39.お昼ご飯を食べるニワトリスたちと顛末を話す俺
倉庫ではおじさんたちがいろいろ解体している。
お昼ご飯はもう食べたみたいだ。
その横で詳しい話をするのはどうかと思ったけど、ルマンドさんがこの一角になんらかの魔法をかけたみたいだ。(ごはんを食べているのはもう今更だ)
「一応、これでここにいる者たち以外には聞かれはしない。さあ、話してもらおうか」
ルマンドさんの笑顔が怖い。目が笑ってない。
俺はぷるぷる震えながら事の顛末を話した。
「うーん……まぁ対応としては間違っちゃいねえな。防衛隊に訴えられても対処はできなかっただろうし、うちでもただ訴えられてもなぁ……」
ドルギさんが俺を見る。
「……今時の十歳っつーのはこんなに賢いもんか?」
内心ギクッとした。でも中身はともかくれっきとした十歳だから、俺はきょとんとした顔をしてみせた。
「それなりに苦労してきているんでしょう。オトカ君の年齢はともかく、動物たちは地下室に囚われていたんだね?」
ルマンドさんは丁寧な言葉とそうでない言葉がいったりきたりしているかんじだ。相手とか場面によって使い分けているんだろうな。ギルド長とかそれなりの相手、そして初対面には丁寧だけど、みたいな。ま、そんなことどうでもいいか。
「はい。一応動物たちには浄化をかけてきたんですけど、その……さすがに排泄をした壺までは。なので地下室に降りたら臭うと思います」
注意はしておく。
「無力化したのはその場に一部縛って置いてきたのか。七人だったな」
「麻痺はしているので、縄を解かれたとしても自力では動けないはずです」
ドルギさんがうーんと唸った。
「他に仲間はいなかったんだな?」
「ごめんなさい。そこまで確認はしませんでした」
「しょうがねえか。麻痺してるっつー話ならそれこそ麻痺を解除させなきゃいけねえ。そもそも麻痺を解除する魔法を持ってる奴の方が稀だからな。一応教会に声かけもしねえとな。じゃあ、ちゃっちゃと仕事すっか!」
ドルギさんがルマンドさんと共に立ち上がった。
「あ、あの、すみません。この子はどうしましょう……」
大麦をおいしそうに食べているインコについて聞いてみる。犬と猫はそのまま依頼者に返せばいいだろうけど、このインコについては何か依頼が出ていないのかな?
「ああ……なんか迷子ペットとかでインコはあったか?」
「確認しましたがありませんでした」
「つーわけだ。俺たちはこれから忙しくなるから好きにしてくれ。日が暮れる前には防衛隊の詰所へ行くんだろ?」
「ええ、まぁ……」
二人はそう言い残すと倉庫を出て行った。
「……体よく押し付けられたな」
「……そうみたいだね」
食べ終えた従魔と、犬と猫には浄化をかけた。途端に羅羅と猫が毛づくろいを始める。キレイになったはいいけど、なんか落ち着かないみたいだ。こういうところがネコ科なんだろうかと思ったりした。でも誰かが毛づくろいを始めると伝染するのか、みんなして毛づくろいを始めるのがかわいい。カメラがほしい。
「おーい、あんまりそこで毛づくろいするなよー。掃除していけー」
解体しているおじさんたちに苦情を言われてしまった。
「はーい、ごめんなさいー」
というわけでごはんも食べ終えたから掃除をして倉庫を出た。食器をギルドの酒瓶が並んでいる前のカウンターに戻しにいく。歩きづらいんだけど後ろにはクロちゃんがへばりつき、そのクロちゃんの背にはインコが乗っていた。
「ごちそうさまでした」
「おう、今度は自腹で食ってくれよ」
「はーい」
受付の職員は俺たちを見るとひきつった顔をするのだけど、飲み物などを出すカウンターにいるおじさんは俺たちを見てもなんとも思わないみたいだ。
羅羅と犬猫、シロちゃんはギルドの前にいてもらっている。ギルドの屋根からは、どうやったのか青年が三人ぐるぐる巻きにされて吊るされていた。本当に吊るしたらしい。こわっ。
「外にブルータイガーとニワトリスがいると思ったら、オトカ君じゃないですか。依頼、もう終わったんです?」
ツコソさんがギルドに入ってきて俺たちの姿に気付いた。
「あー、これからです。ツコソさんは?」
「手続きしてくれたんですよね?」
「あ、忘れてました」
「えーっ?」
「今しますね」
ツコソさんの件どころではなかったんだよな、実際。クロちゃんを背中にくっつけたまま受付へ。
「ツコソさん、ちゃんと僕のことを依頼人のところまで案内してくれました」
「わ、わかりました。ツコソさん、どうぞ」
職員の顔はやっぱりひきつっている。あんまり大きい魔物って見たことないのかな。
「ありがとうございまーす! やった三日短縮されたぞー! 明日からまた受けられるー! オトカ君、ありがとう!」
そう言って、ツコソさんは笑顔でギルドを出て行った。
「……あれ、大丈夫なんですか?」
「……あと三回依頼を失敗したら、一か月停止ですね。さすがにもう温情はなしです」
職員が淡々と言う。
そうだよなぁ。さすがに失敗ばかりする冒険者なんていらないよなぁ。
地道に薬草とか摘んでいればいいのに、冒険者という肩書に魅せられてしまった人なんだろうか。俺もそれには大差ないんだけどさ。
さて、依頼人に犬と猫を返しに行きますか。
ってことで、時間短縮も含めて羅羅の背に乗せてもらって行ってきた。
「えっ? もう見つけてくれたの!?」
猫を連れて行ったら、女の子はとっても喜んでくれた。
「まぁ……こんなに早く見つけてくれるなんて、ありがとうね! はい、サインよ。それから、よかったらこれも持って行ってちょうだい!」
女の子のお母さんも目を輝かせて、依頼証(木札)にサインをくれた後パンにハムを挟んだものをくれた。精いっぱいのお礼なのだろう。それはありがたくいただいた。
そうして今度は男の子の家へ犬を届けに。
「こ、こんなに早く見つかるなら、なんでもっと早く依頼を受けなかったんだよ!」
何故か逆切れされた。
「すみません。この町に来たのはつい昨日のことなんで……」
「せっかく見つけてくれたのになんてことを言うんだ!」
犬にじゃれつかれながら親に説教をされていたけど、とても嬉しそうだったからよかった。依頼証にサインをもらい、お礼だと銅貨を1枚もらってしまった。チップの代わりということでこちらもありがたく受け取った。
本当は固辞した方がよかったのかもしれないが、そんな作法子どもの俺は知らないしね。
ってことで依頼を完了したらまたギルドに戻るんだけど、その前に……。
インコのピーちゃんは当たり前のように羅羅の頭の上に留まっている。
「ピーちゃんってさ、どっかの家に飼われてたんじゃないのか? 家に帰らなくていいの?」
冒険者ギルドには探してほしいとかの依頼はなかったみたいだけど、もう自由なんだしさ。
それまで静かにしていてくれたインコは口を開いた。
「ピーチャン、カイヌシー、トオクー。オトカー、ニワトリスー、デッカイノー、イッショー!」
「えええええ?」
飼い主が遠くにいるから俺たちと一緒ってどういうこと?
俺は思わず羅羅とニワトリスたちを見てしまったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます