44.焼いた肉も食べるニワトリスたちと調理する俺
再びチャムさんの家に入り、居間を通りすぎて一番手前の部屋を見せられた。
「一応荷物は全てどかしました。これから掃除しますから、できればオトカ君には夕飯の準備をしてもらえると……とってもありがたいです。それでもし魔物の肉を使ってもらえたら……もちろんお金は払いますので!」
チャムさんの食いつきがひどい。
「チカーイ」
俺の目の前に陣取っているクロちゃんがチャムさんに注意をした。嘴を突き出す動きをしたのでチャムさんが慌てて下がる。クロちゃんは一応いきなりつつかないでくれるみたいだ。
部屋にはシングルベッドが一つとチェストが一台置かれているだけだ。急いで荷物だけ撤去したのか、床もベッドもほこり等で汚れているように見える。でも俺には浄化魔法があるしな。
「チャムさん、浄化魔法は使えますか?」
「いえ、使えたらよかったんですけど私には使えないんですよ」
チャムさんが残念そうに答える。やはり男性で使える人は少ないみたいだ。
「僕浄化魔法は使えるのでキレイにしますね。塊等のごみがあったら片付けはお願いします」
「本当ですか? とても助かります!」
チャムさんの目が輝いた。やっぱ浄化魔法って使えるよなー。というわけで気分よく部屋の浄化を行い、チャムさんが他のごみなどの片付けをしている間にキッチンを借りることにした。
キッチンを使うなんて実は初めてだったりする。チャムさんは魔法師だから魔道具とか持っているんだろうかと少しわくわくした。
……一応コンロのような物はあったが、魔力を流すと火が点くというだけである。火力の調整などは自分の魔力の流し方で調整するらしい。
もちろん火が簡単に点くというのは素晴らしい。だが魔法は使えても魔力だけを流すというのをほとんどしたことがない俺は、少し手間取った。
「ピーチャン、ヤルー!」
ピーちゃんが申し出てくれたので試しにやってもらったら、ボッ! と一歩間違えたら家が燃えそうなぐらい大きな火が出た。あと半歩近づいていたら髪が焼けそうだった。とても危ない。
「ピーちゃん、ありがとう。止めてね……」
「ハーイ!」
ピーちゃんは素直に魔力を流すのを止めた。この素直さはいいな。
ところでピーちゃんの魔力量ってどんだけあるんだろう。さすがに鑑定では魔力量はわからなかった。そういうのも鑑定していくうちに見えるようになったりするのかな。
とりあえずお世話になるからと、クロちゃんに隣にいてもらって俺のアイテムボックスからニシ村で解体してもらったブラックディアーの肉を出した。あの頃にニワトリスたちが狩ってきたブラックディアーは1頭だけだったけど、その1頭からかなりの肉が獲れたようである。実はアイテムボックスの中にまだある。
それを薄切りにして森の中で見つけた塩と胡椒を揉み込んでおく。そういえば炭水化物がない。アイテムボックスから普通の人でも食べられるキノコと草を出した。
この草はできれば茹でた方がうまい。
「チャムさん、鍋ってありますかー?」
「たぶん棚の上にありますー」
台所の横の棚を開けたら新品に近い鍋やフライパンが入っていた。チャムさんは調理をしない人らしい。
「チャムさん、パンってあります?」
「今朝買ってきたのが籠の中に入ってますー」
棚の上に籠があり、その中を見ると一人分にしては多い量が入っていた。フランスパンっぽいパンである。イコールではないだろうけど。
「これって俺も食べていいかんじですかー?」
「いいかんじですー」
自分の言い方もどうかと思ったが、チャムさんがそのまま返してくれたのが面白かった。
水は建物の裏の井戸で汲み、鍋を火にかけて草を茹でる。一度軽く茹でてあくをとってから、改めて塩胡椒を入れてスープを作成。コンロ(?)は二口あったので、もう片方で軽くパンをあぶり、その後フライパンでブラックディアーとキノコを焼いた。
とりあえずできたかな? と思った頃、チャムさんも片付けを終えたみたいだった。
「と、とてもいい香りが……」
「ごはんできましたよー」
「おおおおお……」
「僕が作ったものですから、大したものじゃないですけどね」
チャムさんは食卓を見て目を見開いた。
一応パンは食べやすい大きさに切った。お皿は棚の中にある物に浄化をかけて使わせてもらった。とてもキレイな器がいっぱいあり、おそらくもらいものなのかと思われた。
「な、なんと豪勢な……素晴らしいです!」
「じゃあ食べましょう」
手を祈る形に合わせて食べ始めた。
ピーちゃんはパンを食べるみたいなので少しあげた。羅羅とニワトリスたちがテーブルの横でじーっとこちらを見ているので、「少しだけだよ」と焼いたブラックディアーの肉を一切れずつあげた。魔物を狩ってくれるのはうちの子たちだしな。多めに焼いておいてよかった。
「うむ、焼いたものもうまい」
「オイシーイ」
「オトカー」
「アリガトー」
「……最高です……」
クロちゃんや、それじゃ俺がごはんになってるって。
チャムさんは涙を流しながら肉をかみしめるようにして食べていた。
「……これはブラックディアーの肉でしょうか。今朝隊長から自慢をされて、みな涎が止まりませんでしたよ……」
「あー、でもそんなに量はないですよ?」
牽制しておかないと際限なく求められそうだ。チャムさんがうんうんと頷く。
「……十分です。オトカ君、このままうちに住みませんか?」
「……旅をしたいのでそれはちょっと」
うちの面々を考えたら町に住むのは得策とはいえない。いちいち怖がられるのも面倒だし、何よりも窮屈だろう。
「で、では……この町にいる間だけでもうちに住みませんか!?」
「それはありがたいですけど……いつこの町を出るかはわかりませんよ?」
「それでもかまいませんっ!」
チャムさんの食いつきが激しい。
明日はチャムさんが休みだというので、町の案内をしてくれると言うしいろいろ教えてもらうことになった。
で、やっと貸してもらった部屋に入りピーちゃんの能力を確認することにした。
「ピーちゃん、ホントすごい能力持ちだったんだなー……」
「ンー?」
ピーちゃんが羅羅の頭の上でコキャッと首を傾げた。
表での鑑定の結果、感知魔法と隠蔽魔法、そして風、火、治癒魔法を持っていることがわかったのだ。
隠蔽魔法は自分が隠れるのと、つついた物を隠す能力らしい。おとなしい魔物なので、他の魔物などに襲われない為だろう。
そして空を飛ぶからか風魔法があり、火魔法は小さい火を出せるぐらいらしい。でも火種を出してくれるのは助かるから重宝しそうだ。
そして最後に治癒魔法。使うととてもおなかがすくらしいのだが、簡単な怪我ぐらいならその魔法を使えば治ってしまうという。
なんというチート、と俺は額を押さえて天を仰いだ。
んで、そんな隠蔽魔法なんてすごいものを持っているのに何故例の誘拐犯に捕まってしまったのかというと、低い木の上で寝ている間に攫われてしまったみたいだ。たまたま隠蔽魔法をかけて寝るのを怠った結果らしい。
まったくもって油断大敵である。
「……ピーちゃん、気を付けてね……」
「ワカッター!」
とてもいい返事だったが、やっぱり心配だなぁと思ったのだった。
ーーーーー
なんてチート。
次回、何故ギルド職員が変装魔法を見抜けなかったのかが明らかに。
こうご期待!
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