48.ちょっと面倒くさそうなニワトリスたちと依頼を受けてもらった俺
チャムさんの従兄弟であるシュワイさんにブラッシングされて、
なんか青い毛並みが輝いているように見える。ちなみにシュワイさんが羅羅をブラッシングしている間、俺はクロちゃんとシロちゃん、そしてピーちゃんをなでなですることを強要されていた。うん、かわいいから強要とは違うな。
思う存分撫でさせてもらったのだ。
その間チャムさんはにこにこしながら空気になっていた。
「……ありがとう。文字を教えるのはかまわないが、どこまで読み書きができるのか教えてもらいたい。正式に名乗るのを忘れていたが、私はシュワイ・オカイイと言う。どうかシュワイと呼んでくれ」
そう言って、シュワイさんは俺におずおずと手を出した。その手も真っ白だった。
俺としては名前だけ聞けばよかったのだけど、苗字まで伝えなければいけないとシュワイさんは思ったみたいだ。
「……珍しいこともあるものです。人嫌いの引きこもりが……」
チャムさんが俺の後ろでかなり失礼なことを言っている。
「あ、でも……」
「?」
チャムさんがまだ何か言おうとした時、俺は握手を求められたと思ったからシュワイさんの手に触れて……。
「……えええっ!?」
「……え……?」
真っ黒だったチャムさんの髪の色が、一気に変わった。それも羅羅に似た薄い青色に。
「……やはり、オトカ君の能力ってすごいですねー。状態異常を自分だけでなく相手のまで無効化してしまうのですか」
状態異常? ってことはこの髪の色は魔法で染めてたってこと?
「ああっ、そんな……」
シュワイさんは俺の手を離し、その場にしゃがみこんで頭を覆った。そしてなにやら唱えて、また黒い姿になった。
……この人、もしかしなくても自分の姿が嫌いなのかな。
「……すみません。僕、触れた相手の状態異常を無条件で解除してしまうみたいで……」
シュワイさんは震えているように見える。もしかして青い髪で何か嫌なことでもあったのだろうか。
ふん、と羅羅が嘆息した。
「……わざわざ髪を黒くする必要がどこにある。我と同じ色の髪を嫌がるというのならば毛などなくしてしまおうぞ」
「えっ? だめっ、羅羅、絶対だめだからねっ!」
俺は慌てて羅羅に抱き着いた。羅羅が脱毛魔法を使ったらたいへんなことになってしまう。俺は状態異常を解除することはできるが、抜けた髪を元に戻すことはできない。
「……同じ色の、髪?」
シュワイさんが不思議そうに呟いた。
「そうですね。シュワイ、貴方の元の髪の色は羅羅さんに似ています。それでも持って生まれた髪の色を厭うのですか?」
……なんかやられた、と思った。チャムさんは従兄弟の引きこもりの理由を知っていて、俺たちをここに連れてきたんだろう。俺は羅羅に抱き着き、クロちゃんに引っ付かれたまま顔だけ振り向いてチャムさんを睨んだ。
チャムさんはにこにこしている。くそう。
「……羅羅、私の髪の色は本当に君の毛の色と同じなのだろうか」
「……主よ、面倒だ。ハゲにしてもよいか?」
シュワイさんに改めて聞かれて、羅羅は大仰に嘆息した。そして俺に視線を向ける。
「だめだから! 絶対ハゲにしちゃだめだからね!」
「……中に入ってくれ」
シュワイさんはようやく立ち上がり、俺たちを家の中に招いた。ごみ屋敷のようなところを想像していた俺だったが、居間には三人掛けのソファとテーブルが一台置かれているだけだった。
「少々ほこりっぽいが、申し訳ない」
そう言いながらシュワイさんは窓を開けた。表から見た時は窓も何もないように見えていたから、この家にはやっぱり隠蔽魔法のようなものがかけられているんだろう。
確かに少しほこりっぽいので、シュワイさんの許可を取って浄化魔法をかけさせてもらった。
「……浄化魔法が使えるのはいいな」
「シュワイも使えなかったのでしたっけ」
「まだ魔法の枠はあるから、もし覚えられたら便利かな」
魔法の使い方がうまいだけじゃなくて、まだ魔法を覚えられるのかよ。羨ましい話だ。
「オトカ、悪いんだがもう一度私に触れてもらってもいいか?」
「いいんですか? じゃあ……」
再びシュワイさんから差し出された手に触れた。すると真っ黒だった髪が一気に薄い青色に変わった。確かに羅羅と色は似ている。イコールではないけど。
シュワイさんは自分の目を覆っている前髪を少し持ち上げた。少し覗いたその目は、なんだか不思議な色をしているように見えた。
「ああ、確かに。羅羅と似ているね。……それなら好きになれるかな。ありがとう、オトカ、羅羅」
「いえ……」
礼を言われるようなことは全くしていない。羅羅はふん、と嘆息した。
促されるままにソファに腰かけると、クロちゃんがむりむりと前から俺にくっついてきた。狭そうなのでよいしょとクロちゃんをだっこする。クロちゃんが嬉しそうに、「オトカー」と俺を呼んだ。尾が振られそうだったので、それは横に避けてもらった。ソファの後ろにはシロちゃんがくっついている。
今日も俺のニワトリスガードは完璧だ。
シュワイさんは羅羅の方に顔を向けていた。よっぽど虎が好きなのだろう。
「騒がせて悪かった。私の事情は従兄から聞いているかな」
「魔法の使い方にたけた引きこもりとは聞きました」
「……間違ってはいない」
シュワイさんはチャムさんに視線を向けたが、否定はしなかった。
「こちらの家に来てくれるのであれば読み書きを教えよう。……できれば羅羅も連れてきてほしいが」
「ええと、うちの従魔たちは僕と一緒なのでそれは大丈夫です」
「……よかった」
「……よくないぞ」
ようやく話がまとまりそうだなと思った時、羅羅が不機嫌そうに否定した。
「……え?」
「その長い前髪を切れ。目を見せられない奴など信用ならん!」
「羅羅……」
目を合わせられない人だっているんだからと思ったけど、羅羅にそう言われたからなのかシュワイさんはバッと立ち上がると急いで居間から出て行ってしまった。
「……たぶん切りに行きましたね」
チャムさんが笑いながら言う。
「えええええ」
どんだけもふもふ好きなんだよあの人。
そしてすぐに戻ってきた。前髪が確かになくなっている。急いで切ってきたのだろう。斜めにざくざくになっているけど、確かにその目は見えた。
「すまない。これでいいか?」
「……まぁいいだろう」
なんで羅羅はそんなにえらそうなんだよ。
目の色は不思議な色としか言いようがなかった。なんだか吸い込まれそうな色である。金色というのだろうか。
そして何より、シュワイさんはすっごいイケメンだった。
背が高いイケメンで魔法の使い方にたけてる? でも引きこもりってことはー……もしかして人間不信とか女性不信的なやつだろうか。
個人の事情とかあんまり聞きたくないんだよなと思いながら、チャムさんが買ってきたパンでお昼にしたのだった。
従魔たちには庭でもちろん肉をあげたよ。ピーちゃんには毒キノコをあげたらとても喜ばれた。魔物とは。(定期)
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