43.腹を空かせたニワトリスたちと今晩の宿を得た俺

 受け取った毛皮と皮は、それぞれ防寒着と皮鎧のような物に加工してもらうつもりだ。

 きっとその加工費がかなりするに違いない。だからそう、今回もらった金額は多いわけではないのだと思うことにした。ようは無駄遣い防止である。

 それに俺が魔物を狩ったわけじゃないしな。うちの羅羅ルオルオとシロちゃんのおかげだ。それは絶対に忘れないようにしたい。


「主よ、着いたぞ」

「あ、うん。羅羅、ありがとう」


 羅羅の背で揺られている間に防衛隊の詰所に到着したようだ。俺はハッとして羅羅から降りた。ピーちゃんは羅羅の頭の上から背に移動する。クロちゃんとシロちゃんは俺と一緒に降りた。そしてやっぱり俺の前後に付く。ちょっと歩きづらいんだけどかわいくてしかたない。(どうしても歩きづらい時はクロちゃんをだっこすることで対応している)

 詰所の前にいた防衛隊の隊員が、「厄介なのがきた」みたいな表情をした。

 失礼な。俺はただ迷子のペットを探しに行っただけだぞ。


「こんにちは。チャムさんいらっしゃいますか?」


 にっこりして、無邪気に聞いてみる。こういう時子どもって便利だと思う。いや、実際に俺は十歳の子どもなんだけどさ。


「あ、ああ……待ってくれ」


 隊員は詰所の中に声をかけた。


「魔法師殿はいらっしゃるか?」

「もう少ししたら戻ってきます」


 どうやらまだどこかで作業中らしい。


「不在だそうだ」

「どれぐらいでお戻りですかね? 今夜はチャムさんのところに泊めてもらうことになっているんですけど」


 そう伝えると、「なら入って待っててくれ」と中に通されてしまった。一応水だけもらえないかと聞いたら、自分で汲んでくれと井戸へと案内された。防衛隊の詰所の裏に井戸があった。


「ありがたくいただこうねー」


 水を汲んで浄化をかけ、従魔たちに水を飲ませる。ピーちゃんには俺のコップを洗ってから飲んでもらった。専用のコップというか器を買った方がいいな。

 俺が住んでた村も水には困らなかったけど、ここも水が豊富でいいよな。質はともかくとして。

 そういえばこの町自体どこに何があるかさっぱりわからない。チャムさんが戻ってきたら雑貨屋とかどこにあるか聞いてみよう。

 水を飲んでからはまた案内された部屋でくつろいでいた。部屋の外はまだバタバタしているみたいだ。あの建物の案件もあるのかもしれないけど、きっとそれだけじゃないよな。

 寝そべっている羅羅の上に乗ったまま、後ろにシロちゃん、前にクロちゃんがいる。そのクロちゃんをだっこしてもふもふしていた。ピーちゃんは羅羅の頭の上だ。そこがすっかり定位置になったらしい。

 おかしいな。俺昨日この町に来たばっかだぞ?

 なんでもうこんな、何日も経ったような気になっているんだろうと首を傾げ、チャムさんが戻ってくるのを待ったのだった。



「……もう日が暮れたよなぁ」


 クロちゃんをもふもふしながら呟く。

 いつもこんなに仕事してるのかなと思ったら、ノックする音と共にバッと扉が開いた。


「っはー、はー……すみません、お待たせしてしまいました……」


 息が上がっている。チャムさんだった。


「……大丈夫ですか?」


 さすがに声をかける。


「だ、大丈夫、と言えば大丈夫です……」

「主よ、我は腹が減った」

「ゴハンー」

「オトカー」

「ゴハンー」


 羅羅が口を開いたらみんなで言い始めるのはどうなんだ? わかりやすくていいけど。あとクロちゃんや、俺はごはんにしないでね?


「えー、もうちょっと待とうよ。ここで食べるわけにはいかないじゃん」


 そう言ったら「ゴハンー!」の合唱がひどくなった。まぁ魔物に我慢しろっていう方が無理だよね。


「えっと、この書類1枚だけ提出したら帰れますから、あと少しだけお待ちください! うちに招待しますので!」


 チャムさんは持っていた書類を急いで書くと、俺たちに付いてくるように言って詰所を出た。書類は詰所に入ったすぐのところにいる隊員に投げるようにして。


「ちょっ、魔法師殿!?」

「隊長に渡しておいてください!」


 あんな対応でいいのかと遠い目をしそうになったけど、うちの従魔たちも空腹だから急いでもらえるのはありがたかった。


「身体強化魔法をかけますので、走ってもらってもけっこうですよ。私に付いてきてください!」

「わかった」

「って、えええええ?」


 チャムさんはわざわざ自分に身体強化魔法をかけ、往来を走った。その後ろを羅羅が追う。羅羅が先頭よりはスピードは出ていなかったけど、それでも速い。チャムさんてばどんだけ魔物の肉が食べたいんだよおおおお!

 というわけで、すぐにバラヌンフさんのお宅の近くに到着した。チャムさんのお宅はバラヌンフさんの四軒隣なのだそうだ。ご近所さんである。


「どうぞ、ここが私の家です。何日いてもらってもかまいませんからね~」


 チャムさんはウキウキしていた。


「あ、はい……お邪魔します」

「これでも精いっぱい掃除したんですけど……」


 そう言って通された家の中は、物で溢れかえっていた。


「……どっか宿屋を探します」


 思わず俺はチベスナ顔になってしまったと思う。そして羅羅を促し踵を返そうとした。


「ま、待って待って! 待ってくださいよー!」

「これじゃとても僕たちが寝るスペースとかないじゃないですか」

「今しまいますから!」


 チャムさんはそう言ったかと思うと、あるカバンの中に居間を埋め尽くしていた物をしまってしまった。


「……え?」

「初めからこうすればよかったのですね。でもマジックバッグにも容量というものがありまして……」


 チャムさんがなんか言っている。どうやらチャムさんはマジックバッグ持ちらしい。


「……飯はまだか」


 そんなことはどうでもいいとばかりに、羅羅が口を開いた。かなりいらいらしているようである。


「すみません、こちらの部屋を使ってもらってかまいませんから!」


 チャムさんに居間の部分を指されてそう言われたけど、従魔の食事はけっこう汚れるので庭を貸してもらうことにした。その間にチャムさんには家の中を片付けてもらうことにする。


「お待たせ」

「……全く、町の中というのは面倒なものよのぅ」


 羅羅が忌々しそうに言うのに笑ってしまった。

 俺はニシ村で解体してもらった肉を中心に、今日解体してもらった肉も軽く切り分けて羅羅とニワトリスたちに出した。簡易な台とかまな板とかも自分で作っておいてよかったよな。


「みんな、お疲れ様。ピーちゃんは、この草食べてみる? ちょっと毒があるんだけど……」


 少しだけ毒を含んだ草である。ピーちゃんが嫌がるようならあげるつもりはない。


「タベルー!」


 ピーちゃんは草をおいしそうに摘まんだ。


「大丈夫?」

「オイシー」

「ちょっと鑑定させてね」


 オイシーって言いながら毒状態になってたらやだし。と思って鑑定したら、状態は正常でほっとしたんだけどけっこうすごいのが出てきた。インコって実はチートの塊? 驚いたのはそれだけではなかった。


「えっ? ピーちゃんもう二十年も生きてんの!?」

「ンー?」


 コキャッとかわいく首を傾げられてしまったが、ピーちゃんは二十歳みたいだ。ちなみに羅羅はあんな偉そうな話し方をしているが十五歳である。まだまだ若い。もちろん一番若いのはうちのシロちゃんとクロちゃんである。

 しっかし魔物とはいえ御年三歳の嬢ちゃんたちに養われてんのか俺。なんとも情けない話だ。

 でも村にいた時は村のみんなもうちのニワトリスたちの恩恵は受けてたわけで……。ま、そういうことにしておこう。(何がそういうことなんだとかいうツッコミはなしで頼みたい)

 うちの家族、どーしてっかなー。

 母さんのことだけは気になるけど、うちの村で字が書けるのは村長の家族と雑貨屋のばあちゃんぐらいだったし、もちろんみんな字なんて読めなかったと思う。字を習ったとしても、手紙を書いても意味ないよな。

 ま、どちらにせよ十三になったら独り立ちしなきゃいけなかったんだし、それが早まっただけだ。

 そんなことを考えながら従魔たちの食事を見守っていたら、家の中から声がかかった。


「片付け終わりましたので、食べ終わり次第中にどうぞー。一部屋空けましたから寝られますよー」

「ありがとうございますー」


 全部物でいっぱいだったのかな。ほこりとかはなかったから、掃除自体はしたのかもしれないが。そもそもいられるスペースがないと困るよなぁ。

 そうしてみんながおなかいっぱいになるまで食べさせてから、やっと俺はチャムさんの家に入ったのだった。



ーーーーー

チャムさんが掃除をしたのは主に荷物の埃取りでした。そうじゃなくて荷物の片付けー。

次回、インコのとんでもな能力が明らかに!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る