47.くっついたままのニワトリスたちと人を紹介してもらう俺

 また羅羅ルオルオの上に乗せられてしまったが、今度は走るのではなく、チャムさんに町の店が並んでいる通りに連れて行ってもらった。


「先に店があるところへご案内します」


 店が並んでいる通りは、チャムさんの住んでいる家の通りから二本南にあった。そんな近くにあったらしい。それならばチャムさんが朝からパンや野菜を買ってこれたのも納得である。


「従兄弟が倒れているといけないので、少し食べ物を買って持っていってもいいですか?」

「……いいですけど……」


 断片しか聞いていないけど、なんかチャムさんの従兄弟ってラノベ特有の生活できない魔法使いとかなのかな? 勉強とか研究に没頭して家の中で行き倒れてるみたいな……。

 そんな典型的なのは嫌だと思いながら羅羅の上で揺られている。みな羅羅とニワトリスたちを見ると一瞬ぎょっとしたような顔をするけど、その頭の上にピーちゃんが乗っているのと首輪をしていることから騒ぐ人は皆無だった。インコでかいけど、癒し効果抜群だな。


「あ、そうだ。この辺に毛皮と皮を加工してくれる店ってありますか?」

「皮は……皮鎧用ですか?」

「はい、そのつもりです」


 いくら従魔が強くたって俺が怪我しないとも限らないし。せめて胸とか脛当てぐらいは作っておくべきだと思う。


「防具屋は冒険者ギルドの並びにあるんですよ。毛皮はこちらに店がありますから聞いてみましょうか?」

「あ、そうですよね。よろしくお願いします」


 ってことでまず毛皮を加工してくれるという店に行ったのだが、店の人が羅羅を見て目を輝かせたり、思ったより加工費が高かったりしたので今回は見送った。俺が冒険者ギルドで解体してもらって受け取ってきた毛皮はポイズンラットの物で、冬の防寒具としてはとてもいい毛皮な分加工費もお高めなのだそうだ。だからって加工費に大銀貨4枚はなぁ……高くはないんだろけど、約40万円が吹っ飛ぶとか勘弁してほしい。そんな高い防寒具、俺前世でも着たことないぞ。

 ちなみに、ポイズンラットの毛皮のコートを買うと金貨2枚は下らないのだとか。たっか。


「……なんだあの男は……我をおかしな目で見ていたぞ……」


 店を出て羅羅がぶるぶる震えた。宥めるように毛を撫でる。


「うん、まぁ独特な人だったよね」


 店の職人さんは、羅羅を見て怖がるどころか”極上の毛皮”にしか見えてなさそうだったしな。今にも剝ぎ取りたいと言い出しそうな目つきをしていた。怖い。


「もう少しお金があったら頼んだんですけど……」

「ええ、こちらの店は良心的ですからね。お金を貯めて頼める時に頼めばいいのではないでしょうか。まだ寒くなる時期でもありませんし」

「それもそうですね」


 季節的には、今は春から夏にかけての時期である。どちらかといえばこの辺は過ごしやすい気候だ。


「ここって北の山に近いですけど、寒くなるのはいつ頃からですか?」

「そうですね。四か月後ぐらいからは毛皮が欲しくなるかもしれません」

「へえ……」


 チャムさんの従兄弟にすぐ食べられるような物を買い(パンとか)、チャムさんの家がある通りまで戻った。

 従兄弟はバラヌンフさんち側ではなく、反対側に五軒目だった。外側から見た家の造りは変わらないが、家自体が全体的に黒くてなんかやな感じである。

 羅羅の上から降りようとしたのだが、クロちゃんとシロちゃんにぎうぎうくっつかれて下ろしてもらえなかった。このままじゃ羅羅に乗ったまま挨拶することになっちゃうんですけど!


「……黒い、ですね……」

「これ、魔法の視覚効果なんですよ。実際の壁の色はもう少し明るめの茶色ですね」

「そうなんですか……」


 魔法に長けているとは聞いたけど、家を黒く見せて何がしたいんだろう? 実験なのか、それとも引きこもりと関係しているのか……。

 するとチャムさんが、何もない壁を叩いた。


「おーい、シュワイ。生きてるかー? 食べ物と従魔を連れた依頼人を連れてきたよー!」


 依頼人……まぁ確かに字を習いたいってのも依頼は依頼だなぁ。そんなことを考えていたら、壁がこちらに向かって開いた。

 あ、と思った。

 建物への違和感は黒いだけではなかったことに気付く。扉もどこにあるか見えないようにされていたみたいだ。


「……従魔、だと?」

「うん、もっふもふのふっかふかの従魔を一頭と三羽連れてる少年だよ」


 出てきたのは全身真っ黒くて背の高い人だった。髪がカラスの濡羽色で、鼻が出るぎりぎりまで前髪で覆われている。髪は腰よりも長いみたいだ。少し見える肌は真っ白で、服もまた全身黒いローブで覆われていた。うん、偏屈な魔法師っぽいと思ってしまった。


「……ブルータイガー、ニワトリス、インコ……みな、君の従魔なのか?」


 でも声は少し低いぐらいで、優しい音だったからちょっとほっとした。彼は俺が羅羅の上に乗っていることは全然気にならないみたいだった。


「あ、はい。そうです」

「……動物を手懐ける魔法を持っているとしても、こんなに大きな魔物を従魔にできるものなのか……?」


 俺は首を振った。


「いえ、僕はそういう魔法は持っていません。みな個々の事情で、僕の従魔になってくれました」

「……そうなのか」


 その人は肩を落とした。


「……依頼とは何かな?」

「あの、僕は字の読み書きができないので、教えてくれる人を探していたらチャムさんに貴方を紹介していただいたんです……」

「そうか。教えるのは全然かまわない」


 嫌がるかなと思ったけど、彼はすんなり引き受けてくれるようだった。


「お金もいらない。その代わり……その、ブルータイガーに少しだけ触れさせてもらえないだろうか……」


 どうやら彼はもふもふ好きらしい。


「羅羅、どうかな?」

「ふん、主よ降りろ。少しだけならばよいぞ」

「ありがとう」


 羅羅の上からどいたけど、クロちゃんとシロちゃんは俺にくっついたままだった。ピーちゃんは羅羅の頭の上にいる。


「……少年、君の名前は?」

「あ、オトカって言います。よろしくお願いします」

「私はシュワイという。これからよろしく頼む。こちらの従魔は、名はあるのか?」

「はい。ブルータイガーは羅羅で、インコはピーちゃん、ニワトリスの黒い子はクロちゃんで、白い子はシロちゃんです!」


 そう言ったらチャムさんがなんとも言えない表情をした。羅羅以外の名前は安直だって言いたいのかよ。ピーちゃんは自分でピーちゃんって名乗ってるぞ。俺にネーミングセンスがないことは認めるけどな。


「そうか。羅羅、よろしく。触れてもよいだろうか? できればブラッシングもさせてもらえるとありがたい……」

「ぶらっしんぐとはなんだ?」

「毛並みをキレイに整えることだ」

「ふむ、我に痛みを与えるでないぞ」

「ありがとう!」


 羅羅に夢中な彼――シュワイさんは家の中にとって返すと大きめのブラシを持って戻ってきた。そして庭で羅羅のブラッシングを始めた。


「チャムさん……」

「……すみません、従兄弟は無類の動物好きでして。特に毛がある動物や魔物を手懐けることに憧れていたのです。なのでお金はかからないと思いますよ?」

「それはいいですけど……」


 羅羅はとても気持ちよさそうにブラッシングされている。

 もしかして羅羅、ブラッシングの魅力でシュワイさんの従魔になるとか言わないよな?

 ちょっとだけ心配になった。



ーーーーー

またクセの強そうなのが出てきたよ!(ぉぃ


お仕事多忙の為、更新滞ったらすみません(汗

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