53.とにかく過保護なニワトリスたちとまた依頼を受ける俺

「Sランク冒険者オカイイ、アンタに指名依頼が来てるぞ」


 冒険者ギルドの二階、ソファのある部屋に通された。ギルド長のドルギさんがシュワイさんにそう伝える。

 シュワイさんは不快そうに眉を寄せた。

 イケメンの不機嫌そうな顔って、破壊力すごいなと思った。


「……どこからだ」

「魔法師協会からですね。所属の魔法師が北の山に挑むので同行を願うという依頼です」

「断っておいてくれ」


 ルマンドさんが説明したけれど、シュワイさんはけんもほろろに断った。


「報酬を聞かなくてもいいんですか? かなり破格ですよ」

「金には困ってない」


 俺も言ってみたいセリフだなー。今ちょっとだけ金はあるけど、いろいろ使ったらすぐなくなりそう。


「では何故ギルドに顔を出したんです? オトカ君の手伝いですか?」

「オトカに依頼を受けている」


 ドルギさんとルマンドさんにどういうことかと凝視されてしまい、俺は慌てた。


「も、文字が読めないので、教えてくれる人を探したいってチャムさんに聞いたらシュワイさんを紹介してもらったんです!」

「……じゃあしょうがねえか」

「しょうがないですね」


 チャムさんとシュワイさんに血縁関係があることをこの二人は知っていたようだった。


「ですが……オカイイ氏への依頼ですと相当高いのでは?」


 ルマンドさんに心配そうな顔をされてしまった。


「……仲介はないからな。こちらで報酬も決めさせてもらった。問題はない」


 シュワイさんがそう答えてくれて、俺もそれに頷いた。


「ボウズは何しに来たんだ?」

「……依頼を受けに来たんですよぅ……」


 俺Eランクになったんだよね?


「じゃあ下の掲示板で確認してくれや」

「はーい」


 ということで俺たちはすぐに降りた。で、先ほどの依頼を確認する。俺はモールの駆除依頼を受けたいと思った。


「一匹当たり銅貨五枚か。妥当といえば妥当だな」


 シュワイさんが吟味してくれる。まぁ妥当でも妥当じゃなくてもモール駆除は受けるつもりなんだけどさ。


「これを受けたいです」


 木札を持って受付に並ぼうとしたら、他の冒険者たちに道を譲られてしまった。


「いえ、並びますから!」

「いいからいいから」

「先に受付済ませろって」


 なんで強面のおじさんにも譲られてしまうんだろうか。俺のすぐ後ろにいた羅羅が嘆息した。


「主よ、その者たちは我らが怖いのだ。譲ってもらえ」

「あー、うん。わかった。ありがとうございます」


 ようは早く出てってほしいわけね。

 ってことで抜かすことになってしまったけど、クロちゃんにくっつかれながら受付でEランク昇格の手続きと共に依頼の受諾処理をしてもらったのだった。受付の人の顔がひきつっていたのはしょうがないだろう。ニワトリスが俺のすぐ横にいるんだもんな。申し訳ないと思った。

 で、ギルドからとっとと出て移動である。場所はシュワイさんが確認してくれた。


「この住所だと、南西にある畑だな。西の門に近いところだ。案内しよう」

「ありがとうございます」


 シュワイさんはどうしても俺たちと同行したいというので、「同行するだけ、依頼についても手出しはしない」という条件で一緒に来てもらうことになった。実際問題保護者がいるといないじゃえらい違いだしな。

 また羅羅の背に乗せられて、俺たちは町の南西の畑へと向かった。



「う、わぁ……」


 シュワイさんに案内してもらって着いた場所は、町の中でも農家が密集しているようだった。畑がいっぱいあって広々としている。


「あっちの家だな」


 シュワイさんに羅羅が付いていく。

 今は春から夏になる時期だ。畑には青々とした野菜が育っているところが多いのだが、着いた畑はなんというか、野菜の苗に元気がないように見えた。


「あー……」


 見ただけでわかった。これは間違いなくモールが畑を荒らしている。

 畑の脇の家の戸を叩く。


「すみません、冒険者ギルドから依頼を受けてきましたー!」

「おー! おっせえぞ!」


 ドタドタと家の中から音がしたかと思ったら、雷オヤジみたいなおっさんが出てきた。


「いつまで待たせ……って、あああっ!?」


 おっさんは俺の姿を見ると、そのまま怒鳴りつけようとしたが、羅羅たちの姿を見て怯んだみたいだった。クロちゃんが剣呑な目をしていたが、おっさんがそこで言葉を止めたから動かなかった。うちのニワトリスたちは本当に過保護がすぎる。超かわいいからいいけど。


「お待たせしました。この依頼を出したカウノさんですか?」

「あ、ああ……って従魔か……。そりゃあ心強いな、うん……」


 おっさんの目が泳いでる。怖がらせてすまないとは思うが、みんな俺から離れないのだからしかたない。


「モールはとっとと駆除したいんですけど、先にいくつか確認したいことがあるのでいいですか?」

「も、もちろん……」


 というわけで、無駄な時間を過ごすことなく話を聞けることになった。


「一匹当たり銅貨五枚ということでお間違えないですよね?」

「おう……その、モールはその従魔たちが食っちまうか?」


 ちら、とおっさんがうちの従魔たちを見て肩を落とす。モールは食えないことはないけど、そんなにおいしくないからな。


「いえ……たぶん食べないと思いますよ。聞いてみますね。みんなにはモールを倒してほしいんだけど、モールの肉って食べる?」

「いらぬ」

「イラナーイ」

「タベナーイ」

「シラナーイ」


 ピーちゃんの返事が絶妙だ。肉は食べないんだから確かに知らないよな。


「ということです」

「なら、モールは駆除したらうちに置いてってくれ」

「わかりました。あと確認なんですが、畑に従魔が入ってしまってもいいですか?」

「……まぁ、かまわねえよ。どうせ生きてる苗ももうねえだろうからな」


 おっさんは諦めたように言う。でも、と思った。


「あの……もしよかったら先に生きてる苗だけ回収しますか? 俺鑑定魔法使えるんで、見つけられますよ」

「ほ、本当か!?」

「はい、じゃあ急いで作業に取り掛かりますね。もし手伝っていただけることがあったら、手伝ってもらってもいいですか?」

「もちろんだ! 頼むぞ!」


 おっさんは笑顔になった。

 よし、じゃあモール駆除、まずは下準備から始めますか。

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