!」
「ちょっとぉっ……!」
羅羅は心得たもので、シュワイさんが走り出すと一緒になって走り出した。
「う、わぁあーーっ!?」
しかもそれはいつものスピードではなく、三倍ぐらい早かったと言っておこう。クロちゃんとシロちゃんが俺にぴっとりくっついていなかったら、振り落とされてしまったかもしれない。そう思うぐらい速かった。ピーちゃんは全然余裕で羅羅の頭の上で身体を揺らしていた。くそう、風魔法持ちめええ。
全く、先ほどの人たちを撒く為とはいえ……勘弁してほしいと思ったのだった。
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