45.絶対近寄らせまいとするニワトリスと卵の話をする俺

 結論、やはりシングルベッドは狭い。


 だってニワトリスたちが一緒に寝たがるから。

 とはいえ屋根のあるところで眠れるのはサイコーだ。しかも兄たちと雑魚寝じゃないし、家もボロじゃない。ニワトリスたちが俺から離れないから部屋が狭くなったと文句を言われまくったっけ。それは悪いなとは思ったけど、ニワトリスを置いて出てけと言われたのは……。あ、思い出したらなんか腹が立ってきた。

 朝はチャムさんが寝ぼけ眼でパンを買ってきてくれたらしく、「お金を払いますから朝ごはんも用意してもらっていいですか?」と頭を下げて頼んできた。


「? 昨夜みたいな飯でよければ用意しますけど……できれば野菜とかもほしいですね~」

「買ってきます!」


 チャムさんはカッと目を見開いて、また急いで家を出て行った。……あの人料理とかしないと思うんだけどいったい何を買ってきてくれるんだろう。それだったら一緒に行った方がよかったかな。まぁ、今日は一日町を案内してもらえるんだし……とか、いろいろ考えてしまった。


「……この町には話を聞かぬやからしかおらぬのか?」


 羅羅にまで呆れられちゃってるよ……。


「……きっと魔物の肉に興奮してるんだよ。ごはんにしよう」


 チャムさんが出かけている間に庭で従魔たちにごはんをあげた。昨日解体してもらったばかりのブラックディアーの肉をクロちゃんから出してもらう。それをざっくり切り分けてあげた。ピーちゃんには森で採ってきた虹色に光る毒キノコをあげた。

 ブラックディアーの肉は本当においしいみたいで、ピーちゃんを除いたみんなはがつがつ食べた。


「おいしい?」


 と聞いたら、


「うまい!」

「オイシー」

「オトカー」

「オイシーネ!」


 と答えてくれた。クロちゃんや、それじゃ俺がごはんになっちゃうよ。クロちゃんはなんでも「オトカー」だな。超かわいいけど。

 こっちが言ってることはわかってるし、シロちゃんがいないと普通に対応してくれたりする。俺のことが好きで好きでたまらないみたいだ。うん、かわいい。ペットを溺愛する人の気持ちがよくわかる。

 従魔たちがごはんを食べ終わり、浄化魔法をかけたり洗い物をしていたらチャムさんが帰ってきた。


「ただいま戻りました!」

「おかえりなさい」


 そう返したら、チャムさんは目をきらきらさせた。なんなんだいったい。


「……いいですね。待ってる人がいるって……」


 このおっさん、いったい何を言い始めたんだ?

 クロちゃんは俺の作業の邪魔をしないようにか、俺の後ろにぴっとりくっついていた。でもチャムさんが俺に近づいてきたら、俺にくっついたままのののののと身体を動かして俺の前に移動した。何がなんでも俺から離れないクロちゃんて本当にもー。


「オトカー!」


 しかもなんか羽をバサバサさせている。影響がない範囲で威嚇してるみたいだ。かわいい。


「ああ、はい。大丈夫ですよ。一人暮らしが長いだけです」


 チャムさんはそう笑って、買ってきたらしい野菜をテーブルにどんどん置いた。

 ……村では見たことがない野菜ばっかだな。


「……チャムさん、これって名前とかわかります? 食べ方とかも聞いてきてくれました?」

「これは皮を剥いて炒めて食べるそうです。他も洗ってから炒めて食べるといいそうですよ」

「……全部炒めるって……」


 中華料理かよ、と苦笑してしまう。油は採れるみたいだ。鶏ガラスープの素が恋しいな。そういえば今朝もシロちゃんとクロちゃんは卵を産んでくれたからとっとと回収してある。

 ……卵食べたいな。でも俺一人だけで食べるわけにもいかないし……。


「チャムさんて、口は堅いですか?」


 チャムさんは顎に手をやり、考えるような顔をした。即答しない辺り誠実かもしれない。


「……堅いとはいいがたいですね。言わないでくれと言われたことは言いませんが」

「うーん」


 なんとも判断がつかない。それ以前にうちのニワトリスたちに卵をあげていいかどうか聞いてなかった。


「ちょっと待ってくださいね。シロちゃん、クロちゃん、卵、チャムさんに食べさせてもいいかな?」

「イイヨー」

「オトカー」


 二羽は即答した。クロちゃんや、それじゃ俺が食べられちゃうでしょうが。


「えっ、卵ですか!?」


 案の定チャムさんはとても喜んだ。が、ずいっと羅羅が俺に一歩近づいた。


「……主よ、そこな新参者にはシロ殿クロ殿の卵を与えるというのか?」

「あ……」


 そういえば羅羅にはまだ一度も二羽の卵を食べさせていなかった。あの時は数が少なかったから遠慮してもらったんだよな。(俺個人の事情である)というわけでまた二羽にお伺いを立てたら「イイヨー」「オトカー」と返事があった。ホント、優しいよなー。


「羅羅にはたまに1個ならいいよ。でも庭で食べてきてね」

「シロ殿、クロ殿、主よ、感謝する!」


 二羽の卵を一個渡すと、羅羅は急いで庭へ移動した。わかりやすいなと笑ってしまった。

 こんなやりとりはあったが、どうにか朝ごはんを終えた。(チャムさんには卵のことは口止めした上で食べさせた)

 今朝はボアの肉を焼いた。ボアは魔物の中では比較的獲れやすい生き物ではあるけど、やはり突進が問題になるみたいで思ったよりは手に入らないらしい。


「町では基本家畜の肉が売られています。冒険者が獲ってきた獲物は基本レストラン等でしか食べられないですね」

「そうなんですか」


 町ならもっと手に入りそうだと思ったけど、そうでもないみたいだった。

 出かける前に気になっていたことをチャムさんに聞いてみた。


「あのー……うちのインコのピーちゃんのことなんですけど、もし教えてもらえるなら教えてもらいたいことがありまして」

「はい、私の答えられる範囲でお答えしますよ」


 朝ごはんを食べてチャムさんはご機嫌だ。


「ピーちゃんは変装魔法でブラックケアオウムに見えるように外見を変えられていました。ギルドの職員の方は鑑定を使ったのに、その変装を見破れなかったのはなんででしょう?」

「……その場にいなかったので判断はつきませんが、おそらく強力な隠蔽魔法が同時にかかっていた可能性はあります」


 頷く。俺はあの時ピーちゃんに鑑定魔法をかけないでまず触れたから、その可能性はあった。変装・隠蔽・沈黙は全て状態異常魔法だ。俺が触れたことでそれが一度に無効化されたのかもしれない。うん、チートだな。


「……やっぱり隠蔽魔法がかかっていると鑑定してもわかりづらいですか?」

「……その者の魔法の熟練度にもよりますね。ギルドの職員も鑑定が使える者は使っているでしょうが、受付業務は新人にも経験の一環でさせるみたいですから」

「ああ……」


 じゃあ昨日の受付にいた職員が新人で、鑑定魔法の熟練度も低かった可能性があるのか。


「魔法って、やっぱり使えば使うほど威力が上がったりとかするものなんですかね?」

「そうですね。使えば使うほど慣れますし、それに使っていると徐々に保有魔力量も上がるみたいです。だから魔法は積極的に使った方がいいですよ」

「そうなんですか。でもそれって一般的な知識ですか?」


 誰でも知っていることなのかは気になった。


「……あくまで魔法師としての認識なので、知っている人は知っている程度の知識ではあります」

「そうか……」


 昨日少しだけ一緒だったツコソさんを思い浮かべた。町の外で身体強化魔法をそれなりに使えば、依頼の失敗も減るのではないかな。まぁ本人が考えてやることだから、俺がいちいち口を挟む必要はないだろう。


「町の案内をしていただくのはありがたいんですけど、先に冒険者ギルドに寄ってもいいですか?」

「なにかご用事でも?」

「うちの従魔たちが森で狩ってきた獲物を解体してもらうんです。あと、文字を教えてくれる人を頼みたいなって……」

「魔物の解体は大事ですね! でも文字ならこの私がお教えしますよ!」


 朝からチャムさんの食いつきがひどい。


「オトカー!」


 クロちゃんは俺が腰かけている椅子の後ろにくっついていたが、横に移動してチャムさんをつつく真似をした。


「おっと……すみません。つい……」

「チャムさん、今日はお休みですけど普段は働いてるじゃないですか……」

「そうですね……でしたら従兄弟を紹介しましょう。五軒隣に住んでいまして、私よりも魔法の扱いには長けているのですが引きこもりなのです」

「……はぁ。偏屈な人だったら、嫌ですよ」

「会ってから判断していただいてかまいません。基本は昼まで寝ていますから先に冒険者ギルドへ参りましょう!」


 というわけでまずは羅羅の背中に乗せられて、冒険者ギルドへ向かったのだった。



ーーーーー

一話辺りの文字数がどんどん増えるのは何故なんだ。。。

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