49.ブレー〇ンの音楽隊状態のニワトリスたちと防具屋へ向かう俺

 ちょっともそもそした昼飯を終え(俺たちはパンだけだったから)、とりあえずシュワイさんに依頼はできたとほっとしていたら、


「ではさっそく始めよう。黒板とチョークを持ってくる」


 シュワイさんはそう言って立ち上がった。さっそく字を教えてくれるつもりらしい。


「シュワイ、今日は遠慮してください。今日は私が非番なのでオトカ君に町を案内しているんです」

「……そうか」


 チャムさんに言われ、シュワイさんはしゅんとしたように再びソファに座った。その視線は俺と、羅羅ルオルオをチラチラしている。なんかまるで犬みたいだなとか、とても失礼なことを思った。


「あのっ、もしよかったらシュワイさんも一緒に町を散策しませんか? 普段は引きこもりだって聞きましたけど、たまには太陽の光を浴びた方が……」


 そう言ったら、シュワイさんに両手をガシッと掴まれて驚いた。

 クロちゃんが途端につつこうとするのを、シュワイさんは器用に避けた。


「クロちゃん、だめっ!」

「オトカー!」


 クロちゃんがなんで止めるのだとばかりに声を上げる。


「シュワイさんは僕を害そうとはしてないからっ! つつかないでっ!」

「オトカー……」


 今度はクロちゃんがしゅんとなった。心なしか羽毛がしおしおしているように見える。ああもうかわいすぎる!


「……すまない。私も、その、町の散策に付き合ってもいいだろうか?」

「いいですから……離してください」


 そう頼むと、シュワイさんはハッとしたように手を離してくれた。見た目よりも硬い手だった。白くてほっそりとしているように見えたんだけど、やはり女性のものとは違う。


「ええっ? シュワイも一緒に行くんですか? もしかしたら槍が降るかもしれませんね。では次はどこに行きましょうか。行きたいところが特になければ私が考えますが」


 チャムさんが何気にひどい。


「えーと、皮の加工ができるところに行きたいんですけど、あと……できれば靴を修理か新調したいなと……」


 ずっと森の中を歩いてきたから、靴がいいかげんくたびれてきた。もう少しで穴が空きそうなかんじである。

 アイテムボックスに入っている兄貴の靴はまだでかいしな。布を詰めて履くって方法もあるけど、せっかくお金が入ったんだからまず靴をどうにかしたい。


「そうですね。冒険者に靴は必須です。では予定通り防具屋へ参りましょう。なんの皮を持っているんでしたっけ?」

「ボアの皮です」

「でしたら靴も一緒に加工できると思いますよ」


 そうなんだ、と思った。


「場所はどこだ」


 それまで黙っていた羅羅が口を開く。


「冒険者ギルドの側ですよ」

「わかった。では主よ、乗れ」

「えええ? また乗るの?」


 いいかげん身体が鈍りそうで嫌なんだけど。


「その方が早いだろう。そこな者も身体強化は使えるのだろう?」

「ああ、問題ない」

「主よ」

「……わかったよ」


 チャムさんだけでなくシュワイさんも羅羅のスピードに合わせて走るみたいだ。これで一人で歩きたいなんていったら俺が置いていかれてしまうだろう。って、今日の主体は俺じゃないのか?

 首を傾げながら羅羅の背に乗れば、前にクロちゃんがもふっ、後ろにシロちゃんがもっふん、羅羅の頭の上にピーちゃんがぽすんと乗った。これが定位置であることに変わりはないんだけど、どうしてもブ〇ーメンの音楽隊を彷彿としてしまう。

 シュワイさんが家の外へ出る。薄い青い髪が日の光に照らされてキラキラ光った。羅羅の毛とは違い、金が混じっているのかもしれない。そしてその金色の目と芸術的な美貌に目がつぶれそうである。しかもシュワイさんは背も高い。

 背は高いし顔面はよすぎるし、魔法能力は高いとかどうなってんだよとやさぐれそうである。


「じゃあ、冒険者ギルドの通りに向かいますよ」

「承知した」

「わかった」


 チャムさんに先導を頼んで、羅羅とシュワイさんも共に走り始めた。けっこうなスピードなので馬車が走る真ん中の道を駆けて行く。道行く人がたまに目を見開いているのが確認できた。驚かせてすみません。

 身体強化魔法ってみんなできるものなの? 俺弱すぎじゃない? とちょっと落ち込んだけど、クロちゃんがすりすりしてくれるから癒されてどうでもよくなった。はー、うちのニワトリス超かわいい。

 防具屋にはすぐ到着した。


「こちらです」


 確かによく見てなかったけど、冒険者ギルドのある通りには飯屋と宿だけでなく武器屋と防具屋も並んでいた。ちゃんと確認しとけよ俺、と思った。


「こんにちは、皮の加工を頼みたいのですがよろしいですか?」


 チャムさんが防具屋へそう言いながら入っていく。俺たちもそれに続いた。

 店内にはひげ面のおっさんがいて、ヒマそうにしていた。


「おう、魔法師殿じゃねえか。アンタは防具なんかいらんだろ?」

「いらないってことはないですよ。今日は彼がボアの皮を加工してほしいそうです」


 そう言われて、俺は慌てて羅羅から降りた。クロちゃんをどけるにはだっこした方が早いのでクロちゃんは持ったままである。俺もこの恰好はさすがにどうかと思うんだが、しょうがない。


「……ニワトリスだったら羽毛だろ?」


 防具屋のおっさんが目を見開いて、ひどいことを言った。


「この子は俺の従魔ですから! 皮は、これです!」


 そう言ってクロちゃんを下ろし、ボアの皮を出した。勝手にニワトリスの羽を毟ろうとしないでほしい。


「ボアの皮か。けっこうでけえな」


 おっさんは大きめの皮を受け取ると、まじまじと眺めた。


「で、ボウズはこれをどうしてほしいんだ?」

「できれば革鎧と靴を作ってほしいです」

「それぐらいお安い御用だ。だが金は持ってるのか?」

「相場がわからないので教えてください」


 おっさんは笑った。


「素直なのはいいことだ。かなり質のいいボア皮だからな……加工に一週間。代金は靴と合わせて銀貨6枚でどうだ?」

「お願いします」


 それなら全然破格だと思った。毛皮と比べたら良心的だと思ったのである。そこに、今まで黙っていたシュワイさんが口を挟んだ。


「……銀貨6枚もあればひじ当てかひざ当ても作れるはずだ。子どもから金を巻き上げようとするんじゃない」


 えええ。俺ぼったくられてたのかー。

 相場とかマジわからない。


「かなわねえな。じゃあひじ当てとひざ当てもつけてやるよ」


 おっさんはニヤリとした。よくわからないやりとりだったが、そういうことになったらしい。


「ありがとうございます……」


 シュワイさんに礼を言うと、彼は少し困ったような顔をした。


「素直なのは美徳であると同時に騙されやすくもある。……チャム、私はオトカが心配だ」

「そうでしょうね」


 俺、そんなに騙されやすい?

 羅羅を見たら、羅羅もなんともいえない顔をしていた。釈然としないまま身体の寸法を測られて、前金として銀貨3枚を払い、「一週間後にこい」と言われて店を追い出された。

 つまり、少なくともあと一週間はこの町に滞在することとなった。


「……一週間か」

「うちは大歓迎ですからね!」


 チャムさんに即答された。


「……掃除はしっかりしてくださいよ……?」


 チャムさんだったら魔物の肉を焼いて出せばいいぐらいだ。それなら宿代もかからないしいいかなと思ったのだった。




カクヨムコン9、応援ありがとうございます~。

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