46.圧をかけてくるニワトリスたちと冒険者ギルドで話を聞く俺
冒険者ギルドに着き、チャムさんが扉を開けた。
正面に見える受付にいた職員の一人が困ったような顔をした。もう一人は昨日はいなかった人で、目を剥いていた。チャムさんはともかく
「おはようございます」
チャムさんが受付に挨拶をする。
「……おはようございます。おい、ギルド長にブルータイガーを連れた冒険者が来ていると声をかけてこい」
昨日もいた職員がもう一人に声をかけると、もう一人は「はははいっ!?」と返事をしながら慌てたように階段を駆け上っていった。こけなきゃいいけどな。
「……別に呼ばなくても……」
「昨日の件の報告などもあるのでしょう」
ついぼやいてしまったが、チャムさんがにこやかに宥めてくれた。受付の横にある背の高いテーブルの辺りにいた冒険者たちも、人によっては一瞬剣を抜きそうになったけど抜かなかったのでよかった。確かに青虎が入ってきたら怖いよな。
「あのー……うちの従魔たちが狩ってきた獲物の解体を頼みたいので、倉庫に行きたいんですがいいですか?」
目的はそれなので受付の職員に声をかける。
「今向かった者が戻ってくるまで待ってくれ」
と言われてしまったので、背の高いテーブルのある方へ少し移動して待っていることにした。冒険者たちが顔を強張らせたが、それはもうしょうがないことだろう。
羅羅はめんどくさいと言うようにふーっとため息を吐いた。宥めるように毛を撫でる。これ、実は撫でてる方が気持ちよくない?
「おっはよーございまーす!」
と思っていたらギルドの扉が勢いよく開き、顔に軽い傷をいくつもこさえたツコソさんが飛び込んできた。
「お! オトカ君じゃないですか! 依頼を受けに来たんですかー?」
上機嫌だけど、その顔の傷はなんなんだろう。
「おはようございます。……なんで怪我してるんですか?」
ツコソさんは頭を掻いた。
「いやー、魔法の練習をしようとして町の外で走ってたら、勢い余って木に突っ込んじゃいましてねー」
「そ、そうだったんですか。手当などは……」
「いえ? こんなのつば付けとけば治るでしょ!」
ツコソさんは一瞬きょとんとした表情をし、ニカッと笑んだ。なんだかもう頭痛がしそうだった。町の外で練習するのはいいが、魔法の使い方も覚えてほしい。
「……小さい傷でも傷口が化膿することはありますから、浄化をかけておきますね……」
「お金かかりませんよね?」
「取りませんよ!」
なんで浄化魔法ぐらいでお金を取らないといけないんだ。ツコソさんの全身に浄化魔法をかけると、彼は飛び跳ねて喜んだ。
「ありがとうございます! 一回お湯代ただになったー!」
「あー……」
風呂なんてもの、ないしな。
遠い目をしていたら上に呼ばれたらしい。羅羅に乗ったままチャムさんと共に二階へ上がった。(まずうちの従魔たちが俺を下ろそうとしない)
部屋の扉をチャムさんがノックすると、「どうぞ」と副ギルド長のルマンドさんの声がした。
中に入れば、今日は二人揃っていた。
「今日は防衛隊の魔法師殿が一緒ですか」
「はい、昨夜オトカ君はうちに泊まってくれましたので。この町にいる間はうちに滞在されますのでよろしくお願いします」
チャムさんがルマンドさんににこやかに答えた。なんかこの二人、キャラが被るんだよなぁ。
「あのー、すみません。従魔たちが獲ってきた獲物を解体してほしくてきたんですけど……」
とりあえず目的を果たさせてほしい。だって俺の後ろに乗ってるシロちゃんがぎうぎうくっついてくるし。かわいいけど圧がぁ。
「お、そうか。じゃあ倉庫で話すか?」
「オトカ君、それでもいいかな?」
ギルド長のドルギさんとルマンドさんに言われて、俺は頷いた。また音が漏れないような魔法を使ってもらえれば問題ないだろう。
「はい、お願いします」
チャムさんは何か言いたげだったが、早く済ませたかったので俺は即答した。
んで、ギルドの裏の倉庫へ向かい、無事シロちゃんから残りの獲物を出してもらったのだった。
「……こ、こんなに……すごいですね……」
チャムさんが信じられない物を見るような目で獲物の山を眺めた。……うん、まさしく山だな。昨日はちょうどこの倍あった気がする。シロちゃんがふんすと得意げな顔をしているのがとてもかわいい。
「腕が鳴るぜ!」
「今日中に終わらせるからまた夕方に来い」
腕まくりをした解体専門のおじさんたちが笑っていう。そのエプロンがかなり汚れていて、昨日からとても気になるんだけど……。
やっと羅羅から下ろしてもらえたので、聞いてみた。
「……すみません、おじさんたちのエプロン汚れてるんで浄化魔法をかけてもいいですか?」
「お! ボウズは浄化持ちか! 重宝するな」
おじさんたちは快く魔法をかけさせてくれた。エプロンだけでなくおじさんたち自身もキレイになったと思う。喜んでもらえてよかったよかった。
倉庫の隅を借りて、やっと話すことにした。またルマンドさんが防音みたいな魔法をかける。臭いはもうしょうがないが、ここに直接来る人はあまりいないからちょうどいいみたいだ。
「昨日の件に関して、一応進展があってね」
「はい」
ルマンドさんが口を開いた。
みな、背もたれのない椅子に腰かけている。俺の後ろにはクロちゃんがぴっとりくっつき、横には羅羅が寝そべっている。羅羅の上にはピーちゃんとシロちゃんが乗っている。なんとも平和な光景だった。……大きさに目をつぶれば。
「行方不明だった四人のうちの二人は教会に担ぎ込まれる前にそのまま拘束したんだが、まだ二人の足取りがつかめない。もちろん他にも協力者がいて、ちょっとした問題にはなっている。それから囚われていた動物や魔物たちだが、三分の一が近隣の町や村から攫われてきたようだから今後返す流れになるだろう」
「そうですか……」
「何か聞きたいことはあるかい?」
「いえ、大丈夫です。気になったらまた改めて聞きます」
他の動物とか魔物とかの処遇は気になったけど、それは俺が聞いてもしょうがない。俺が養えるわけじゃないし。それに捕まった人たちの今後についても興味はなかった。
「あ」
逃げている人たちについては今考えてもしょうがないが、彼らの目的はなんだったのだろうかと少し気になった。ギルドに、ブラックケアオウムと称して変装魔法をかけたピーちゃんを持ってきたのは……。
「そのぅ、彼らが動物を集めていた理由って、誰かに高く売りつける為ですか?」
「簡単に言ってしまえばそうだろう」
「でも販路なんてあるんですか?」
いくらなんでもギルドの依頼だけでは賄えないだろう。
「うーん……」
ルマンドさんは少し考えるような顔をした。理由はわかっているけれども俺に言っていいのかどうか考えているみたいだ。
「隣の土地の領主が確か、珍しい魔物をコレクションしているとは聞いていますね」
チャムさんがさらりと答えた。ルマンドさんがチャムさんを睨む。
「……わかっているじゃないですか」
「オトカ君には伝えていませんよ。それでこちらのギルドにも依頼が来ているんでしょう。こちらの領主様は必要なところには惜しみなく投資してくださいますが、隣の領主様は……」
チャムさんはそこまで言って口をつぐんだ。これ以上は想像に任せるということなのだろう。
隣の土地の領主と聞いて、なんか引っかかった。俺は森を越えてきたから、今は別の領主の土地に入ってきているはずである。
「すみません、隣の領主の名前って……」
「ああ、リバクツウゴだろ。税金だけは大量に取っていくが住んでる奴らに全く還元しねえことで有名だ。おかげで森は領地に近いが冒険者もほとんどいねえ。それでこっちのギルドにたびたび依頼をよこすんだ」
ドルギさんが忌々しそうに言う。
「リバクツウゴ……」
なんか覚えにくい名前だなと思ったことがある。そういえば俺が住んでたナカ村がある土地は、ソイツの領地内にあるんじゃなかったか?
ソイツが珍しい魔物好きの領主だって、うちの家族は知っていたんだろうか? もし、知っていたとしたら……?
「その領主の土地って……」
「森の向こうの、東南の土地がそうですね。確か貧しい村が多いと聞いたことがあります」
「そうなんですか。ありがとうございます」
今はそれだけしか言えなかった。
だって、俺が自分の都合のいいように考えたいだけかもしれないだろ?
クロちゃんが何か感じ取ったのか、後ろですりすりしてくれた。ううう、うちのニワトリスがかわいくてたまらない。
「用件はそれで終わりですか。ちょっと早いですが、従兄弟のところへ行ってみませんか?」
チャムさんに声をかけられて、俺は無言で頷いたのだった。
ーーーーー
オトカの家族への見方がちょっと変わるかもしれない?(謎
次回こそはチャムさんの従兄弟が出てきます!
そこまで辿り着けなかったー。しかし今回も文字数は多いー
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