54.依頼をこなすニワトリスたちと準備する俺
農家のおっさんは「おーい!」と畑の向こうに声をかけた。
そちらで作業をしていた青年たちが、なんだなんだと言いながらこちらへやって来た。
が、途中で彼らの足が止まった。
あ、と思った。
「僕の従魔なので大丈夫ですー!」
と声を上げて知らせたら、来てくれた。まあ、誰がどう見ても怖いよなぁ。
青年たちはおっさんの子どもらしい。まだ使える畑がないか探していたみたいだった。
「冒険者ギルドで依頼を見て、モールの駆除にきました。その前に生きている苗を避けたいので、鉢かなにかないですか?」
「あー……今全部使ってんだよな」
青年たちが顔を見合わせた。モールが出たと知った時に避難させた苗で鉢が埋まっているらしい。
「そうですか、じゃあ……羅羅、土でこういう入れ物みたいなの作れる?」
「我に任せよ」
羅羅は土魔法が使える。それで長細い箱のような物をとりあえず五つぐらい作ってもらった。おっさんと青年たちが目を丸くする。
「水が出る穴などはないので応急処置ですけど、土を入れれば苗を避難させることはできると思います」
「あ、ああ……」
土入れは青年たちに任せ、今度は畑全体に鑑定魔法をかけた。
鑑定魔法が使えるようになってからしつこくしつこくいろんなものを鑑定しまくった結果、詳しい情報は一つに集中しないと見られないのだが、大まかな情報であればある程度の範囲でも見られるようになっている。つまり、今回見たいのは畑に植わっている野菜の苗などの生死だ。
「……いくつか生きてますね」
「場所を教えてくれ!」
おっさんに言われて指示をする。青年たちも土を入れ終えると、おっさんと一緒になって苗を回収した。そうして生きていた苗は二十ぐらいだった。
「思ったより生きてたな。ありがとうよ」
「いえいえ、本番はこれからです。畑がだいぶ荒れてしまうと思います」
「モールが駆除できるならかまわねえ」
「わかりました。シロちゃん、クロちゃん、羅羅、ピーちゃん、探すよ!」
「うむ」
「トルー!」
「オトカー!」
「ミツケルー」
クロちゃんや、それじゃ俺が探されちゃうでしょ。相変わらずかわいいなぁもう。
そんなことを思いながら畑に足を踏み入れた。
俺には感知魔法は使えないが、モールが近くにいれば足に振動が伝わる。それで捕まえることができるのだ。これはうちの家族みんなが会得している。農家なめんなよというやつである。
うちの子たちは感知魔法を使ったのだろう。シロちゃんが尾で勢いよく畑を叩き、鉤爪でその場を掘ってモールを掴みだす。そして嘴で止めを刺した。そうしてからモールを尾で畑の外へ吹っ飛ばす。
その間一分も経っていないだろう。
シロちゃんとクロちゃんはそんなやり方でモールを捕まえていた。たまに気絶しないモールがいるらしく、尾を何度も畑に叩きつけている時もある。
俺も神経を研ぎ澄ませて、何度か畑に鉈を振り下ろした。直接モールに鉈が当たることはないが、うまくいくとモールは上からの衝撃で気絶するのだ。それをスコップで掘り出して止めを刺す。
羅羅はモールの動きを先回りして土を掘り返し、直接攻撃をしていた。ピーちゃんは土の盛り上がりを見つけてはつついたりしてくれたが、さすがにモールを捕まえるのには向いていなかった。休んでいいよ~。
そうしてみんなで十匹ぐらい駆除してからだろうか、嫌な気配を感じて振り向いたら、土がありえないぐらい盛り上がって俺に向かってきていた。
「危ない!」
畑の側で見守ってくれているシュワイさんが叫ぶ。魔法を使ってくれようとしているらしいのを手を挙げて止めた。
クアァアアアーーーーーー!!
途端にシロちゃんとクロちゃんがそれに向かって威嚇する。途端にそれは動きを止めた。
威嚇って便利だなっと。
シロちゃんクロちゃんが駆け付けてきて尾を土の塊に勢いよく叩きつけた。そうして土が取れたら、でっかいモールが姿を現した。
急いでその首に鉈を思いっきり叩きつける。威嚇の効果は三十秒だ。
どうやらそれでジャイアントモールはこと切れたみたいだった。
うまくいった。
「っはーーーー……」
こんなのがいたんじゃ、モールが増えるはずだよな。
「おーい、大丈夫かー?」
おっさんに声をかけられて手を振って応えた。
「大丈夫でーす!」
ジャイアントモールは普通のモールと違い魔物である。時折モールが突然変異してジャイアントモールになるようなことを聞いているが、実態は不明だ。そして何故かジャイアントモールの元にモールたちが集まってくるのである。
おかげでジャイアントモールを倒してからもモールを駆除しまくった。
それなりに広い畑ではあったが、ゆうに二十匹も捕まえてしまった。そりゃあ何も植えられなくなるはずである。
「……おお、こんなに……」
「うわあ……普通のモールだけで銀貨一枚か……」
「駆除してもらったんだぞ。でかいのは……」
おっさんと青年たちは茫然として、モールの山とジャイアントモールを眺めた。
「あ、あのー……このでっかいのは僕が引き取らせてもらってもいいですか? うちの従魔たちが食べたいみたいなので……」
普通のモールならばいらないが、ジャイアントモールは食べたいらしい。
「うーん……」
「ジャイアントモールの分の駆除費はいただかないので……だめ、ですかね?」
「そうだなぁ……こんなのの分もと言われたらいくら取られるかわかったもんじゃねえな。しかしなぁ……」
おっさんは畑の惨状を見た。
うん、すごいことになってるな。かなりいいかんじに耕されたとは思うんだけど、やりすぎたかな。
俺は冷や汗を掻いた。
「あのー、この鉢ってもらってもいいかな?」
青年の一人が声をかけてきた。
羅羅が作った簡易の長方形の鉢である。それなりに頑丈だとは思うが、水を流す為の穴は空けていないから、終わったら土に戻してもらう予定でいた。
「いいですけど……穴、空いてませんよ?」
「うん、もらえるならありがたいよ。鉢もいただいてモールもこんなに駆除してもらったんだ。ちゃんと払おう。二十匹だね」
青年はうんうんと自分に言い聞かせるように頷いた。そしておっさんともう一人の青年を見る。
「はい」
札にサインしてもらい、ジャイアントモールはこちらで回収することになった。
よかったよかった。
「うまそうだ」
「ガンバッター」
「オトカー」
「イッパーイ」
「うんうん、みんながんばったねー。お昼ごはんはまた後で食べよう」
ピーちゃんを除いた一頭と二羽はジャイアントモールが食べたいみたいだ。俺もシロちゃんとクロちゃんのおかげで一回食べたことがあるけど、けっこううまかったんだよな。
「終わりました」
見守ってくれていたシュワイさんと合流する。
「さっきは声をかけてくださりありがとうございました」
「いや……余計なことをしたようだ」
「そんなことはないですよ」
「そうか。……圧倒的だな、オトカたちは」
「?」
何が圧倒的なんだ?
首を傾げながらまた羅羅の背に乗せられて、再び冒険者ギルドへ向かったのだった。
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